夜間中学その日その日 (460) 白井 善吾 Journalist Worldジャーナリスト ワールド
- 白井 善吾
- 2016年8月7日
- 読了時間: 4分

夜間中学書籍解題 山本悦子著『夜間中学へようこそ』(岩崎書店)
「私も4月から学校だから」ある日、突然おばあちゃんがこのように言った。「おばあちゃんが私と同じ中学1年生!?」と沢田優菜。
祖母 沢田幸(さち)の夜間中学への入学宣言から物語が始まる。
祖母が夜間中学の存在を知ったのは、幸の夫と病院へ行くとき見かけた校門横の看板だ。「働きながら勉強できる」「いつでも相談に来てください」とふりがながふってあったので読めた。病院にも案内のチラシが置いてあったという。それから3年間ずっと考えていたと祖母は語った。
通いはじめて1か月がたった5月中頃。祖母は、下校途中、駅の階段を踏み外し足首をねんざしてしまった。休まず続けて通学するため、どうすればよいか家族で話し合った。孫の優菜は「わたしが送る」と申し出た。通っている中学校から帰宅、すぐに祖母と一緒に電車に乗って、夜間中学のある青葉中学へ出かけた。はじめは送り迎えであったが、幸の担任、間瀬先生の勧めで、次の日から祖母と一緒に机を並べ、夜間中学の生活を体験できるようになった。
夜間中学生、約50人が通う青葉中学校は全部で8クラス。祖母のクラスは2階のB組で4人の日本人が学んでいる。畑中美織(17歳・2年生、昼間は母がやっている、お好み焼き屋で働いている)。松本(80すぎ、3年生・子どものとき、旧満州から引き揚げてきた)。斉藤和真(16歳、いじめが原因で不登校になった)、そして70代の祖母の4人だ。AからC組は普通学級で日本語のできる人のクラス。DからH組は日本語学級で日本語に不慣れな外国の人たちのためのクラスで日本語の習得が中心という設定だ。
著者は夜間中学を「ふいに自分が船に乗っているような気持になった。たくさんの国の乗客を乗せて暗い海の上を渡っていく夜間中学という船」と優菜に語らせている。
優菜が通っている昼の中学のクラスのことも絡ませながら物語は進んでいく.
そこでは教室に机だけがあり、フリースクールで学んでいる同級生・上村も登場させている。
上村のことでクラスメイトとの会話で優菜は「いじめられていたわけではない。夜間中学に来ているみんなにそれぞれ中学に通えなかった理由があるのと同じように、上村君にしかわからない理由がある」「勉強したいのかもね」と夜間中学での体験を通して優菜の見方、考え方が変わってきたことを客観視して、このように語っている。
ある日の授業中、和真は腹を立て、松本さんに「じじいのくせに学校なんか来るな!」と怒鳴ってしまった。それを聞いた優菜は和真に「いいかげんにして、そんなんだからいじめられるんだよ」と言い返した。
次の日学校を休んだ松本さん。和真の暴言が休んだ原因だと考えたみんなは松本の家に行くことにした。
この出来事を解決するとりくみの中で夜間中学生ひとり一人も、優菜も変革を遂げていくという展開だ。
「夜間中学マジック」という記述がある。「大人になれなかった弟たち」(米倉斉加年)の教材で学習しているとき、中国から引き揚げてきた松本さんや、弟を栄養失調で亡くした祖母が語る場面がある。
この状況を指して、著者は「生徒が先生になることもあるんだな、夜間中学って立場がひっくり返るなんてマジックのようだ」と記している。美織は「なんで『弟たち』なんだろう。死んじゃった弟は、ひとりなのにって、ずっと思っていたの。でも、今松本さんが話を聞いてわかったの。大人になれなかった赤ん坊は、ほかにもたくさんいたんだね。戦争とか栄養失調のせいで大人になる前に死んじゃった子が、たくさんいたってことなんだよねえ」と語っている。
この本では夜間中学も3年で卒業するものとして書かれているが、学習者も一年でも早く卒業はしたいが、納得のいく学びはとても3年では実現できていないというのが現実だ。この点を除いて、夜間中学の学びと夜間中学生の現実を的確に記述している。夜間中学の教員をした私の体験とも重なる点が多い。
著者山本悦子さんは愛知県半田市にお住まいの元小中学校の教員だ。夜間中学を扱った子ども向けの数少ない書籍である。
文科省が「一県に一校以上の夜間中学を」、形式卒業者の夜間中学入学へ通知を出したいま、子どもだけでなく、学校の先生や夜間中学の開設を考える行政担当者はぜひ読んでいただきたい本である。