映画『独裁者と小さな孫』 イラン人監督の名作 チャウシェスク、マルコス、フセインを想起しつつ Journalist World ジャーナリスト・ワールド
- 北口学
- 2017年10月13日
- 読了時間: 3分

映画『独裁者と小さな孫』(2014年公開)老いた独裁者とその幼い孫の逃亡の旅を描いた、イランの巨匠モフセン・マフマルバフ監督最新作を鑑賞。傑作映画の一本だと思えます。第71回ヴェネツィア国際映画祭オープニング作品。第15回東京フィルメックスでは『プレジデント』の邦題で上映された1本。
鑑賞中、今まで感じた経験のない、ずっと胸が重苦しい気持ちに支配されていました。ルーマニアのチャウシェスク大統領やフィリピンのマルコス大統領、イラクのフセイン大統領のことも鮮烈に連想しながら。
独裁国家の大統領が民衆の民主化クーデターによって幼い無邪気な逃避行を続け最後に海辺の土管(排水口)から群衆に引きずり出され圧巻のエンディングへ。
私の胸の重苦しさは、丹念に描かれる独裁者である大統領とその無邪気な孫を丹念に追って行くキャメラによって、二人に感情移入しながらも、きっと私は大統領を追い詰める革命勢力の側にいる人間だからという気持ちのぶつかり合いから来るんだなと鑑賞中ずっと思っていました。 逃避行の中で独裁者は初めて民衆のとてつもない貧困や児童労働の様子、腐敗し切った下級軍人たちの残虐性に衝撃を受けて行きます。
逃避行の中で出会った政治犯、それも拷問で歩けなくなった革命グループ、自分や自分の一族の命を狙ってきたテロリストとのすごい旅。独裁者は拷問で歩けなくなった政治犯を背負って延々歩き、彼の妻の元へ送り届けます。5年間の服役中、唯一の心の支えだった配偶者の元にたどり着くと、獄死したものと再婚していた残酷な展開。
独裁者、独裁国家の悲劇や残虐な暴力、腐敗、貧困を丁寧にリアルに描いて行く本作は全世界で大絶賛されたというのもうなづけます。

革命とはこれほど多くの悲劇や犠牲者を生み出し、独裁は多くの負の側面を生み出す。
巨額の懸賞金を革命政府からかけられ、逃げ惑う老いた独裁者と孫。映画を見ながら私はきっと民主化勢力、革命支持の側にいて多くの群衆が投石したり走る様子を、その後ろか家の中から眺めている存在なのだろうなと考えました。
独裁者を捉えた群衆は即時射殺、いや火あぶりだ、孫から殺せ、つるし首だと老いた独裁者をリンチします。そこに数少ない良識と慈愛ある老人が「報復と殺戮ではその連鎖は止まらない」と熱狂する群衆の中で語ります。あの様な破壊や暴動、クーデターの最中に、民主化革命政権樹立と独裁者への憎悪が国中を覆っているときに、そして独裁者を取り囲み激昂する中で私はその良識ある老人の様な言動を取れるだろうかと自問しています。私も自画自賛かもしれませんが、いい感じで年齢を重ね、少しはその老人に近づいてきたよなぁとしみじみ思いました。

予告編は下記でご覧いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=ctoNQF46aA4
https://www.youtube.com/watch?v=ssgx_g7PuyM