夜間中学その日その日 (697)
- 夜間中学資料情報室 白井善吾
- 2020年7月21日
- 読了時間: 3分
創造性が求められる(夜間中学の学び)
夜間中学では教員だけでなく夜間中学生も一人何役もの役割とその実行が求められる。単に学校数が少ないだけでなく、広い守備範囲が求められる。一つ一つにマニュアルがあるわけではない。その方法を見出しながら進めることが多い。
夜間中学生は学習者だけではなく、保護者の役割もある。学習条件、学習環境の向上にむけ、学校に対し要求をし、場合によっては教育行政に出向き理解を促すとりくみも必要となる。昼の学校と異なり、夜間中学の設置行政は、夜間中学生が住んでいる行政とは異なることが多い。夜間中学生は住んでいる行政に出向き、夜間中学に理解を求める話し込みと働きかけが必要である。
このとりくみに力を発揮したのが夜間中学生徒会の行動であった。生徒会で話しあい、取り組み内容を決め、行動した。入学当初の夜間中学生は、先輩の話合いや活動に参加し、少しずつ学びながら、自分の経験を加味して、その方法を話合い、行動に移していく。この方法は、夜間中学生にとって優れた夜間中学の「生きた学び」となる。自信と自覚がつくられていく。
夜間中学や夜間中学生への理解や支援を求める。これは「無心」とか「おねだり」とかではない、正当な要求だと考えるから出来る。学齢時、学べなかった原因は親や家庭にだけにあるのではない。この国や政治がそもそもの原因ではないか。学齢時に受けるべき権利の行使を年齢を重ねたいま求めている。これまで私たちは「税金」は納めてきている。そして何よりも、自分たちは授業料を払ってもらえる、社会的活動を行っているという自信がある。
活動の一例として夜間中学が行っている小中高校生との訪問交流がある。交流は両者の学びに大きな力を発揮しているし、役割を果たしているという確信を夜間中学生側は得ている。
居住地の教育委員会を訪問し、再認識したことは夜間中学の事が本当に理解されていないということだ。学齢時、学べなかった気の毒な人たちが勉強されているところだという考えが根強くある。この認識を改めてもらうとりくみから始めなければならなかった。何年かするとその担当者は移動されている。それにもめげず、夜間中学生は訪問している。
この夜間中学生の行動に、教員もともにすることは重要で、「力」がつく。私の場合、夜間中学の教員になりたての頃、授業で使える「教科書」がないことに気づいた。何をすればいいのか?先輩に質問した。すぐに答えは返ってこなかった。学齢の子どもたちのように、教科書に沿って授業を進めていけば、大きな間違いは生まれてこないのと違い、就学・就労経験、年齢、国籍、などさまざまな夜間中学生には学齢者用の教科書は有効でない。
こんな環境でのとりくみは、教員人生をふりかえったとき、鍛えてもらったし、大切な力を獲得できたと思う。夜間中学生も教員も、マニュアルがない、創造性を発揮して正解を追究するこの営みが出来る場が夜間中学だということが出来る。

(写真説明)守口夜間中学が30年を迎えるにあたり、生徒会のとりくみをまとめた冊子が完成した(171頁。2003年9月2日発行)。表紙のカットは夜間中学を訪問交流した守口市立第一中学校の「夜間中学探検隊」の中学生が、描いて夜間中学に届けられたものの一つ。夜間中学生の間に座り、夜間中学の授業を体験し、〝小さい先生〟が夜間中学生に説明をしている。小さい先生たちは、学校に帰り、新聞を発行し、訪問交流の様子を伝えた。新聞にはこの挿絵が収録されている。はじめから決まった流れがあるのではなく、いろんなアイディアがうまれてきて、それを実現していった。昼の子どもたちも生き生きしていた。もちろん夜間中学生も、教員も。