夜間中学その日その日 (765) 白井善吾
- journalistworld0
- 2021年7月1日
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「教師も学ぶ『夜間中学』」 2021.07.01
4月開校した夜間中学が今どんな取り組みをしているかを伝える報道番組を見ることができた。「教師も学ぶ『夜間中学』」、NHK徳島局制作の9分弱のテレビ番組だ(放送日2021.06.23 18:30~)。県内初の夜間中学、すべてが新たな試み。取り組めば新たな課題が次々生まれ、それに埋没しまう日常の中から、夜間中学の存在意義を明快に示された優れた番組ではないだろうか。開校した夜間中学がどのように船出し、何を羅針盤に進路をとられているのか気がかりであった。まずもって取材を重ねていただいた伊藤一馬さんに感謝申し上げたい。

番組の前半は「公立夜間中学 開校2年目 若手教師の奮闘」で夜間中学に密着取材した映像。後半はスタジオで分析していく組み立てであった。
4月、開校した徳島県立しらさぎ中学校(夜間中学)に開校2週間前に勤めている高校(昼)から夜間中学への転勤を告げられたという、32歳の社会科教師(以下A先生)の背をカメラは追っている。
「びっくりしましたね」「今まで自分が積み重ねてきたことを高校生向けに勉強してきたことがどのくらい通じるのだろう。不安はありました」と率直に述べられている。
A先生の授業の映像が流れる。「たくさんのことを教えたいと熱が入りますが・・」とテロップのあと、「石炭とか鉄鉱石はどこから輸入していますか?」とA先生は夜間中学生に質問する。50~60代の夜間中学生「…」。黙ったままだ。テロップ「話す言葉が速く伝わりません」。授業が後半にさしかかって、「プリントが持参されていないことにA先生が気がつきました」とテロップが流れる。このA先生は「自分が前でしゃべっていることに夢中になっていて生徒さんの学びの状況をちゃんと捉えられていなかった」とふりかえられていた。
私にも同じような経験がある。昼の学校で染み付いた経験は、なかなか抜けないのだ。夜間中学生から直接「先生、わたしたち急ぎませんから、ゆっくり話してください」と指摘されて気がつくことがあった。
空席になっている机が写され、休みがちの生徒が出てきてと説明が入り、「生徒のために何かをやってあげている、自分では頑張っているつもりなんですけど、しかし、そこの力がまだないのかな?」A先生はつぶやき、この悩みを週に1度開かれる“生徒理解ミーティング”で話した。「引きこもりがちの生徒が、今どう過ごしているのか、これからどうしようとし考えているのか、にはまだ踏み込めていないが私はどうすればいいのか個人的に悩んでいる」と打ち明けた。ミーティングに参加している校長は次のように話した「この学校で自分はおれるんだ、居てもいいんだなという気持ちになれるように、それには担任一人では無理です。話をして、みんなと状況を共有する。すると、それぞれの先生も、この子の変化を教えてくれる。『こんないいところがあったよ』と。そしたら自分が動かなくてもみんなの先生が動いてくれる。これがチームなんですね。そんなことで、頼ってください」と。
一人で抱え込んで、集団が硬直化し、何も解決しない方向になってしまうことが多いのだが、重要な指摘だと想う。これが実践できる教員集団であり続けてほしいと想った。
前半の最後、A先生は次のように語った。「なかなか来れない子どもが居て心配になるんですけど、来てくれたときに、その時間を大事にしていけたら、いいものを重ねていけたら」「この先生と一緒だったら、この学校だったら、自分も成長していけるなというふうに想ってもらえるような先生になりたいです」。
伊藤記者のまとめは「生徒にとっても先生とっても成長の場に。新しい学びの場が徳島に生まれています」。
後半はスタジオで担当アナウンサーとのやりとりの展開。
「夜間中学はさまざまな事情を抱えた人たちも学んでいる。この人たちの自立をめざす場所が夜間中学です。一人ひとりに寄り添った細かい教育が求められている」と伊藤さん。
「先生にとってやりがいがあるということですか?映像を見ると大変だと想うのですが?」とアナウンサーが問うと、
「多様な生徒一人ひとりにあわせた教育が求められている。その点では国も同じなんです。個に応じた学びの展開の象徴的な現場が夜間中学なんです」「夜間中学は通っている生徒だけでなく、教師にとって夜間中学は大切な場であると指摘しています」と説明し、文科省の夜間中学担当者を登場させている。
文科省初等中等教育局教育企画課 白井俊教育制度改革室長「一人ひとりに応じた指導をしていく、一人ひとりの個性やよいところを最大限引き出していくということでこれまで先生方もとり組まれてきた事だと想う。ただやっぱり(昼の学校は)一斉授業が基本となっている。そういったところで限界もある。人数もある程度いれば先生の負担も大きくなっていく。昼間の学校でも非常に多様化が進んでいるという状況があり、多様性の高い夜間中学の経験を持っている方はおそらく、その経験が昼間の中学校でも大いに生きていくのではないか」
アナウンサー「夜間中学を経験した教師が昼に戻ってとりくみを進め行く、いい循環が生まれる」
伊藤記者「夜間中学は公教育に果たす役割は非常に大きいと取材を通して実感しました」。
およそ、こんな展開ではなかったか。白井室長の前任者が「夜間中学のもつ先進性」という表現を使っていたが、この放送ではもう一歩踏み込んで話している。わたしたちは夜間中学は教員の学びの場、「教員の道場」という表現を使ってきた。
見終って、うまくいえないが、やっとお気づきになったか。それだったら、次に取りかかっていただきたいことは、「夜間中学への予算措置」「人的措置」ですね。急いでください。8月末には2022年度の概算要求の発表がある。ここに反映していただきたい。
https://www4.nhk.or.jp/P2799/194/「教師も“学ぶ”夜間中学」がアップされている。
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