夜間中学その日その日 (1025) 砦通信編集委員会
- journalistworld0
- 5 日前
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社会が世界が見えるようになること 2025.04.12
髙野さんはこれまで講演、インタビュー、新聞、テレビ・ラジオへの取材と出演、執筆などを通して主張を明らかにしてきている。「空気を奪うな―空気をよこせ!!」「文字とコトバを奪われていることは空気を奪われている事だ!!」は短い言葉で本質を射抜く主張だ。
私たちは髙野さんの夜間中学へのこだわり、叫びのような主張に耳を傾け、自らを問い直すだけでなく、とりくみで展望が見いだせないとき、「主張」を反芻しながら、次の展開を考えることが多かった。夜間中学の教員だけでなく、夜間中学生も髙野さんの著作からヒントや勇気をもらって生徒会活動に取り組む場面がたびたびあった。就学援助補食給食の大阪府補助継続を求めて立ち上がった時、大阪府庁を夜間中学生の鎖で取り囲み、夜間中学生の主張を書いたビラを配り、各夜間中学生徒会が交代で行動する“アリ行動”のヒントは来阪中の髙野さんとの面談から生まれた。

産経新聞に2002年4月から1年にわたって連載された「こやしの思想を語る」50回のインタビュ―記事を夜間中学生はみんなで読みたい。夜間中学の授業でやってもらえないかと教員に提案しとりくんだ学校もあった。
2015年、来阪した髙野さんは大阪に居を構え、夜間中学資料の整理作業に取り掛かった。作業の合間、合間に自らの主張を全紙大のカレンダーの裏9枚にに書きとめ掲示物として完成させていた。一緒に整理作業を行っていた私たちは、この掲示物について詳しく尋ねることもなく、その存在することすら忘れていた。
ある時、髙野さんはそれを持参した。一目見て重要な主張が記されていることが分かった。作成意図も含め髙野さんに説明の機会を求めそれが今回実現した。説明を受け、私たちは議論を行った。
1/10億. 1/120万. 1/472. 1/53. 1/18. ← 10/10 우리 ← 俺たち・俺← おれ ← オレ 다카노 마사오←髙野雅夫←たかのまさお←タカノマサオ |
髙野:旧満州から引き揚げてきた。自分が「タカノマサオ」であることは耳から入ってくる音でわかっていた。その音を文字であらわすことができたのは朝鮮人のハラボジ(おじいさん)に助けられ、一緒に暮らすようになってからだ。オレがリヤカーを引き、後ろからおじいさんが押す。集めてきた廃品の仕切り作業をしながら、「おじいさん、名前教えてくれよ、タカノマサオってどうかくの?」としつこく頼んだ。集めてきた廃品の中に「かるた」があった。凧の絵で「タ」,蟹の絵で「カ」、幟の絵で「ノ」と並べて…、「タカノマサオ」「これがお前の名だ」と読み方と書き方を教えてもらった。次に「たかのまさお」ひらがなの書き方を教えてもらった。「『たかのまさお』だけじゃなく、『漢字』の名前を教えて」と頼み込んだ。おじいさんが集めてきた廃品の中にあった辞書で「髙野雅夫」と教えてくれた。古い辞書で奪い返したおれの「高」ははしごだかの「髙」なんです。バタ屋のおじいさんの歴史が込められ、オレの生命が込められているんです。
タカノマサオ→ たかのまさお→ 髙野雅夫→ 다카노 마사오
この順序でオレから出発して「おれ」→「俺」「俺たち」→「우리」。
夜間中学に入って、俺は一人ではない仲間がいる、「俺たち」に、そして韓国に行って、「우리」と視野が拡がってきた。
―その上の分数の意味は?
髙野:はじめは、10/10=1と一人です。それが夜間中学に入り同級生は18人、オレは18人の仲間の一人だ。その次は荒川九中の生徒53人の一人に。そして当時の全国の夜間中学生、472人の一人に、当時の未就学者120万の一人に、そして世界中の非識字者10億人の一人、オレは10億人の一人なんだと世界が拡がり、夜間中学で文字とコトバを奪い返すことにより、社会が世界が見えるようになっていったそんな認識が持てるように変化してきた。
―大きな集会の講演で、髙野さんは荒川九中夜間中学の同級生3人の作文を読み上げることから講演を始めることが何度かあった。3人の自筆の作文は『자립』に収録されている。江草さんの「私の手」、辺見さんの「私の家族」、多胡さんの「夜間中学」の三人だ。いつもこの順番で朗読されますが、わけがあるんでしょうか?
髙野:あります。それは自分個人の「私の手」の問題から家族の問題として、そして「夜間中学はなんであるか どうやってつくったか げんいんは だれがつくったか ぼくは知りたい」と社会が見えてくる。夜間中学で文字とコトバを奪い返すことにより、社会が世界が見えるようになっていった。そんな認識が持てるように変化すると考えている。このことは韓国の識字学習者が語った。「夜間中学の皆さんは、奪い返した文字とコトバで、どんな社会活動をしていますか」との問いにつながります。(つづく)
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