夜間中学その日その日 （1039） 髙野雅夫

文の里夜間中学生徒会との話し合い（1975.6.14）記録その2　 2025.07.12

女生徒：「やっぱりフリガナしてもらった方が早く覚えるから良い。フリガナしてなかったらサッパリわからん」

髙野：「よめただけで良いのですか、よめたぐらいで俺たちが受けてきた怨みがはらせますか。ここに〝狭山差別裁判の第2審判決が10月31日にでていらいすでに半年が経過した〟これを全部フリガナしてあるから皆んなもよめるでしょう。しかしこれが本当によめるという事は無実の人間が殺されようとしている―つまり部落民300万人の生・死がかかっているという事まではっきり自覚してこそ読めたといえるのだ、それがわかるまで俺は35年もかかったんだよ。この35年間どんな思いで生きてきたのか　‼　奪い返してきた一字一字にひと言ひと言に俺たちの怨みつらみがこめられているんだよ。漢字を覚えるとか、読めるとか。教えるとかそんなもんじゃない。まさに死に物狂いで奪い返す闘いなんだよ。知識としての文字やコトバなんか昼間の中学生に逆立ちしたってかなわないよ」

女生徒：「私は全部にフリガナふってもらわない方が良い。マンガよんでるみたいでちっとも覚えられないから‥「髙野さんは進んでいるから良いけれど、私たちはまだ一年生だからやっぱりフリガナふってもらった方が良いと思います」

女生徒：「その時の条件によってふったり、ふらなかったりすれば良いと思います」

金城先生：「教師にも発言許してもらいたいんだけど、今出ている問題はおせっかいするな―そういう親切ごかしのおせっかいが生徒の自立を奪っているというもんだと思う、高橋君なんかからその辺の事が出たらもっと話が発展するんじゃないかな？」

高橋：「いろはも書けない、よめない俺たちをどうしてくれるんだ…」

髙野：甘えるんじゃないよ、俺たちは市役所の課長でもないし、大臣でもないんだ。君の云い方は役人に対する糾弾と同じじゃないのか。俺たちが今本当に聞きたいのは知りたいのはその先なんだよ。それを確かめるために今夜の話し合いだってやっているんだよ、なんでも云ってくれよ‼　生命がけでやるから―」

いきなり俺が立ち上がってどなり出したので高橋君がオロオロしはじめ、囲りをキョロキョロみまわす。いつも支援学生たちを背に発言しているので―

髙野：高橋君の自立を奪っている支援学生たちこそ俺たちの敵だ‼　そいつらをはなしてやりたい　高橋さん、支援学生を拒否しろ‼　あったかいもの感じたらヤバイと思え‼　俺たち最下層人民の自立を奪ってきたのは支配者（差別者）ではなく、反体制とか解放とか叫びつづけてきた支援者（逆差別者）なのだぞ　‼　自らの力でその正体をアバケ―逆差別者と対決（拒否）することによってしか俺たちは自立できないのだ―いつの日か必ず証明される。

　時間切れで残念なり―生徒会より5,000円もカンパ。それと、大ちゃんが黄色い服を着た女の人からもらった紙包みに8,000円入っていた。「OO」さん全財産出されたのではないかと心配です。お礼も云えず本当にありがとう。자립の印刷代に使わせてもらいます。帰りに金城先生が沖縄に行く前、どつかれないよう少し話をしようやと言われる。沖縄出身の先生の老婆心こそよけいなお節介であり、逆差別者なのだ。生徒会主催の話合いになぜ教師が発言する―生徒を信頼していたら―信頼するような学び方をしていたら手前が口出す必要があるのか！ルンプロ元年―種の生理（しそう）ではなく肥やしの生理（しそう）なのだ　‼

編集者　細かい文字が読みづらくなった髙野さんに、この通信を読んで、理解できない高橋さんとのやり取りの部分を質問した。するとこの日のやり取りを明確に再現されたことに驚いた。そして「アサヒグラフ2704号（1975/7/18）にこの場面の写真が出ている。「両手を広げて話している。私の後ろから撮った写真だ」と説明が加わった。

　“漢字にフリガナを打つことについて”を例に“奪われた文字とコトバを奪い返す”夜間中学で学ぶことの意味の確認を求めた、髙野さんの意図は50年後の今もその追求は続いている。