夜間中学その日その日 (763) 白井善吾
- journalistworld0
- 2021年6月28日
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全国知事会の「夜間中学の設置促進の提言」 2021.06.28
全国知事会議が2021年6月10日、オンラインで開催され、山梨、福岡両県を除いた45都道府県の知事が出席、夜間中学についての提言もまとめられたと報道があった(北海道新聞2021.06.11)。
「夜間中学の設置促進に関する提言」と題するA4、3頁の文書を読むことができた。前文、1.安定的な運営のための定数措置等、2.設置準備から設置後に至る継続的な支援、3.通学の困難さによる格差の生じない教育機会の確保からなる。

前文で夜間中学の果たす役割について「教育を受ける機会を実質的に保障するための重要な役割を果たしている」と書き、「夜間中学の設置を促進するためには、設置しようとする自治体が各々の実情に応じて柔軟に対応できるような国からの支援が必要である」と記述している。
1では、夜間中学の教員配置実態の問題点を指摘したあと「国において、夜間中学独自の教職員定数の標準を定めること」と国の財政支援を強く求めている。
2では、夜間中学が設置されるまで夜間中学新設準備・補助事業の継続と当該事業の補助率のかさ上げと「夜間中学の設置準備に係る定数措置の創設」を求めている。徳島県立しらさぎ中学と常総市立水海道中学が行った、開校準備を進めるため、開校一年前に担当者を配置し、開校に備えた運びを評価した提言である。
3では、「離島や中山間地域等の地理的条件により、就学を希望する」人が「広域に散在し、通学が困難な」人がいることを指摘し「居住地等による学びの格差が生じないよう、制度面や財政面の支援の充実を図ることが必要」だとして「ICT を活用した遠隔授業」を掲げている。
「義務教育の段階における普通教育に相当する教育機会の確保等に関する法律」(教育機会確保法)により、「地方公共団体は、夜間等において授業を行う学校における就学の機会の提供等を講ずる」と国は設置する義務を地方公共団体に課し、国が取れる支援施策を行ってきているが、それが十分でないことは開校へ動きの鈍さが証明している。設置する地方公共団体の負担額が半端でなく、「どうして私の行政だけがしなければならないのか」「入学希望者はいくらほどあるのか」「長期的見通しは」とか、他の行政がどんな動きをとるのか様子見の姿勢が見え隠れする。また、夜間中学ではなく、社会教育で学びの場所を設けて、様子を見ようとの動きもある(和歌山県・岡山県・岡山市・三重県)。
また夜間中学を設置した行政は、行政区以外からの入学者を認めるためには、入学者居住の自治体に負担金を求めるとの報道があった。神奈川県相模原市の夜間中学 入学者居住の自治体と運営費負担で協定。「市教委は、協定を結んだ自治体側の負担は、入学希望者1人当たり100万円程度と試算している」(神奈川新聞 2021.05.19)。年間なのか、在籍期間(3年間として)で100万なのか、この報道からは不明である。
設置市以外の自治体も経費を負担する制度を以前から採用しているのが奈良県内の3校の夜間中学で、補食費・通学費・遠足費・修学旅行費・学用品費以外に、市費負担教員の人件費を人数割したときの金額が11万円/人になるという。遠距離から通学するときの金額も相当の金額になる。夜間中学生の実態を考えると、利益者負担という事で個人に求めることは何としても避けるべきだ。複雑になるので、夜間中学の就学援助制度については別の機会にする。
夜間中学独自の教職員定数の標準を定め、その財政支援を国が行うという、知事会の提言は重要だ。国は早急に取り組むべきでないか。
夜間中学の行政担当者、とりわけ文科省の担当者が持っておいていただきたい考え方として、夜間中学生に義務教育を保障「してあげます」という考え方をしていないかという事だ。夜間中学を設置すれば、教員や行政が夜間中学生から学ぶこと、教育行政の重大な欠落点が見えてくるという事。これに気づかせてくれ、教育の質の根本的な見直しの“めがね”のかけかえを教えてくれるのが夜間中学生だという考え方だ。
「してあげます」の姿勢を夜間中学生から厳しく指摘を受けた例がある。2004年2月22日、近畿夜間中学校生徒会連合会役員代表者会に出席した夜間中学の校長が「夜間中学生はみんなの税金で一人百万円かかっている。このまま運動を続けていれば‥」と夜間中学生徒会のとりくみを中止させようとして言った発言だが、近畿夜間中学校生徒会連合会役員代表者会の出席者から、「恩恵で生きているのではない。一生懸命働いて市民としての役割も果たしている。(子どものとき)義務教育を受けていれば、その時に百万と言われるのに相当するお金を使ってもらっていたと思う。今義務教育を受けているので、そのお金を使わせてもらっているのだ」との反論があった。
しわ寄せや矛盾が夜間中学生の学びの充実にマイナスにならないよう、広域行政を担当する、都道府県、そして国は知恵を絞っていただきたい。
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