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夜間中学その日その日 (484)     Journalist World ジャーナリスト・ワールド

  • 白井 善吾
  • 2017年2月22日
  • 読了時間: 4分

 文科省『夜間中学の設置・充実に向けて(手引き)』を読んで(2)

夜間中学に転勤したとき、びっくりしたことがある。昼の学校で夜間中学生の書いた文章を教材に授業を組み立てたことがあった。その文章を書いた同じ名前の人が名簿の中にあった。教室に行ったとき、そのことを尋ねると、「その文章を書いたのは私です」と返事が返ってきた。6年前の文集に掲載された文章なので、7年近く夜間中学で学んでいることになる。

夜間中学は中学校だから、3年で卒業するものというのが、当時、私の「常識」であった。夜間中学で経験を重ねる中で、この「常識」は夜間中学では「非常識」であることが分かっていくことになる。いま夜間中学の開設を検討している教育行政の担当者も私と同じ「常識」をもった人たちが多いのではないだろうか。

夜間中学にはさらにいくつかの「常識」がある。その一つが「校門をくぐった時が入学式」である。夜間中学はいつでも入学を受け付けるという柔軟性を持っていなければならない。「(夜間中学の)校門をくぐるのは相当の勇気が必要であった」。何日も、夜間中学の周りを行ったり来たり、「あのとき、『夜間中学ですか?』と、声をかけてもらわなければ、入学していなかったかもしれません」と多くの夜間中学生が同じように語る。

欠席が多いのも常識である。学校は休みたくない。しかしそれができないのだ。本人の健康上の問題だけではない。親の看病、どうしても休めない仕事のこと、仕事の現場が遠方になったことなど、理由は様々だ。

昼の教育課程の流用はしたくてもできないのだ。これも常識の一つだ。全く学校に行ったことのない人から、中学校が卒業できなかった人まで様々。しかしこれらの入学者は同時に、立派な社会人、様々な職種の人たち、その道の達人が多い。人生経験を重ねた人たちである。夜間中学の教員に代わって、授業ができる人たちだと言っても過言でない。

これらの人たちが、年度途中、目をかがやかせて、空いた席に座っている。授業の準備をするに当たって、赴任当初は面食らった。中抜けになって、学習の積み上げと、順をおった展開が追求出来ないのだ。特に数学が困った。その上様々な教科を担当し、教材づくりも苦労した。

失敗もするが、そのうち、夜間中学生の目が輝く、変化に富んだ、教科の壁を越えた授業が追求できるようになった。それは夜間中学生の体験や就労経験を頭に入れておいて、それを引き出して、学習者と一緒に学びを組み立てていく方法であった。暗記はしなくてよい、分からなければ、調べたらよい、人に聞いたらよい、まねをすればよい。調べ方は勉強する。そんな方法であった。

夜間中学の在籍年数について「手引き」の中では、意識的かどうか、特に書いていない。その実態は「就学援助に類する経済的支援」のところから推察できる。就学援助が受けられる期間として1年間(1市区町村)、3年間(5)、6年(5)、9年(4)、12年間(1)、制限なし(2)。就学援助など支援を行っていないところが5市区町村もある。

「手引き」は4校(千葉県市川市立大洲中学、東京都足立区立第4中学、大阪府堺市立殿馬場中学、兵庫県神戸市立兵庫中学北分校)の展開事例を挙げて説明している。

大洲中学

足立4中

殿馬場中学

兵庫北

① 生徒数

26名

93名

186名

30名

② 専任教員数

4名

14名

12名

 9名

① ÷②

6.5名

6.6名

15.5名

3.3名

非常勤教員時間

80 h/週

60

不明

不明

運営経費(万円)

360

189.9+α

473

374.3

 同じ基準で比較することはできないが、専任教員はどのような基準で配置しているのだろう?教員一人あたりの生徒数がこのような違いがあるのはなぜだろう。国の教員配当基準では不足するので、都府県や設置市の単費で負担している。大阪の場合、教頭・養護教員そして非常勤教員の時間数が府費となっている。

 これから夜間中学の開設を考えるところには、設置市に新たに負担がかかるようになる。夜間中学開設を促進するためには、「国が100%負担します」の施策が不可欠だと考える。都道府県の枠を超え、近くの夜間中学で学べる条件を整えるためには、国が全額負担することが条件となる。

 前川前文科事務次官は次のように講演の中で述べている。

「学習指導要領の遵守とか、検定教科書の使用義務の遵守とか、こういった学校教育制度で基本となっている仕組みがあるわけですけども、義務教育の仕組みの中で、必ずしも学習指導要領どおりではない、必ずしも教科書どおりではない。そういった授業でいいんだということで、夜間中学校でやってみられた教育の実践の活動が、色々と細かいことを言い始めると、これは大変困ったことになります。私はもうとにかく文部科学省の後輩たちに、絶対にこういうしゃくし定規なことをやらないようにと、こういう制度を盾にとって、現場のいきいきとした活動を殺してしまうような、こういうことは絶対やってはいけない」

夜間中学の生命線に共鳴する重要な指摘であると考える。(つづく)

 
 
 
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