夜間中学その日その日 (505) Journalist World ジャーナリスト・ワールド
- 白井善吾
- 2017年8月20日
- 読了時間: 4分
22回を迎えたミニ教研・長崎で考えたこと
日教組全国教研理科教育分科会の議論を実践を持ち寄り、さらに深めることを目的として、ミニ教研が長崎(2017.08.09~08.12)で開催された。
「大震災から6年 『分断の系譜』を超えて」エフ1原発事故から満6年を迎える日の朝日新聞の社説のタイトル(2017.03.11)である。その書き出しを引用する。
どんなに言葉を並べても、書き尽くせない体験というものがある。東日本大震災と福島第一原発事故がそうだった。だからこそ、というべきだろう。あの惨状を当時三十一文字に託した地元の人たちがいた。
《ふるさとを怒りとともに避難する何もわりごどしてもねえのに》津田智
戦後を代表する民俗学者で歌人でもある谷川健一さんは、亡くなる前年 の12年、そうした約130首を選んで詩歌集「悲しみの海」を編んだ。
震災から6年。
いまも約8万人が避難する福島で広がるのは、県内と県外、避難者とそ の他の県民、避難者同士という重層的な「分断」である。
朝日新聞と福島放送が2月末におこなった世論調査で、福島県民の3割は「県民であることで差別されている」と答えた。
《「放射線うつるから近くに寄らないで」避難地の子に児らが言はるる》大槻弘
同じデマがまだ聞こえるという事実が、心を重くする。(以下略)
重い指摘である。夜間中学生はどのように反応するだろうか?現役であれば、職員室で議論し、教材として授業の中で考える機会を持ったであろう。特に、《ふるさとを怒りとともに避難する何もわりごどしてもねえのに》津田智さんの作品は心に残っていた。夜間中学生は自分に引き寄せて意見を述べ、考えを深め合える内容を提起していると考えていた。
ミニ教研・長崎で山口幸夫(原子力資料情報室)さんはレジュメで、津田さんの歌を示し、「ほんとうに 津田さんは、わたしたちは、何もわりごと していなかったか?」と記述されていた。
権力は人民を分断しバラバラにして、人民同士を対立させ、攻撃が権力には向いてこないようにして支配を行うのが彼らの常套手段である。
津波が来なければ過酷事故は起こらなかった。避けようがない自然災害だ。個人も、東電も、国もだれも悪いことはしていないともっていくねらいを見抜くと同時に、私たちはそして私は本当に関わりがなかったのかと問い返すことが求められている。
このテーマは、教員になったときから、論争になったーテーマである。部落問題、戦争責任等、何度も、職員研修や授業の中で議論した。
部落問題は江戸時代の話、いまの私たちが関わろうにも関わることもできない、過去の話、私たちや、私に関係のないこととする意見が教員の中からも、子どもたちからも出てきた。狭山裁判の判決に抗議して同盟休校している解放子ども会の闘いに、私たちは連帯するとりくみを行うのか、このまま授業をすすめてほしいと主張する子どもたち、クラスは二分して話しあっているとき出てきた意見であった。「いまの私たちに本当に関係ないことなのか?」「差別の現実があるのに、関係ないとはいえない」。真剣な議論の結果、クラスは連帯集会を行うことでまとまった。
夜間中学生の議論では議論だけで終わらず、「いまの私たちにできることは?」と話合いが進んでいくと考えている。この過程でさまざまな生きた「学力」を獲得できたと考えている。それが夜間中学で学ぶ意義の一つであった。

8月9日、長崎平和公園で長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典が行われた。この日、長崎・浦上の小さな墓地で開かれたもう一つの祈念の集まりがあった。浦上の、被差別部落の人たちが催す祈念集会である。原爆投下で、すむところも奪われ、バラバラにされ、ここに被差別部落があったことも行政は長い間認めてこなかった。
この長崎県最大の被差別部落は江戸時代、長崎奉行所の罪人を捕縛し、処刑する役目を負わされていた。人民同士を分断支配する典型である。彼らもキリスト教徒であったが、改宗させられ、浦上のキリスト教信者を捕縛する任務があった。浦上にすむ、被差別部落の人たちとキリスト教信者が受けた原爆投下。差別と闘いながら、生き抜いてきた長崎浦上の人々の戦後を描いたETV特集「原爆と沈黙~長崎浦上の受難~」(8/12放送)がこの日の祈念の集まりも収録し放送した。分断と反目を乗越え、両者がつながっていくことを描いた優れた番組であった。
「ほんとうに 津田さんは、わたしたちは、何もわりごと していなかったか?」の問の答えもそこにはあった。
夜間中学でも物事の本質が分かれば、私や私たちは何ができるか、そして実行することの大切さを考えることができた。
3日目は端島(軍艦島)を訪れた。
ミニ教研は私の立ち位置を再確認できる大切な場所である。