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夜間中学その日その日 (565)

  • 白井 善吾
  • 2018年6月14日
  • 読了時間: 5分

「夜間中学設置に向けた調査研究報告書」を読んで

 沖縄県教育委員会・公立中学校夜間学級等設置検討委員会が作成した「公立中学校夜間学級等設置検討委員会報告」が2018年3月付けで発行されていることがわかった。全部で16頁の報告書で以下のアドレスで見ることができる。

(http://www.pref.okinawa.jp/edu/gimu/jujitsu/manabinaoshi/documents/h30houkokusyo.pdf)

 2018.06.06付けで文部科学省が発表した、「平成29年度予算『中学校夜間学級の設置促進等事業』(調査研究)」を見ていてわかった。

 2016年12月14日、施行した「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」15条で言う、「協議会」に類する検討委員会を立ち上げ、「これからの検討すべき課題をまとめたもの」だと書いている。

 関係者の運動により、民主党政権時、「戦中戦後の混乱期における義務教育未修了者支援事業」が沖縄県で実施することが決まり、2011年度から国8割、県2割の負担割合の予算を組み始まった。「戦中戦後の混乱期に義務教育を修了できなかった方(昭和7年~16年生)」たちを対象に始まった。県はNPO法人珊瑚舎スコーレ(那覇地区)・NPO法人エンカレッジ(中頭地区)・NPO法人三和人材育成課(島尻地区と委託契約し、学習支援を実施した。そして延べ120人にたいし支援をおこなうことができたとしている(*注)。

 「国の動向や全国の状況、未就学者等の実態等を様々考慮した結果、中学校夜間学級設置の可能性も含め、義務教育未修了者への多様な学習機会の提供等に関する課題整理の必要があると判断し、検討委員会の設置を検討した」としている。

 全3回の検討委員会を開催し、課題の整理をおこなっている。

ニーズ調査:文科省が2017年3月、民間調査会社に委託し、アンケート調査に沖縄も参加した。しかしこの結果では、「ハガキ調査では夜間学級入級対象者と思われる義務教育未修了者等の回答数が少なく(13名)、かつそのニーズが把握されなかったことなどから」、対象者のニーズを的確に把握する「精度の高いデータ収集のための調査実施について、2018年度 「予算要求に盛り込むことを確認した」。

入級対象について:義務教育未修了者や形式卒業者が「その役割の第一義とす ることを確認した」としている。学齢の不登校生の夜間中学入学について「入級が適切かどうかを、またそのニーズ がどの程度あるかなどをさらに吟味する必要がある」としている。また「特別支援学級対象生徒の進学の課題に対して、個別支援のニーズの一つとして夜間中学の位置づけも行えるのかどうか、今後検討をしていくことも必要」としている。

設置主体について:県立、市町村立どちらですすめるか、結論をださず、まず、夜間中学のニーズを的確に把握することだとしている。そして「ニーズ調査の結果を踏まえながら、様々な方策や選択肢を用意し、設置に向けた課題の検討を次(2018)年度も継続していくことを確認した」としている。

 報告書全体を通して、精度の高いニーズ調査が必要。その結果を見て考えようとの考え方で記述されている。新たに制度を立ち上げるとき、無駄にならないか、数年で、入学希望者がなくなるのではという心配をされるのはわからぬではないが、ニーズ調査を何度もやって、結局、公立夜間中学は開設しません。ほかの制度でおこないますと、仮にこんな結論になったとき、入学したいと意向を表明した人たちの想いはどうされるのか。

 前にも紹介したことがあるが、大阪で3校の夜間中学(殿馬場、八尾、長栄)を1972年4月、同時に開校した。このとき、入学希望者は1972年1/末、4/1、5/1時点で次のような変化をたどった。

 殿馬場夜間中学(堺市) 12名  41名  52名。

 八尾夜間中学(八尾市) 10名  13名  27名。

 長栄夜間中学(東大阪市)26名  56名  60名。

夜間中学が開設され、そこへ行けば学べることが学習者に伝わっていくのは時間がかかるのではないか。上の入学状況はこのことを示しているのではないか。

夕方になると鞄を持って夜間中学に通っていた。1年ほどして、「いつも夕方になると、あんたどこに行ってるのか?」と友だちが尋ねた。「夜間中学で勉強している」と答えると、友だちは「私も勉強したい。なんで早く教えてくれなかったのか」と言った。「あんたは学校は卒業していると思っていたから・・」こんな会話のあと、友だちも夜間中学に通うことになった。

 夜間中学の存在は、人から人へ時間をかけ伝わっていく。聞いてきた子どもが「お母ちゃん、夜間中学で勉強しないか?」とすすめられ、親子で夜間中学に相談に訪れた。こんな事例は珍しくない

 国勢調査の沖縄県の未就学者数の推移を見ると、18051(1980年)・12716(1990年)・9226(2000年)・6541(2010年)である。

 1990年国勢調査結果を詳細に分析したことがある。15歳以上の人口に占める未就学者の割合は沖縄県13.91‰、次いで青森県5.49‰、全国平均2.16‰で沖縄があゆまされてきた歴史がこの数字に深く影を落としている。(夜間中学増設運動全国交流集会編『勉強がしたい学校がほしい』宇多出版企画1994年 77頁)。

 これまで夜間中学開設に、見向きもしなかった文科省を筆頭に、全国の教育行政は法ができ、開設にむけて協議を開始したという流れではある。1968年から69年、大阪で展開された開設運動は、「大阪にはそんな人は一人もいません」という大阪市教育委員会に対し、義務教育未修了者が名乗り出て開設を求める闘いであった。

 迷うことはない。通学に便利なところに開校する。少人数ではじめる。学習者に寄り添い、学習者の実態に合わせて、とりくみをはじめたらよい。人から人へ伝わり、広がっていく。義務教育未修了者のためと思ってはじめた夜間中学は、何のことはない。教員自身の学習の場であり、教員の研修センターの役割を持った場であった。

〈注*〉 3年間学習し、希望者にはあらかじめ決めた在籍中学校から卒業証書が発行されることになっているので、40人が支援を受けたことになる。上で紹介した国勢調査の数字からすると、こんな人数ではない。ごく1部の人しか学校に来れていないことは明らかだ。

〈注*〉戦中戦後の混乱期は昭和7年~16年生れと限定できない。このことは公立夜間中学に学ぶ人たちの実態を考えれば、この期間だと限定はできないはずだ。

〈注*〉しかもこの制度は2017年度で終了するとしている。珊瑚舎スコーレでは今年度も該当者が在籍しているし、この制度がある事を知らないひとも存在する。現在、珊瑚舎スコーレを先頭に制度存続の運動をとりくんでいる。

〈注*〉珊瑚舎スコーレが支援継続を求める2万305筆の署名提出のため、県教育庁を訪れ、応対した県教育長は2018年度内の再開を明言し、以前の支援に近い形で「早期の調整を進めている」と述べた(琉球新報 2018.06.09)。

 
 
 
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