夜間中学その日その日 (749) 白井善吾
- journalistworld0
- 2021年3月28日
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3.27水平社博物館現地学習会
「夜間中学開設運動と水平社宣言」 2021.03.28
わたしたちが水平社博物館(奈良県御所市)玄関に到着すると、西光寺前の「人権ふるさと公園」の桜は5分咲き、燕が3、4羽宙返りしながら桜の木々の間を飛行している。「近くにおられるみなさん遅いぞ、なんでもっと早く来なかったのだ。わたしたちは遙か遠くからやってきて、企画展は何度もみたぞと」言っているように聞こえた。企画展「夜間中学生展」も来月4日で会期末を迎える。夜間中学卒業者の会が呼びかけ、夜間中学卒業者、在校生、教員 30人が参加、何とか間に合った。「新型コロナでと言いかけたが、もう燕はそこにはいなかった。満願寺川の水音しか聞こえなかった。
午前10時の開館の受付を済ませると参加者とともに、企画展の会場に入っていった。隣の人権センター会場の準備のため、私は企画展会場には行けなかったが、その様子は、「81歳になった髙野雅夫さん、20代の写真と全国行脚の出で立ちを参加者に説明」とフェイスブックにたくさんの写真がアップされている。この日、「夜間中学開設運動に及ぼした水平社宣言」について髙野さんがどんな説明をするのか聞きたいと集まった参加者である。展示物を前に何を語ったのだろう。写真家・橋本要さん撮影の20代の髙野雅夫に50年後の髙野さんは何を報告したのだろう。私はその場面には出逢えなかった。

11時15分からの集会では、参加者は駒井館長と一緒に水平社宣言を読み上げた。意味を考えながら声を出して読んでいった。私はいつも涙声になってしまうが、会場に流れる参加者の声もそうであった。地からの叫びともいう、響きが空間に満ちた。宣言のなかには「人間」が10回使用されているが、「差別」の語彙はどこにも用いられていない。「人間性の原理に覚醒し人類最高の完成に向かって突進す」とあるように日本で最初の人権宣言だと説明があった。来年、2022年は宣言が発せられて100年目を迎える。
岡山での全国行脚で、1967年11月8日、水平社宣言に出逢い、荒川九中夜間中学を卒業する日、卒業記念に学校から送られた国語辞書に意味は分からず、「同情を憎み、矛盾に怒れ」と書いた。その辞書を肌身離さず持ち、こだわり続けた正体がこれなんだと思い知らされた。その水平社宣言を後日、髙野さんはロウ原紙に鉄筆で刻み謄写版でB4のわら半紙に印刷をした。
企画展では辞書と共にこの水平社宣言が展示されている。水平社宣言の「これ等の人間をいたわるかの如き運動は、かえって多くの兄弟を堕落させたことを想へば」「吾々がエタである事を誇り得る時が来たのだ」の2カ所傍線が引いてある。

しかし、マイクを持った髙野さんの口をついて出てきたのは、天王寺開設50年のこと、住民投票で否決された都構想が進められている昨日の報道のこと、夜間中学現場が窮屈になってしまっている事実をあげ、天王寺、文の里はじめとする夜間中学の統廃合の深刻な懸念についての発言であった。そして夜間中学にはPTAがない。そこで夜間中学の後援会の一人として提案した返事として、当時の現場の管理職の口から「夜間中学の開設ではお世話になったが、50年後の今は外部の人だ」という意味の発言があったと語った。
水平社宣言を流れる「人間性の原理」からしてやはりこの事実は明らかにしておかなくてはと髙野さんは考えたのだと思う。50年たった夜間中学現場が窮屈になり、それからの解放を考えた時、この提起をどのように受け止め、克服の方途を探るか、重大な提起を私たちは受けているのだ。
これを受け、参加した夜間中学生から本音の意見が相次いだ。「(都構想を進めているのは)政治家ではない、政治屋が動き出した」「夜間中学がどうして生まれ、どのようにあゆみ、現在があるのかを知らないとダメだ」「その歴史を知らない先生があまりにも多すぎる」「こんな機会に出てこれない人から私たちは教えてもらっている現実を知るべきだ」。「夜間中学生の力のある発言を聞けた。参加してよかった」「生徒の、その力をそいでしまっているのが教師であることを気がつかないと」現役教員の声もあった。
夜間中学の主役は教師ではない、夜間中学生だ。しかし、その生命線を握っているのは教師だ。髙野さんは最後にこう言って、マイクを置いた。
午後は、水平社宣言の起草者、西光万吉の生まれた寺・西光寺前の「人権ふるさと公園」で交流会を行い、すべての参加者が想いを語った。
西光寺本堂横に立っている西光万吉の墓、その周りに敷き詰められた花崗岩の砕石は、「黒雲母角閃石花崗岩」と呼ばれ、大粒の黒雲母の結晶が特徴である。基壇の積石はこの岩石で、地下深くでできた深成岩が、ここでは地上に姿を見せている。黒雲母は私は西光万吉の大きな眼球に通じると思った。私たちは水平社宣言に恥じない夜間中学づくりに卒業者の会もとりくみを進めないとと想いを新たにした。(写真・平沼さん提供)
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