夜間中学その日その日 (519) Journalist World ジャーナリスト・ワールド
- アリ通信編集委員会
- 2017年11月5日
- 読了時間: 3分
特別展「夜間中学生展」(6)『わらじ通信』
夜間中学生歴史砦の私たちは展示について説明を加えたり、来館者の質問を受けたりしている。私の場合、頃合いを見計らって、「少し説明しますね」と言って、キャプションだけでは伝わりにくい部分を説明するようにしている。「生きる」の章の最後の壁面は、下の斜面台に目が行くと、うっかり見過ごして行かれる人が多いことがわかった。壁面には460枚を超える官製葉書が隙間なく展示している。バックの壁面の色と変らず、何も展示されていないと勘違いをしてしまうのだ。

髙野さんの映画を上映し、ビラや文集を届ける全国行脚は青森・北海道・岡山・京都そして大阪と1967年9月5日から1969年6月8日までつづく。行く先々から、1日も欠かさず、その日の行動、出逢い、出来事を官製葉書の表裏にしたため、母校の荒川九中の在校生に送り届けたものである。「わらじ通信」と名付けられた葉書は教室で紹介され、髙野さんの活動を在校生も共有し夜間中学開設運動を支えた。後にこの葉書は髙野さんに返還されたが、何枚かはなくなったという。しかし、「わらじ通信」は1枚もかけることなく復元され展示されている。なぜか。
髙野さんは、葉書に書くだけでなく、投函する前に、ノートに書き写し、その控えをとっていたという。なくなった葉書は同じ大きさの紙に書き写して復元したという。葉書を書き上げ、ノートに控えをとって、葉書を投函する時にはカレンダーが変っていた日も多かったのではないか。よく注意してみると、紙の色が異なるから後で書き写したものと官製葉書と区別はできる。駅のベンチを机に書いたことも多くあったと言っていた。こんな苦労の積み重ねによって、髙野さんだけでなく、多くの人たちの連帯と知恵と力らの結集により開設が実現したのが天王寺夜間中学である。
「官製葉書に書かれた文字数はどのぐらいやろう?」と見学者同士の会話が聞こえてきた。私たちも数えたことがなかった。実はこの葉書をタイプ打ちにしたものが『자립(チァリプ)』に収録されている。号外も入れて461枚、459880字。葉書一枚あたり997字、約1000字。控えをとっているから、実際はこの倍、90万字ということになる。
それにしても、全国行脚の期間、446日、一日も欠かすことなく「わらじ通信」を書き、母校に送り届けた精神力を表す言葉が見つからない。葉書を書くだけではない、上映会場を決め、ビラを配り、映写機の手配をするなど、さまざまな行動を自ら実践しながらその行動を記録した。
そんな説明を加えながら、来館者と向き合っている。夜間中学生展のサブタイトル「学ぶたびくやしく、学ぶたびうれしく」について、「学ぶたびうれしく」の説明が多くなっていることを反省している。これだけでは美談になってしまうのだ。「学ぶたびくやしく」の部分をどのように届けるか、夜間中学生が書いた文字やコトバに想いを馳せ、口惜しさを共有できる来館者の感性も要求される。来館者の目線と夜間中学生の目線が一致したとき、夜間中学生のメッセージが伝わると考えている。そんなキャッチボールが、夜間中学開設への原動力になると考えている。
昼の義務教育であれば、就学通知が来る。夜間中学生には就学通知は来ない。学習者が、募集活動をおこない、入学希望者が入学手続きをおこなうことを経て夜間中学が維持されるのだ。当事者の学びたいという立ち上がりが夜間中学開設への一番の近道である。そんな特別展を追求したい。出逢いは新たな歴史をつくる。