韓国の150万人デモー民主主義の大いなる実験 2 Journalist Worldジャーナリスト ワールド
- 川瀬俊治
- 2016年12月19日
- 読了時間: 3分
11月25日の親友の崔順実容疑者の国政介入事件で朴槿恵大統領退陣を求めるデモを取材した。韓国史上最大の150万人の参加を記録し、ソウル市の中心街、光化門広場から南北に続く世宗路、ソウル市庁舎までの約1・5キロ、その間に交差する東西の道路は市民で埋め尽くされた。過去、多数の参加者をみたデモをいくつか知っているが、これほど平和的に非暴力で整然と行われるデモははじめてだ。

25日午後3時半。午後2時からの昼のデモを終えたあと光化門広場に赴いたが、人の波は絶えなかった。過去の集会では青瓦台(大統領府)までのデモは裁判所が市民団体の申請に許可でせず、19日の集会は参与連帯が仮処分取り消し請求でやっと八〇〇メートルまでの許可が出た。25日は裁判所が二〇〇メートルまでの許可を出した。
これまで抗議デモは何度か取材してきた。二〇〇八年のアメリカのBSE輸入に反対する抗議デモは「ろうそくデモ」と言われ、この時は同じくソウル市庁舎前を中心にして集会を開き、警戒する警察と激しくぶつかった。しかし、今回は平和的な開催こそ多くの人たちに支持されるとして、警官との衝突を避けて非暴力を貫いた。青瓦台に最前線を取材しようとしたが、もうすでに八〇〇メートル地点まで市民がつめかけており、とても前に進めなかった。
デモではバッチをつけている若者に出会った。「競争ではなく夢を追いかけよう」と書かれていた。若者からのメッセージであり、先進国の何倍も早さで近代化を遂げてきた韓国社会の矛盾を的確に表現していた。若者たちが自発的に参加していくのは、BSE反対の「ろうそくデモ」も同様だった。若者が変革の波を生み出すから力強い。またSNSでの拡がりは、デモごとに参加者を増大させた。子どもたちを連れた家族連れが目立った。
若者たちは「地方から経済的参加できない若者に募金を」とSNSやデモでも呼びかけ、4000万ウオンが集めた。ネットで流れる朴槿恵大統領批判が差別的な表現が生まれると、「その表現はよくない」とSNSで批判があふれ出た。これまでもあまり目立たなかったことだ。「市民社会の成熟を表している」と友人は語ったが、その成熟はおそらく自らが歴史を作っていこうとすることで手繰り寄せたものだろうと感じた。集会計画は参与連帯などで毎週練っているが、ガイドラインは「平等な参加」だという。小集会は日本のメディアでは紹介されないが、中学生、労働者、女性など、夜の集会まで行われるのは、「平等な参加」の実現からだ。

平和的なデモ、SNSの活用、人権を尊重する表現での気配りは、一連のデモの大きな特徴だ。デモの構成団体は1500団体※も数え、セウォル号沈没事件遺家族協議会や民主労総、五大宗教運動本部など以外に、セクシャル・マイノリティの団体や、移住女性市民センター、障がい者差別撤廃連帯などが名を連ねた人権団体連帯会議、さらに今回新しく生まれた若者たちの団体・青少年国民連合も参加した。動物愛護団体のネコ愛護団体も加わった。政党は別に組織して集会を企画してきた。
二五日午後七からの夜のデモでは、韓国の民主化運動の象徴でもあるフォーク歌手楊姫銀さんが、朴正熙の軍事独裁政権時代の抵抗の歌である「常緑樹」「朝露」「幸福の道へ」なの三曲を特設舞台で熱唱した。これまでは、ポリュラーやロック歌手が集会で歌ってきたが、意味が異なる。特権階級を廃していく「民主化の成就」を訴えてきた楊姫銀さんをこの場でこそ実現をと願ったからだと思った。

なお、過去の集会デモは周辺の飲食店などは混乱を避けるため店を閉めてきたものたが、それはもう昔のことにすぎない。平和的デモだけに飲食店街は毎土曜日大賑わいだ。集会デモを商店主は大歓迎している。
※1500団体 民衆総決起(民主労総、公務員労働組合、416連帯ーセウォル号遺族や人権運動団体の団体ー、全国農民会など)が連帯している集会の主催団体です。