夜間中学その日その日 (769) 白井善吾
- journalistworld0
- 2021年7月25日
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2021年度夜間中学卒業者の会総会 2021.07.26
作家・島田雅彦 さんは五輪開会式をみて、次のように書いている。「新型コロナウイルスの感染爆発だけでなく、政治、経済、マスメディア、市民生活を蝕(むしば)む病巣が確実に拡大し、日本は敗戦も同然の状況に陥りかねない。誰もその責任を取らないところも、先の大戦と同じだ。開催をゴリ押しした人々は、事後の惨状の責任を追及されても、全員が貝になり、口を固く閉ざすのだ」〔2021.07.25 毎日新聞〕。
髙野雅夫さんは57年前、東京五輪のことは全く覚えていないという。1964年3月、夜間中学を卒業した髙野さんはこのように語った事がある。定時制高校、大学を卒業して夜間中学の教員に。これが夜間中学を卒業したときの髙野さんの夢であった。結婚し、子育てをしながら、定職につかず、働いていた髙野さんには、五輪準備にひっくり返る東京の変化は、意識することがなかったということか。(*この夢と決別したのは水平社宣言との出逢いであることは前に書いた)。
2021年7月24日、この日も猛暑日、高齢の夜間中学卒業者の会員にとっては酷な日となったが、東大阪市立多目的センターで、2021年度夜間中学卒業者の会総会が21名の参加で行なわれた。第一部は総会、第二部 髙野雅夫さんに聞く-証言映画「夜間中学生」にこめた想い-を行なった。
20年度の活動と会計報告のあと21年度の活動として ①夜間中学開設に向けた全国行脚、映像化作業 ②シンポジウムの企画(市内夜間中学再編、耐震工事、新校舎建設) ③各夜間中学、開設50年のとりくみ ④ 近畿夜間中学校生徒会連合会の行事に参加していく ⑤会誌「砦」の発行 ⑥ 髙野雅夫「夜間中学資料」整理活用作業 ⑦ 夜間中学生寄席の企画とその常設化 ⑧『生きる 闘う 学ぶ』など出版物の普及を提案した。

議論では、たくさんの会員から発言があった。夜間中学現場も近畿夜間中学校連合生徒会も活動がほとんど行えない状況下、「夜間中学卒業者の会」の活動をもっと拡げ、夜間中学を巡る状況と課題の共有を図り、縁の下の力持ちの役に徹する卒業者の役割をどのようにすれば果たすことができるか、その方針が実行に移せない、いらだちを有効な力に変える事が重要である。そんな指摘であったと受け止めている。現役も卒業者もない、卒業者も夜間中学運動の現役ではないかという指摘があった。悩みを共有し、引き続き、建設的な意見を活かしていくとりくみを拡げていこうとまとめることができる。
第二部では証言映画「夜間中学生」を観た。行政管理庁が夜間中学廃止勧告をだした66年当時の夜間中学生が写っている。この夜間中学生も現在、65才以上の高齢者だ。どんな人生を歩まれているのだろう。
「東京立川3中の夜間中学は在校生がいるにもかかわらず、廃校にされた。廃止勧告が出て。何もしなければ、次々と廃止されてしまう、そんな危機感を持って、66年年末、塚原(雄太)先生を池袋の喫茶店に呼び出した」
そこで、映画を撮ろうと塚原先生に提案をして、67年三学期が始まる1月9日、16ミリカメラと録音機をテレビ会社から借り受け撮影を始めた。
「年末話した時は『公務員だから』『誰も反対運動をしないだろう』といっていた塚原先生も、『こんなときに、授業なんかやっとられるか』と云い、撮影を進めていった。すごかったのは、授業にいけなかった塚原先生の授業を誰がいわれるでなく、カバーしている教師集団があったことだ」。「映画をどんな内容で撮るか、はじめからあったわけでなく。ただ、夜間中学生が持っている、3つの顔を写したいと考えた。夜間中学生の24時間を写したい。学校、職場、家庭の三つの顔に迫り、その姿を通して、廃止勧告に迫っていく構想であった」
「だから映画では『夜間中学早期廃止勧告、反対』という事はどの場面にもない。あとで知ったが、あの水平社宣言にも『人間』が10回使用されているが、『差別』の言葉はどこにも用いられていない」
「映画のタイトル、終わりにでた同級生 多胡正光の詩、そして制作東京都荒川区立第九中学校夜間学級の習字も、生徒が書いた習字だ。書いた習字を生徒が選んだ。生徒、教師、卒業生が力をあわせ完成した映画です」
突然、髙野さんから次のように話し始めた「リバティーの特別展に突然、前川(喜平)さんが来た時もきっちり言葉を交わすことができなかった。それは、多くの仲間が、切り捨てられ、志半ばでなくなっていった。その仲間の口惜しさを考えたとき、私ひとりが、(何もなかったかのように、前川さんと)話ができなかった」「『たった一枚の紙切れを受け取ったばかりに夜間中学に入学できなかった。毎晩布団の中で泣いています』との声が留守番電話に録音されていた」と語った。
これを受け、私はリバティーの特別展で前川さんが、この映画と全国行脚、そして天王寺夜間中学の開設運動がなければ、夜間中学は確実になくなっていましたと話したことを紹介した。
もっと多くのことを話していただきたかったが、時間不足になってしまった。
証言映画「夜間中学生」を観たわたしたちは、50年後の今、わたしたちの証言映画を創ろうと提案した。髙野さんは終わりに、三人の夜間中学生の詩を読んでおきたいと云って、「私の手」江草恵子、「私の家族」辺見美紗子、「夜間中学」多胡正光の順に読んだ。

島田さんは先の記事で「振り返れば、今大会は誘致の段階から不正と虚偽のオンパレードだった。ロビー活動での賄賂疑惑、新国立競技場建設過程でのゴタゴタと予算膨張、エンブレム盗作疑惑、猛暑問題、組織委の予算濫費(らんぴ)、会長の女性蔑視発言、不適切な開会式演出プランや人選、国際オリンピック委員会(IOC)の拝金主義とぼったくり、委託事業者による中抜きなど、オリンピックのダークサイドがこれでもかというくらい露呈した」と書いている。この露呈を覆い隠すかのように報道は、24時間ぶっ通して五輪報道を繰り返し流している。
一方、留守電に録音された声に応えるために、決して立ち位置を変えない髙野さんの姿勢が明らかにされた。
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