夜間中学その日その日 (564)
- 白井 善吾
- 2018年6月10日
- 読了時間: 5分
「夜間中学設置に向けた調査研究報告書」を読んで
2018年3月、「夜間中学設置に関わる宮城県・仙台市教委共同調査研究会」が報告書を公表(https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/677895.pdf)した。
前文で「義務教育未修了者への学習機会の提供や,外国籍の者に対する日本語学習を中心とした義務教育段階の学習機会の提供など,幅広いニーズへの対応も必要であると考える」。そして「夜間中学設置に向けた調査研究に総合的に取り組んできた」と夜間中学設置を念頭に2年間の調査研究をまとめたと述べ、本文11頁、参考資料40頁からなる報告書である。
文科省が2017年3月、調査会社に委託し実施したWEB調査(宮城県内600人の男女パネルモニター)とハガキで回答のあった宮城県内141人からえた、「夜間中学のニーズ調査に係る調査研究」によると「夜間中学に通ってみたいと思うか」との質問に対しては,WEB調査では44.7%が、ハガキ調査では34.0%の人が「通ってみたい」と回答している。国勢調査で「未就学者」が1643人、県内の中学校不登校の子どもたちが2269人(2015年)に上る。これらを根拠に「本県においても公立の夜間中学設置が必要であると考える」と結論づけている。
入学要件として「義務教育未修了者に加えて、入学希望既卒者、外国籍の者などが考えられる」。入学希望者が「県内全域に居住していることを想定し、広範囲からの希望者を受け入れることが大切である」。修業年限については「学校教育法上は3年となる」が「可能な限り 柔軟に対応することが望ましい」としている。学齢で不登校となっている子どもの「受入れについては、他県の動向等も 踏まえながら、今後さらに検討していく必要がある」としている。
教員の配置について、次のように記述している。「様々な事情により義務教育段階の教育を十分に受けられなかった者に対して、学習の機会を提供する場でもあることから、多様な経歴を持つ生徒へのケアのため、個々の生徒に寄り添い、生徒のために親身になって対応することが教員には求められるが、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなどの専門スタッフを配置するなどして、組織的に生徒を支援する体制を構築していくことも必要である」。
「十分に受けられなかった者」との記述についてはどうかと思うが、夜間中学生の実態を考えたとき、実現していただきたい学習環境である。
教育課程、教材等について「自主教材作成に当たっては、指導に当たる教員等の負担を軽減する観点から、全国の公立夜間中学とのネットワー クを構築し、情報を共有化するなど、効率的な教材作成が望まれる」と夜間中学で実践点検を重ね、練り上げてきた教材の積極的な提供とそれらの交流が提言されている。
また「高齢者又は遠隔地から通学する生徒への配慮として、正規の課業前に昼間の時間の授業を設定するなど、ニーズに応じて柔軟に対応していくことも大切である」と学習者の実態に対応して、「昼の学習時間」を提起している。勤務していた学校も夜間中学生の要求を受け、おこなったことがある。育児、子育て中の学習者にはきわめて良い学習条件が提供できた。一方で生徒会活動との時間の重なり、教員の負担増の悩みを解決できず現在はおこなわれていない。検討すべきだと考える。
施設設備について「夜間中学へ通学する生徒の中には、昼間の勤務を終えた後に通学してくる生徒も想定されることから、補食給食等の提供についても考慮する必要がある」と記述している。
設置場所等について「仙台市内が適切であると考える」としている。そして仙台市内への通学が困難な地域の入学希望に対し、「実質的な学習の機会を確保する観点から公立単位制定時制高等学校において行われている科目履修の活用を進めることも一つの選択肢である」を提言している。
仙台自主夜間中学と開設される公立夜間中学との交流活動を積極的に推進することも指摘がある。
他府県への視察でえた夜間中学の現状を分析し、「夜間中学設置の必要性について認識を深めることができた」そして、報告書の最後を次のように記述している。「本研究会としては、本報告書の内容を踏まえ、今後、両教育委員会がさらに連携を深めながら、県内の他の市町村教育委員会と協働して、県内に存在する義務教育段階の学びを必要とする方々の学びの場を早期に確保していくことを期待する」。
このように、本報告書は既設の夜間中学現場・教育行政も大いに検討すべき議論が展開されている。
しかし、本報告書を読み返してみたが、私はどうも収まりが悪い想いが残る。これは何なんだろう?「基本的方向性」の部分に「夜間中学での学びをとおして,自尊感情や自己有用感を高め,社会的自立を果たすことができるような学びの場としていくことが大切である。…」と記述がある。その通りなんだが、「それだけ?」と突っ込みを入れたくなるのだ。全体の基調が「学ぶことができなかった人たちに義務教育を保障しましょう」との観点のみの記述である事が原因だ。

夜間中学は学習者の学びの場のみならず、教員の「学びの場」でもあるという点だ。夜間中学生の胸を借り、授業の創造をするとりくみは何物にも代えがたい「ちから」を授けてもらえるという体験である。夜間中学では学校公開をおこない、夜間中学を訪れた小中高校大学生そしてその教員に夜間中学生の横に座り、夜間中学の授業を体験してもらう実践をおこなっている。時には授業をおこなうこともおこなっている。私が勤めていた大阪府守口夜間中学ではその記録を『学ぶたびくやしく 学ぶたびうれしく』『守口夜間中学その学び』(1~3集)を公刊している。
そんな実践を開設された夜間中学でおこなっていただきたい。夜間中学がその地域の「教育研修センター」の役割を担ってくれると考えている。