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夜間中学その日その日 (634)

  • 白井 善吾
  • 2019年8月26日
  • 読了時間: 5分

 夜間中学の見方の変化とその背景

 国や文部科学省の夜間中学に対する認識が「法律違反」から「最低一県に一校の夜間中学の開設を」と180度、正反対に変化することの背景について考えてみたい。

 「年少労働者に関する行政監察」の勧告文(1966.11.29付き)で、行政管理庁は「いわゆる『夜間中学校』については学校教育法では認められておらず、また義務教育のたてまえからこれを認めることは適当でない」と勧告している。

 第15回全国夜間中学校研究大会(1968.11.21~22)に参加した文部省中学校課奥田課長は「義務教育の中で特に学齢期の子どもの教育は昼間行われるべきべきであるという立場をとっている」「学齢超過者というか、すでに大人になっている人は義務教育というよりは社会教育的に考えていかなくてはならないと思っている」と述べている。

 行政管理庁の勧告を「夜間中学の死刑宣告」と捉え、逆に夜間中学開設運動のバネにし開設を実現した天王寺夜間中学の開校(1969年)にたいし、「これは文部省も各自治体も想定していなかった展開でした」と前川喜平氏は講演で述べている(「教育が『憲法の理想』を実現する」岩波『世界』2018年1月号)。

 前川氏は70年代の文部省の受け止めを「夜間中学の開設が相次ぐことになって『困ったな』、と思いながらも、その現実を追認した。追認というか黙殺、もっといえば放置が正しい表現だと思います。あえて潰そうともしないけれども、何の支援もしなかった」と語っている。1979年に文部省に入った前川氏は当初3年間、陳情窓口を担当した。夜間中学については、初中局中学校課が回答をすることになっており、「だいたい全部ゼロ回答」。その場面を陳情窓口の前川氏は何度か見た。そして「(自分では)夜間中学というものが必要なんだなというのは、そのへんから認識をしはじめました」(『前川喜平 教育のなかのマイノリティを語る』明石書店)と述べている。

 私も90年代はじめ、何度か文部省を話合いのため、訪れたが、温かみを感じる対応ではなかった。その点、外務省は違った。丁寧な応接であった。外国との対応をするところであるからそうなるのかと考えたことを想い出した。

 前川氏の話に戻す。「80年代には形式卒業者と呼ばれる人たちが夜間中学校に入るケースが増えてきた」「ところが1990年頃を境に、パタッといなくなってきた」「文部省が『既に卒業している』との理由でそうした人たちの入学を認めないように各県教育委員会を指導した」「文部省のちの文科省は非常に硬直的な姿勢で(入学を認めろという)要望に応えようとしてこなかった」(『世界』)。

 2015年7月の文科省の「夜間中学に通えるようにしようという」方針転換について、前川氏もこれにかかわったとして「30年近く不合理を現場に押しつけてきたことを考えると、やっぱり、余りに遅すぎた」(『世界』)と語っている。

 また「昼間の小中学校だけではカバーしきれないところがあるにもかかわらず、文部省、文科省は置き去りにされてきた人たちの存在を長らく見て見ぬふりしてきた」「『学習者の権利』としての義務教育には年齢制限などありません。教育行政の責任者だったものとして十分な学習の機会が与えられずに年を重ねられた方々にたいして心の底から謝らなければいけないと思っている」「現行制度からこぼれ落ちている方々に学ぶ場を用意する政策をずっと怠ってきたことを反省し、文科省が生まれ変わるきっかけをつくったのが『教育機会確保法』です」(『世界』)。

 これは政府が用意した法でなく、議員立法である。本来、「議員立法には政府側は関与しないはずですが、実際には黒子役として私ら担当官が法案づくりをサポートしました」(『世界』)。

 こうした国や文科省の変化を前川氏は、「長年の運動の成果」だとして2006年の日弁連の意見書と超党派の夜間中学等義務教育拡充議員連盟(議連)のとりくみの発足、「そういった動きに後押しされまして、教育再生実行会議も提言を出す。それに伴い、政府の公式文書の中にも夜間中学校を応援していこうという方針がはっきりと打ち出されました」(第62回全夜中研大会2019.12.01 前川氏講演録)と述べている。

 しかし、ここまで来ても私はどこかひっかかる。釈然としない。教育再生実行会議や政府の公式文書に「夜間中学」が登場する背景はやはり別のところにあると考えてしまうのだ。

 文部科学省教育制度改革室の武藤久慶室長補佐(当時)が大阪で行った説明会(2015.11.05)の中で次のようにいったことが主たる理由だと考えてしまう。

 武藤氏はいくつかの資料を示した。一つは「中学3年生の不登校生徒のうち指導要領上出席とされた人数」の推計だ。20年間で105511人(平均5276人/年)にも上ること。二点目に2010年内閣府が行った「ひきこもりに関する実態調査」でひきこもり状態の若者が69.6万人であること。三点目に総務省の「労働力調査」で15歳から34歳人口に占める若年無業者の割合が2.2%(2013年)で2002年以降1.9%~2.3%で推移している(2010国勢調査結果の人口に当てはめると61万9千人になる)。四点目に文科省の夜間中学実態調査で自主夜間中学、識字学級で学ぶ学習者の9.3%が義務教育未修了状態の人たちであること。そして、人口減少、少子化が進む中、これらの人たちが今の状態を脱し、社会的活動に参画されることが重要だ。また外国籍の人が日本で「活躍してもらう」ためにだと述べた。これがホントウではないか。

 「法にない学校」、「社会教育で」と夜間中学冷遇視を決め込んだ姿勢は微塵にもださず、夜間中学開設をいい、公布した教育機会確保法を根拠に地方自治体に夜間中学開設の義務を課した。国の変化の背景に新渡日外国人の存在がある。夜間中学の「法制化」は少子高齢化社会の進行による、労働力不足を外国人労働者によって補うという経団連の意向を受けた「国策」がある(解放出版社『生きる 闘う 学ぶ』396頁)。

 長年の、夜間中学生の願いに応える「夜間中学の学びを」保障するため、文科省は経済界の着眼点ではなく、学習権を保障するところに立ちきって愚直に追究することに努められたい。そこから展望が拓けていくと考える。

 
 
 
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