top of page
検索

夜間中学その日その日 (756)    白井善吾

  • journalistworld0
  • 2021年5月11日
  • 読了時間: 4分

  夜間中学の授業の組み立ては            2021.05.11

 季節の移ろいは私の子どもの頃頃と比べ、確かに変化してきている特に今年は平年と比べ、半月早くなっている。茄子、キュウリなど夏野菜の苗が届くのが一週間早くなっている。イチゴも10日早く収穫が始まった。レンゲ畑に昨日は小学一年生が、そして今日は保育園の子どもたちがはいっている。子どもの声が聞こえてくると、落ち着いた気分になる。花を摘んでいる子ども、虫を追っかけている子ども、保育園の先生の声は聞こえないが、小学校の先生の声はよく聞こえる。小学校はレンゲ畑に入る予定の日、何があったのか、翌日に延ばした。ところがその日は前日夕方に降った雨で足元の悪い中実施となった。段取りが悪いというのか、真新しい運動靴は次の日別の靴に履き替え登校することになった。「いまの先生方はこんなとき、田の中に入るとどうなるかという事はご存じないのか?」地元の人たちの声が聞こえてきた。

 確かに、状況に合わせて予定を変更するという学校現場の融通性が利かせない状況になってしまっているのかもしれない。保育園の子どもはレンゲ畑の草むらに隠れてかくれんぼをしたり、寝そべったり、レンゲの花びらの奥にある蜜をなめて「甘い」といったり、一方小学生はそんなこともできずに、早々に引き上げていった。



 いまの学校現場の状況も知らずに、軽口言うなとの声が聞こえてくるが、夜間中学の場合はどんな展開になるだろう?夜の時間帯だから、直接レンゲ畑に行くことにはならないが、2月ごろの陽だまりに咲いていたレンゲの花を摘んできてもって教室に行くと、まず用意した内容の学習には入っていけない。

「もう咲いていましたか?」「レンゲの花ですね」「最近は郊外に行かないとみることができません」「どこに生えていたんですか」、持参した花を配ると夜間中学生からこんな話が出てくるはずだ。

「甘い」という声に促されて、花を引き抜いて根元を舌の先につけて、味を確かめるひともある。「子どものとき、よくなめました」「はちみつ」。最近ミツバチが減ってきた話も誰かが話し出すはずだ。

「稲のあと麦をつくっていましたが、後になってレンゲを蒔くようになりました」農業経験者はこの話を出すはずだ。根粒菌、緑肥、「先生、根っこから引き抜いて、根をみんなに見せてあげてください」と注文がつくはずだ。

 いつも辞書で漢字を確認しているAさんに「お願いします」というと、黒板に「蓮華」と大きく書いてくれる。プリントに書き写しながら「華」の筆順は声がかかる。「どうだったか?」と答えながら、筆順の書いた辞書で調べ、黒板に書く。

 配ったルーペを使って、鉛筆の芯で花を分解して、おしべ、めしべを調べることをお願いして、双眼実体顕微鏡でも確かめるため、検鏡できる準備をする。

 夜間中学で私がよくとった方法は、1時間で完結する学習内容に心掛けた。というのは、毎日出席できる人はどちらかというと少ないのが実態であった。前の時間の学習内容がわからなかっても、出席できたその時間の学習にそのまま入っていけるよう、組み立てを行った。「前の時間に学習したように」という言い方は、私としては使ってはいけない言葉であった。そのとき出席できなかった夜間中学生には負担になるコトバだと考えたからだ。それよりも、出席できたとき、意識してその夜間中学生の得意とする分野の質問をして学習を進めた。

 夜間中学の場で、その人のそれまでの人生での経験を元に、新たな出逢いを通して自己を解放して自信を獲得していくさまざまなとりくみができる場所が夜間中学だと考えている。そこには人と競い合うこともない、時間の制約もない、納得できるまで時間を空け、授業の組み立てができる、そんな柔らかさが夜間中学にはある。雨のあと、レンゲ畑にはいって、早々に引上げていった小学生の姿を見ながら考えた。


 日本の教員の過酷な働き方の実態が明らかになった、OECD=経済協力開発機構が5年に1度実施している世界各国の教員の勤務実態などの調査報告(2014年)の資料があった。調査にはじめて参加した日本は、1週間あたりの教員の勤務時間がおよそ54時間と参加した34の国と地域の中で最も長く、平均の1.4倍。2018年の結果では1週間あたりの勤務時間は56時間とさらに長くなっている。その内容を見ると、部活動などの課外活動が7.5時間と平均の4倍に、書類作成などの事務作業も平均の2倍に上っている。「過酷な働き方が続けば、教員がつらいだけなく、子どもたちにも確実にしわ寄せがいき、それはつまり、未来の社会にも影響することになります」との報道があった。

 教員の志望者が減る中、文部科学省が3月下旬に始めた「#教師のバトン」プロジェクトが話題になっている。同じ文部科学省の別のセクションは「夜間中学が持っている先進性」にやっと、お気づきになったようだ。



 
 
 

Comments


Featued Posts 
Recent Posts 
Find Me On
  • Facebook Long Shadow
  • Twitter Long Shadow
  • YouTube Long Shadow
  • Instagram Long Shadow
Other Favotite PR Blogs
Serach By Tags

© 2023 by Make Some Noise. Proudly created with Wix.com

  • Facebook Clean Grey
  • Instagram Clean Grey
  • Twitter Clean Grey
  • YouTube Clean Grey
bottom of page