夜間中学その日その日 (529) Journalist World ジャーナリスト・ワールド
- 白井善吾
- 2017年11月24日
- 読了時間: 5分
夜間中学設置に向けた動向
文科省が発表した「2017年度夜間中学等に関する実態調査」(2017.11.07)で新設を検討しているのは80自治体であると報道があった。その内訳は、都道府県レベル6、市町村レベル74。開設を決めた川口、松戸両市を除く78自治体のうち、43は新設の方向で議論し、残る35はニーズを把握したり、設置の課題を検討したりしている。文科省は78の自治体名は明らかにしていない。
夜間中学設置に向けた動向について夜間中学資料情報室で調べた内容は8月、全国交流集会で報告をしたが、その続きである。
●高知県は設置にあたっての検討課題として1.夜間中学設置のニーズの把握及び広報2.設置・運営をあげ、設置場所として次のように記している。「今後、夜間中学を設置するに当たり、市町村立として設置するか、県立として設置するかまた、どこに設置することが最も学習者のためになるのか等、十分に検討する必要がある」。そして第1回高知県教育委員会公立中学校夜間学級設置検討委員会を2017.11.22開催している。
●新聞報道より
○新設を検討している80自治体の内訳は、都道府県レベルで6、市区町村レベルでは74だった。具体的な開校時期を決めていたのは、千葉県松戸市と埼玉県川口市のみで、いずれも2019年4月を予定(東京新聞 2017.11.8)。
○設置を検討しているのは高知や沖縄など都道府県単位で6、市町村単位では74の自治体。80自治体のうち、千葉県松戸市と埼玉県川口市は2019年4月に開校の予定。43自治体は新設の方向で議論が進み、35自治体はニーズ調査などをしている(日本経済新聞 2017.11.9。)
○不登校や経済的な理由などで義務教育を満足に受けられなかった人らが学び直す無料の「自主夜間中学」が来春、甲府市内に開設される(山梨日日新聞 2017.11.11)。
○和歌山・岩橋夜間学校 市民がボランティアで設置 未就学者救済、公立化を (毎日新聞 2017.11.11)。
○文科省によると、80自治体の内訳は、都道府県レベル6、市町村レベル74。開設を決めた川口、松戸両市を除く78自治体のうち、43は新設の方向で議論し、残る35はニーズを把握したり、設置の課題を検討したりしている。同省は2市以外の自治体名を明らかにしていない(公明新聞2017.11.14)。
○教育問題テーマ、前川喜平氏講演 600人が参加 /岡山県(朝日新聞 2017.11.15)。
○福島県教委は15日、東北には一つもない公立夜間中学について認識を深めるセミナーを福島市で開いた。セミナーには県内の自治体や学校関係者ら約35人が参加。検討委には福島、郡山各市など12市村の担当者が出席した。県と連携し、夜間中学の周知とニーズ把握に努める方針を共有。福祉関係の施設でチラシを配布するなど、周知場所や方法を工夫することにした(河北新報 2017.11.16)。
○公立の夜間中学設置について検討する協議会が道教育委員会に設けられ、17日、札幌市内で初会合が開かれた(朝日新聞 2017.11.18)。
○学び直し 公立夜間中学 熊本と沖縄で設置検討。自主夜間中学「よみかき教室」の大塚正純・共同代表らは公立校設置を望んでいるが、福岡市の担当者は「未就学者全てが入学希望者とは限らず、ニーズの把握が困難だ」と述べる。未就学者が3028人の熊本県の担当者は「ニーズの把握は課題だが、義務教育未修了者の就学機会は確保したい。全国の動きも参考にしたい」と語る。埼玉県川口市は「生徒数がどれくらいになるか読めていないが、最後は市長が必要な施設と判断した」と説明する(毎日新聞2017.11.24)。
毎日の記事にもあるように、行政担当者は、夜間中学開設を判断するとき、ニーズの把握と将来の学習者の見通しをどう読み、議会にどう説明するかに主眼が置かれている。結論を言うと、アンケート調査とその分析をおこないニーズが推し量れるとは考えにくい。夜間中学に入学を希望する人たちにはこの情報がなかなか届かない状態におかれているからだ。夜間中学が開設され、そこに行けば学べるんだという情報がとどくのは時間がかかる。口コミ、家族や知人が受け取ったビラ、ラジオ、テレビから情報が伝わり、とどいても入学を決断するにはまた時間を要するのだ。当事者が文字を通して知るというのは可能性は少ないと見るべきだ。
夜間中学のニーズがあるか否か、行政担当者が心配するのは分からなくもないがそれは杞憂であるといいたい。
大阪の場合を紹介しよう。次のような見出しの報道記事がある。
「せっかくの新設予定が希望者たった12人」(1972.01.26 朝日新聞)。
天王寺(1969年開校)、菅南(1970年開校)に加え1972年4月開校する夜間中学は、堺市立殿馬場中学、八尾市立八尾中学そして東大阪市立長栄中学の3校である。各校の入学希望者数はこの報道時点で、12人、10人、26人だという。これに対し、すでに開校している2校はそれぞれ、70人の入学希望者があるという。
「堺市の夜間中学校きょう入学式」の報道では41人(1972.04.25朝日新聞)。
八尾中学は、「希望者わずか13人、募集期間 今月末まで延期」(1972.04.01朝日新聞)。
長栄中学は「夜間学級がスタート 平均38歳 56人が入学」(1972.05.01東大阪市政だより)。
各夜間中学、その年度の在籍者の統計をみると殿馬場(52人)、八尾(27人)、長栄(60人)である。半世紀経った今もこれら夜間中学は存在している。「埼玉県川口市は『生徒数がどれくらいになるか読めていないが、最後は市長が必要な施設と判断した』と説明する」とあるが、そのような判断で始めたとしても、大きくは間違いないということができる。

やはり、先例に学ぶんではないが、行政がどんな判断をするかを待つのではなく、学びを必要とする当事者の名乗りでと開設要求の市民運動が必要ではないか、名乗り出た当事者の学習の場・自主夜間中学を運営しながら、公立夜間中学開校を行政に迫る。私たちが経験した方法ではなかったか。