夜間中学その日その日 （980） 砦通信編集委員会

畝傍夜間中学生の交流活動　　　　　　　　　　　2024.07.15

　 奈良県橿原市立畝傍中学と畝傍夜間中学は同じ敷地にはない。約1.5km離れている。梅雨の晴れ間の7/12、夜間中学に畝傍中学の生徒会執行部の子どもたちが訪れた。昨年に続いて､夜間中学生の横に座って、夜間中学の授業を体験し、交流を深めた。

　6～8の机を四角形に並べ､教員がその中心に座り､複数の夜間中学生と学習を進める､個別学習の形態がとられていた。1対1で説明が終わると､教員は向きを変え、別の夜間中学生と1対1で説明を進めていく。この日は､夜間中学生の横に来校した昼の中学生が座り、教材に向き合いながら、学習が進んでいく。日本語の語彙の理解が十分でない夜間中学生との間で、分からない言葉を別の言葉で言い換えながら、その言葉を紙に書き、スマホの翻訳機能を介して、会話を行なっていた。意味が通じ合ったとき､笑顔で頷きあっていた。

　いつの間にか､教材を離れて､話しが進んでいる。顔を赤らめ、ゆっくりと話し合っているグループもある。夜間中学生は昼の中学生に､自分の13～14才の頃のことを話し始めている。ある夜間中学生は右隣に座った小学生の自分の子どもの様子を見ながら、左隣に座った昼の中学生と学習を進めている。担当の先生はこの三名に向き合っている。

　小学生の子どもに､母親の学ぶ姿と夜間中学で学ぶ人たちの姿を見せておきたいという意図があるのかもしれない。このような学習スタイルは畝傍夜間中学の長いあゆみから生まれ出たのであろう。

　2024年4月、全国で11校の夜間中学があゆみを刻みはじめたが､夜間中学生の実態に制度をあわせて創造していく、この進め方はすんなりと理解出来ないかもしれない。教育行政の担当者はこのような学習スタイルを導入する現場の進め方の試行錯誤を受けとめていかないと夜間中学の存在意義が半減してしまうと考える。昼の仕事を終え、子どもを一人、家に置いて､夜間中学に行くことができない、しかし子どもと一緒に夜間中学に行っても､迷惑をかけるかもしれない。こんな逡巡を経て通学している。「そんなことをしてもらっては困ります。子どもさんが大きくなって、一人で家におれるようになってから来て下さい」と言い出すであろう人の姿が脳裏をよぎった。この雰囲気を昼の子どもたちはどのように受けとめたのだろう。

　鐘が鳴って､中断しにくく、どのグループも促されて別室に移動した。畝傍夜間中学の縁の下の力持ち「畝傍夜間中学つくり育てる会」が準備した軽食が並べられている。夜間中学卒業後も､毎週土曜日、畝傍夜間中学で学習の場「ひびき」のとりくみに集まっている､卒業生､元教員の皆さんが準備された。

　ギネスには世界共通の基準がないと認定が実現しなかったが、96才最高齢の(夜間)中学生、88才喜寿を迎えた夜間中学卒業生二人、車椅子の卒業生も参加されている。自主夜間中学の発足時から参加されていた申順連さんの参加は実現しなかった。

　「橿原自主夜中の歌」は申さんの作詞・作曲だ。「われらは橿原の　夜中の生徒　雨の日も　風の日も　休まずに　文字を取り戻すまで　頑張ろう　昼間は仕事で　しんどいけれど　私たちのために　先生方も　汗を流して　かけつけてくれる」。橿原自主夜中の歌の1番の歌詞だ。公立化した「畝傍夜間中学の歌」は太字の部分を「明日への希望　胸に抱いて　友と一緒に　今宵も励む」として歌われている。学級歌がくり返しBGMで流れていた。　

　夜間の生徒会長の挨拶の一部を紹介する。「最初に　育てる会の皆さま、今日は本当にありがとうございます。育てる会のみなさまが　いつも私たちの後ろにいてくれているから､安心して勉強することができています。今日のおいしそうな食事の準備もしていただいてありがとうございます。(中略)昼間の中学生のみなさんも､引きつづき同じ畝傍中学校の仲間として一緒にがんばっていきましょう。きょうは本当にありがとうございました」

　昼の生徒会長も「年齢も､国籍もさまざまな人たちが、どのように勉強されているのかと思って来ました。いっしょに勉強できて、大切な経験をすることができました。それぞれの目標に向かってがんばっていきましょう。きょうは本当にありがとうございました」

　この日の交流は参加した人たちにさまざまな問いかけがあったのではないか、次の行動に結びつく学びを学習者だけではない､教員も学ぶことが出来たはずだ。筆者も案内をいただいて､参加できた。この様子を自分だけにとどめておくことができない気持ちでキーボードをたたいている。きょうのとりくみが､明日のとりくみに繫がっていく、何が生まれてくるのだろう、期待でいっぱいだ。