夜間中学その日その日 (872) 白井善吾
- journalistworld0
- 2023年2月19日
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「学び直し」について 2023.02.20
戦後の夜間中学の出発は15歳までの学齢の子どもにもかかわらず、主に経済的な理由から、働き、家計を助け、昼通学できない子どもたちが夜学べる学校として出発した。その先駆けは、大阪市立生野第二中学校「夕間学級」。統合により勝山中学、そして桃谷中学校と名前を変えた。1947年10月1日、「不就学生が多数になるに鑑み夕方学級を組織してこれ等生徒の救済を行なうため、本日より一週二回の授業を開始」と学校沿革史にある。しかし、文部省により、わずか3年間でつぶされた。

髙野雅夫氏は東京都荒川区立第九中学校夜間学級の7期生で同級生は18人(15歳7名、16歳2名、17歳5名、19歳、20歳、24歳、27歳各1名)で、1964年3月18日卒業だ。在学中に学齢をすぎていた人は19歳以上の4名である。
生野第二中学夕間学級から始まり、1968年以前にあった夜間中学は昼学ぶことができない学齢者が学ぶところとして出発した。そして学齢者に混じり、15歳を過ぎた人たちも学べる学校であった。1968年に開校した京都の郁文(夜間)中学以降、学齢の子どもは昼へ、学齢超過の人たちが学ぶところという方針を当時の文部省担当者が強く打ち出した。
18回全国夜間中学校研究大会(1971年11月26~27日)では参加した夜間中学生が形式中学校卒と学齢の子どもたちの夜間中学入学を認めるよう、出席した文科省中学校課中島章夫課長補佐に2年越しの回答を求めた。長いやりとりの末、「学習したい人には学習の機会を与えるべきではないか」と形式中学校卒の人たちの夜間中学入学を認めさせた。しかし、学齢の子どもたちの入学については論議ができなかった。
18回大会資料集には1971年度の学齢者と学齢超過者の実態が収録されている。
学齢者/学齢超過者
東京都 41名/219名。 神奈川県 6名/35名。 京都府 0名/16名。
大阪府 0名/228名 。 兵庫県 1名/36名。 広島県 6名/59名。合計 54名/593名 。
全体で667名のうち学齢超過者が89.1%の593名
時間の経過とともに、夜間中学現場から学齢の子どもたちの姿はなくなった。形式卒業者の入学も、80年代なかば過ぎには、「卒業証書を2枚発行するという公権力の行使」の問題点を挙げ、形式中学校卒の夜間中学入学は皆無となった。80年なかば以降、全夜中研の大会決議で形式中学校卒の人たちの夜間中学入学を認める項目を掲げ、文部省、文科省と議論を行なってきていた。
その文科省の回答は判を押したように、「制度上すでに中学校を卒業いただいた方につきましては、再び中学校に入学という形をとることはできません。そういう制度になってございます」(2005.12.9)であった。
それが、2015年7月30日付けの文部科学省初等中等教育局初等中等教育企画課長が都道府県・政令指定都市教育長あてに出した、「義務教育修了者が中学校夜間学級への再入学を希望した 場合の対応に関する考え方について(通知)」文書は「‥『中学校を卒業していない場合は就学を許可して差し支えない』との考え方を示してきましたが,一度中学校を卒業した者が再入学を希望した場合の考え方については明確に示していなかったところです」さらに「中学校夜間学級に入学を希望しても,一度中学校を卒業したことを理由に基本的に入学を許されていないという実態が生じています」「入学希望既卒者については,義務教育を受ける機会を実質的に確保する観点から,一定の要件の下,夜間中学での受入れを可能とすることが適当であると考えられます」と述べ、入学できるといっている。それまで自分たちが言ってきたことをかなぐり捨て、まるで自分たちは関係なかったかのような言い方で、180度方針を変更した。
文科省の通知文で私は「既卒者」の語彙を知った。それまで使ったことがない語彙である。それまで私たちは「形式中学卒」「形式卒」を使っていた (「夜間中学その日その日 848」)。そして次ぎに出てきた用語が「学び直し」だ。「育休中に学び直しを・・」と発言し、認識の軽さを問われている方もある。
この「学び直し」は次の理由で使用できない用語だ。どうして学び直しをしなければならないのか。学齢時、どうして義務教育を完全保障されなかったのか?本人や家庭に原因があり、それを果たさなかった個人が問題だとする考え方を反映した用語ではないか。政治や社会や学校が果たす役割が原因の一端はないのか。それを曖昧にして、個人の問題にしてしまおうとする考え方を定着させてしまう用語ではないのか。教育行政が用いる語彙ではない。「既卒」や「学び直し」でなく「形式中学卒」を用いるべきではないだろうか。
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