夜間中学その日その日 (560)
- 白井 善吾
- 2018年5月22日
- 読了時間: 6分
報告書「岡山県における中学校夜間学級に関する調査研究」を読んで
2018年3月岡山県中学校夜間学級調査研究委員会は上記報告書
(www.pref.okayama.jp/page/552107.htm)を公表した。調査研究の概要、調査研究結果のまとめ、そして資料からなる20頁の報告書だ。
調査研究委員会は学識経験者、学校教育関係者、市町村教育委員会担当者、フリースクール関係者等で組織され、2016年、2017年の活動をまとめたものだ。
「岡山県教委が夜間中学の開設検討 3月末までニーズ調査、意見募る」(山陽新聞 2017年01月22日 )の報道記事もあり、2016.12.23から2017.3.31の期間でおこなったニーズ調査の結果が待たれるところであった。2017年8月の夜間中学増設運動全国交流集会で関係者に質問をしたが、その時点では県教育委員会は結果を公表していないとのことであった。

ニーズ調査は27000枚チラシを作成、配布し、電話相談を受ける方法をとられた。その結果、23件の電話相談があった。さらに調査委員会から再度電話をかけ、聞き取り調査をおこなった結果、「夜間学級に通学したいという」ニーズは5件であった。
これとは別に「ブラジル人、フィリピン人、中国人、配偶者が外国人の日本人」10人の在住外国人へのニーズ聞き取り調査もおこなっている。また2017年4月、活動を開始した自主夜間中学(会場・岡山県国際交流センター)のとりくみを把握結果に加え、岡山県内で「学び直しを支援するとりくみ」が4カ所でおこなわれている。その把握結果を一覧表にして記述してある。その概要は、
① 「岡山市立岡輝中学校区シニアスクール」(2003年開校)高齢者59名参加、事業運営は、特定非営利活動法人がおこない、シニアを対象に、 空き教室で中学校レベルの学習をしている。また、小中学校での交流や学習支援や保育園・幼稚園での子育て支援も 実施している。週1~3日の活動。
② 「まなびばippo(いっぽ)」(2017年開校)42名、高校中退者やニート対策として、倉敷市生涯学習課が社団法人に委託した、就職や進学のための学びの場。毎週月~土曜 日に実施。
③ 「伊里ふれあい学級」 (2009年開校)備前市立伊里中学校区の高齢者 6名。英語等の授業に参加し、学び直しとして中学生と 一緒に勉強している。日程や時間は、参加者が協議して調整している。月2~3回程度の実施。
④ 「鏡野町シニアスクール」(2004年開校)町内の高齢者15名参加。国語、社会、理科、音楽等の内容を教員OBが教えている。 毎週火曜日に実施。
これに、神戸市立兵庫中学北分校(夜間中学)と川口市教育委員会の視察を実施し、次のような調査研究委員会としてのまとめをおこなっている。
「ニーズ調査や県外視察等を踏まえて検討した結果、学び直しのニーズは 一定数あるが、週5日毎日夕方から学校に通い、義務教育段階の内容についての授業を受けるという中学校夜間学級での学びを希望する人はわずかであり、現時点で、直ちに中学校夜間学級を設置する状況にはないと考える」
「しかしながら、学び直しへの対応は必要であり、今後も学び直しへのニーズは変化することも考えられることから、一定の期間の後にニーズ調査を行うことや、学び直しの取組を行っている団体等への研究委託などに より、引き続き調査研究を進め、適切な就学機会の提供等について検討する必要がある」。
報告書を読み、いくつかの疑問を持った。まず、県内でおこなったニーズ調査の回答数が23件であること。教育委員会に名前、年齢、連絡先を明らかにして、夜間中学で勉強したい事を電話をかけてくる方法を採用されたことだ。夜間中学が何なのかが不明な人たちが多かったのではないかと考えるが、電話するに当たって、たいへんな勇気がいったことは想像できる。再度教育委員会から聞き取りの電話をかけるという方法が学習希望者の実態を理解しない手法であったことは、23件の回答数が物語っているのではないか。
2点目に在住外国人の聞き取り調査の対象10人をどのように選ばれたのかと言うこと。そして「毎日通うよりも、土日等に開かれる日本語学習や算数の講座等が あれば、参加したい」など4点の聞き取り結果の記述では説得力がない。
3点目に県内4カ所の「学び直しを支援するとりくみ」とりわけ15年の歴史がある「岡輝中学校区シニアスクール」は現在59人の高齢者の参加がある。この人たちの聞き取りができなかったのだろうか?という疑問だ。他県では数少ない実践例だと考えるが、この分析結果の記述が必要ではないか。
4点目に、電話調査で夜間中学に通って学びたいという意向を確認できた5人の人たちに対して、どのように対応されるのかの記述が十分ない事である。「(県教育委員会が)市町村教育委員会へニーズ調査の結果について情報提供し、個々の相談者への具体的な対応や支援を検討するよう促すとともに、対応にあたって必要な情報等を提供し支援すること」と記述があるが、調査だけして、具体的な対応を市町村教育委員会に検討するでいいのだろうか。
2016年12月「「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」の成立に基づき、調査研究を始めた経緯では致し方ないのかもしれないが、夜間中学は義務教育未修了になった人たちの学びを保障する場だけではないということがおわかりいただいていないことは残念である。夜間中学は教育に関係する教員の重要な「学びの場」であるということ、そして小中高校大学生の「学びの場」であるということ。このことはすでにとりくみをはじめている多くの夜間中学が実践し多くの報告をおこなっている事柄であるが、なかなか伝わっていない。
大阪の夜間中学に通っている「やっちゃん(夜間中学生)」は最近Twitterの中で「夜間中学って必要なの?と感じている方もいると思います。夜間中学とゆう学び舎に助けられた人が沢山いるとゆうことを知ってもらいたいです」として次のように綴っている。
「日本には義務教育未修了者が推定されているだけで百十数万人いることを。その中には戦争や貧困のため学校に一度も通うことがなかったため自分の名前や住所が十分に書けず周りから白い目で見られ辛く悔しい思いと苦労しながら仕事や子育てしてきた人、家族のため日本に来日し仕事をしながら懸命に日本語を学んでいる外国籍の人たち。多くの人たちが夜間中学という学び舎を必要としています。私もその一人です。夜間中学と出会い将来に対して希望が見えました。『一文字覚えるたび世界が広がる』という夜間中学生たちのコトバがあります。今まで読めず書けない文字が読めたとき、書けたときの嬉しさは夜間中学生にとって心の財産だと。夜間中学生に対して様々な意見があると思います。夜間中学生のほとんどが学齢期を過ぎています。学齢期を過ぎた私たちが学べる場は夜間中学生だけなのです。夜間中学は私たち夜間中学生にとって大切で必要な学び舎です」
この想いを報告書を作成した、「岡山県中学校夜間学級調査研究委員会」をはじめ多くの人たちは共有していただきたい。