夜間中学その日その日 (584)
- 白井 善吾
- 2018年10月30日
- 読了時間: 4分
学習条件の改善に 国はもっと肩を入れるべきだ
「夜間中学の入学要件緩和へ 神戸市教委」(2018.10.11朝日新聞)の報道があった。NHKのニュースで流れた(2018.10.05)内容だ。新聞報道はもう少し詳しく内容を知ることができた。
記事では、「神戸市教委は、市内に2校ある市立夜間中学の入学要件を来年度から緩和する方針を決めた。現在の『市内在住』に加え、『市内在勤』まで拡大する。さらに『在勤』の要件に合わなくても、教育にかかる費用の一部を入学希望者の居住地の市町が負担すれば、兵庫県全域からの入学も認める方向で検討を進めている」「教育機会確保法が成立。すべての自治体に就学機会の提供などの措置が義務づけられたことから、神戸市はまずは来年度に『市内在勤』まで入学要件を緩和することを決めた」としている。
来年度から神戸市民でなくても、神戸市内に勤務している人なら神戸の夜間中学で学べるのだ。しかし、例えば西隣の明石市の住民で、神戸市に勤務していない人は入学できないのだ。
さらに検討することとして、費用の一部を居住している行政が負担をするなら、県内からの入学を認める方向で検討するとしている。制度設計の参考にしたのは、奈良県内の夜間中学設置市がおこなっている方法だという。
夜間中学を開設している、奈良市、天理市、橿原市の3市は、「光熱費や講師代、施設管理費など教育にかかった費用を生徒数で割り、1人あたりの額を生徒の居住自治体に請求している」「その費用は1人あたり年間20数万円という」。
確かに、夜間中学設置市に過重な負担がかからないようにする方法として評価できる面はある。記事でも「神戸市教委はこの『奈良方式』に注目」していると評価している。そうする理由として「市民の税金で運営されている以上、市外の方の入学は理解を得られない」としている。

潤沢に予算がある行政は少ない。この方式が、夜間中学生にどのような形で運用されているかを見ておきたい。奈良方式は、上に書いたように、設置市以外から通学する夜間中学生の物件費・通学費・補食費・校外活動費は一旦設置市が立て替え、年度末に夜間中学生の居住市町村に請求する。この支払いをめぐって、居住市町村が渋ることがおこってきた。御所市の場合、学ぶ年数を最長4年とし、それ以上学び続ける人は自分で授業料を含む一切の費用を負担する。通学費や補食費は今後一切補助しない。以上の内容に同意しなければ入学を認めないとする、「内規」を設けた。結果、御所市から通っていた6人の夜間中学生が除籍になるなど学ぶ権利の侵害が起り、現在まで続いているという。この動きはさらに広がってきているという。
このように財政負担を理由にした在籍年数の大幅短縮は義務教育を受ける機会を奪うことであり許すことができない。
大阪の場合、2008年、橋下知事がそれまでおこなってきた、就学援助、補食給食の大阪府負担をゼロとした結果、就学援助は居住市町村が負担するようになった。これは大きな前進である。9年間学ぶことができる夜間中学であるが、就学援助の期間は6年間。 従って、その差の3年間は自己負担が必要である。経済的に難しい夜間中学生は,6年で卒業するか中途退学せざるを得なくなってしまった。夜間中学生は改善を求めて、とりくみを行った結果、9年間就学援助を実施する市町村が生まれてきているが全てではない。
夜間中学生が全員、就学援助制度を受けているわけではないが、経済的に楽でない夜間中学生も多い。このように就学援助制度は居住地によりまちまちで、結果的に夜間中学生の在籍年数が短縮されるよう働いていしまっている。
根本的解決は国が夜間中学生の就学援助制度を確立して支援をおこない、地方行政の負担を少しでも軽くする方法を創出することではないか。2017年12月、大阪人権博物館「夜間中学生展」で訪れた、前川喜平さんとこの点について,質問をしたが,うなずくだけでコメントはしなかった。
やはりこの議論の時、制度設計をする行政担当者の頭には「義務教育を受けることのできなかったお気の毒な人たちに,義務教育を保障してあげましょう」という上から目線がどうも気になる。夜間中学生から教育関係者が学ぶところがたくさんあることをもっと自覚すべきではないだろうか。夜間中学を訪れたひとたちは、夜間中学生の胸を借り、「学ぶことの意味」を深めるとりくみが実践されている。夜間中学が今在ることの意味を考えたとき、「恩恵」のメガネは外すべきだ。