夜間中学その日その日 (745) 白井善吾
- journalistworld0
- 2021年3月1日
- 読了時間: 4分
髙野雅夫編『ルンプロ元年 자립』 2021.03.01
髙野さんが証言映画「夜間中学生」を背に全国行脚に出発したのは1967年9月5日、青森・北海道が最初である。真っ先に向かったのがどうして「青森・北海道」であったのか、夜間中学に勤務して間もないころ、授業中質問があった。「どうしてでしょうね?」と頼りない返事をして、教室にある髙野さん編集の『チャリップ』を取り出してここに書いてあるかもしれないと話した。最前列で本の表紙を見ていた別の夜間中学生が「髙野雅夫さんは朝鮮人ですか?」と質問してきた。『ルンプロ元年 자립』とハングルマルで書いてあるのでそう質問したのだ。これにも「どうでしょうね」と頼りない返事をした。

この夜間中学生、時間を見つけては『チャリップ』のページをめくっていた。1993年『夜間中学生タカノマサオ』が出版されたことを知ったとき、真っ先に購入された。
1980年代の半ば、ある集会で髙野さんと再会し、手に入れることは難しいと半ばあきらめかけていたが、並べられた『チャリップ』を見つけ、さっそく入手し、少しずつ読み進めていたが、どうして青森・北海道だったのか質問には答えられなかった。読み方が雑なのか、明確な理由を見つけることができなかった。
『チャリップ』の66頁に収録されている札幌工業高校(定時制)の新聞にそのヒントがある。札幌工業の生徒が修学旅行(4月10日)で東京に行ったとき、自由時間を利用して、数人の生徒が髙野さんの母校荒川9中夜間中学を訪問し、その報告を「札工新聞」1967年7月25日号に詳しく記載していることが分かった。この時期は映画完成まで1ヶ月を切った時期でもある。この訪問で出来上がった映画を、全国で上映していく構想があることを知り、定時制高校生は学校に戻り、校内実行委員会を立ち上げ、カンパを呼びかける行動に立ち上がったという。高校生のとりくみに応えたいという事がまず青森・北海道にという大きな理由ではないだろうかと考えた。ずっと後になって、このことを髙野さんに質問すると、理由の一つだ。そして何よりも、北から南へ順番に全国を回るというのがその時の俺たちの考えであった。島生徒会長の訪問報告文が『チャリップ』に収録しているとお教えいただいた。改めて読み返した。
定時制高校生、島武裕(生徒会長)さんが書かれた「夜間中学校へ行く」を紹介したい。
「どうしても夜間中学校と私たちの学校生活を同じイメージをもって描くことはできなかった。彼らは就学年齢者でありながら、正規の労働に従事して家計を助けていることや世界最高の憲法のもとで教育普及率も高く、教育王国といわれている日本に夜間中学が存在しているという特殊な先入観念があったからであろう」「彼ら夜間中学生が、社会の諸々の矛盾にぶつかり、そのために彼らの細かい心が打ちひしがれて暗い性格のものが多いのではないかというイメージがあったからである」と夜間中学生に対するイメージを語っている。
最初に入った職員室の様子を次のように記している。「普通の職員室のように威厳を保つためにどうのこうのというかた苦しいものではなく、たえず生徒が入ってきて先生方と和気あいあいと話をしている。その狭い部屋は、ある時は相談室となり、またある時は生徒たちの一日の出来事を話す場となっているのだ」と雰囲気を的確にとらえられている。
また夜間中学生を次のようにみている「彼らは、元気で明るかった。一日中、あのようにいきいきとした生活をしているのであろうか。そうではあるまい。学校という集団だけが、いまの彼らにとって、一日の疲れをいやし、人間らしい喜びをみい出すことができる場所なのだ」と見抜いている。
私の考えと違っていたこととして年齢をあげられている。「わたしは、てっきり12~15歳位までだと思っていたら、40代のおばさんもいるし、20代の生徒も数人いた。これは一体どういう事だろうと疑問をもった」と書かれている。
そして次のような言葉で文章をまとめておられる。「わたしは彼らのそのような姿を見た時、単なる同情心だけでなく、本当にお互いに手をつないで、太陽の下で学び、そして大いに成長しなければならない少年たちを保護する社会にしていかなければならないと思った。またこのような社会悪ともいえる現実を見た時、近年盛んに問題になった、政治的な汚職や税金のつまみ食いなどの存在に対して憤りを覚えずにはいられなかった」。
自らの学びを通して、獲得した文字とコトバで社会を視、行動していく力をきっちり押さえた、島生徒会長の報告だ。
10年目を迎える東日本大震災。荒ぶる自然に人間の非力さと原発推進の危険性について授業が進んだ。授業で考えた事を文章にして届けられる。次の時間それを紹介して、議論がさらに深まっていく。教員も考えた事を報告する。
いま夜間中学ではどんなテーマで学びが展開されているのだろう。各夜間中学で発行されている文集を早く読んでみたい。
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