夜間中学その日その日 （742） 夜間中学資料情報室
2021.02.08
福田雅子さんがお亡くなりになったことを（730）で書いた。第51回全国夜間中学校研究大会（2005年12月1日～2日）の記念講演を福田さんにお願いしたことも書いた。読者の方から、講演の内容の問い合わせがあった。51回の大会記録誌に収録していることをお話しした。改めて読み返してみると、夜間中学関係者以外の人たちにもお知らせしておきたいと考えた。4回に分けて紹介させていただく。今回は3回目
（編集部）。
記念講演 「文字を覚えて夕焼けが美しい」（3）
元ＮＨＫ解説委員 福田 雅子さん
― 今、一年生ですか？／ ええ、1年1組です。／ 一緒のクラス、はい。どういうことから入りましたの？夜間中学に。／私も全然貧乏で生まれて済州島で生まれて今も両親おります、年寄りだけどももう、あそこで生まれたらなんしか、女の子は全然学校へやる気持ちがもう頭の中にないんですよ、男は二人とも学校へ行かせたけれど、妹と私はいっこも行ってないんです。それで10歳くらいになってきよるとね、人が学校行っとるんですよ。／ 行きたいですよね、子供の頃はね。／頭にね、考えてまして、そこに年寄りのおじいさんが、あのとき私が10歳のころに見たら60歳くらいの百姓の老人やね。それがね、ああいう人がね、女の子５・６人席を買うお金だけ持って行ったらね、このくらいの板ね朝鮮のかなを教えてくれるんですよ。／ そうすると、字を習ったというのはそのときだけ？
／ ええ、そのときだけ習いました。2年ほど、冬になると1ヶ月2ヶ月ほど行けないんですよ、忙しいから。そのあと若いもんが出てきてね、さあ、これちょっと、女の子にも字を教えたげなあかんと、日本に来て行って、国に帰った人がひらけてるでしょ、そういうような人が夜学つくってね、教えてくれたんです。それが、冬になって1ヶ月か2ヶ月くらいしかできないんです。旧の正月明けたら忙しいから全然しないんです。そんなんしてるうちに、日本に16歳で来たんです。それでもう、勉強がしたくてしたくてしゃあないけれども、あのときの仕事は7時から晩の11時まで働くと、もう全然字を書く間も何もないわけで、3年ほどおりまして、日本に大阪に東成に、今の主人が、いいなずけした主人やからね19歳のときに朝鮮に帰ってお嫁に行かんならんのです。それで私、日本に来るときにもう親が貧乏で嫁に行くときふとんも作ってやられへんから日本に行ってもうけてきてね、お嫁に行きなさいって、私来たんです。それでもう100円くらい儲けてね、全部ここから着る服とか、鏡台とかみんな買ってお嫁にいったんです。それ主人が嫁に行ったら５日目に日本に来てしまったしね、私は田舎に残って足かけ５年ほどおったら主人が迎えにきてこっちに来たんです。主人は18歳なるまで字がわからん人でしてん。
― これはいつ書いたの？／ これは入学式の感想書きなさいって言われたから書いたんです。
― 『私は、入学式に参加させていただいて本当にうれしく思いました。52歳まできた甲斐があったと思います。生まれて初めて学校へ入学した気持ちは、心の中で涙がいっぱい浮かんでたまりませんでした。恥を忍んで涙を隠して入学しました。先生も、生徒の皆さんも、この3年間よろしくお願いします。』／よくかけたじゃない。
この『こんにちは、奥さん』という番組は生放送だったんです。後になって,大阪府の教育委員会が１6ミリの映画フィルムにして残しておられることを知り、ビデオに落としてもらったもので、大変大事な映像になりました。1時間近い生放送でそのあと花菱アチャコさんの“お風呂と私”という話題は、20分弱ぐらいの時間を差し上げる番組だったんです。それが何と10分弱しか話せなかったんです。
もう、このなんか勢いていうか、特に鈴木健二アナウンサーは、「うんうん、うんうん」って言って出演者の話を聞きながら、だいたい次、この人がいけるかとか、もうこの人短かったら短く切り上げようというようなことを、考えながらナマ放送をすすめていけた人なんですけれども、私が書いたシートを渡していた、出演者のプロフィールを念入りに読んでインタビューをしました。最後に鈴木アナがインタビューを打ち切ろうとしたとき、ひとりのオモニが“みんな学校においで”と言って、マイクの前で叫ばれたのです。〈つづく〉
＊ 福田さんの話にある「シート」は現在開催中の水平社博物館企画展「夜間中学生展」で見ることができる。
＊この日の出演者が放送後BKスタジオで写した写真が「髙野雅夫夜間中学資料」に所蔵されている。写真前列は夜間中学生と髙野雅夫さん〈左端〉。後列 花菱アチャコさん（左から二人目）。鈴木健二アナ（後列右端）。
