夜間中学その日その日 (784) 白井善吾
- journalistworld0
- 2021年10月25日
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『こんばんは、夜勉です。』-大学生が夜間中学を学ぶ-(その4)
2021.10.25
証言映画「夜間中学生」は行政管理庁の発した夜間中学早期廃止勧告を夜間中学の死刑宣告だと受け止め、髙野さんの呼びかけに応え、母校荒川9中の教員、在校生、卒業生がとり組んで完成した映画だ。この映画制作と上映運動、全国行脚がなければ、50年後の現在、とっくの昔に、夜間中学はなくなっていたであろうと関係者間でよく話されている。
ところが、出来上がった映画の場面をみても、夜間中学早期廃止勧告を批判するコトバは一切出てこないのだ。夜間中学生の24時間を追っかけ、素顔の夜間中学生の実態を撮影し、「こんな夜間中学生の姿を見ても、文部省、行政管理庁の役人さん、夜間中学を廃止されますか」と主張する映画だということができる。

村上優生さん執筆の第6章、「50年前のミネルヴァの梟は何を語ったか-証言映画『夜間中学生』が記録した現実-」はこの映画に挑戦された。50年前の夜間中学生は何を語ったのか、夜間中学生の実情と共に映画にこめられた意図を探りたいと髙野さんがマイクを向けたオープンリールの音声テープが77本あり、映画ではその一部が採用され、多くは音声テープに残されたままになっていることが分かった。50年前の夜間中学生の肉声は当時の想いをそのまま記録した貴重な証言ではないかと考えた村上さんは、オープンリールの音声をCDに変換して文字化の作業をされたという。録音された夜間中学生は卒業生も入れると31人にもなる。
一方塚原雄太さんが16ミリフィルムに収めた場面を28の場面に分け、ワンカット分ごと、静止画像で印刷したもの、採用したすべての音声を文字化したもの、そして77本のテープをすべて文字化した、この3部からなる卒業論文は400字詰め原稿用紙362枚になる大作だと、水本先生はコラムで紹介されている。
よく考えてみると、この手法は撮影し終わったネガを現像所に届け、現像が終わったフィルムを受け取り、画面を見ながら、録音した音声の中から、一番適切な音声のカ所を、コマ数に合わせ、選び出し、映像と音声を同調させ、マザーフィルムを仕上げていった。髙野さんは学校に泊まり込んで深夜、この作業を行なっていった。これに匹敵する作業を村上さんが実践されてことになる。

この証言映画には説明を加え、進行するナレーターはいない。映像と録音された音声が映画を進めていく手法がとられている。TBSのドキュメンタリー「浮浪児マサの復讐」も同じ方法が採用されている。髙野さんも一切登場しない。
夜間中学生の肉声の分析で、父親について語ったものが15件、母親は2件と父親に対する語りが圧倒的だと村上さんは書いている。また映画では夜間中学生の顔が映されており、表情が分かる。「学校で、笑顔で給食を食べている姿は、真剣なまなざしで授業を受け、職場で真剣に働いている姿が映しだされている」。「髙野は、夜間中学生の24時間を、学校・職場・家庭の三つから、ありのままの現実を映像として提示しようとしている」。映画を観た人たちの中に、「義務教育という権利を手に知ることができなかった人々に、『声をあげてくれ!』『私もそうだ!』と手をあげてほしいと願う、髙野からの強烈な発信=メッセージが凝縮した映画だ」とまとめ、「このメッセージに対する反応を『わらじ通信』と題するハガキに詳細に綴った報告を、映画制作に協力してくれた荒川九中の先生と後輩生徒に出し続け」た、「髙野の行動の必然と継続を認識できたように思う」と綴られている。
水本先生は村上さんの論文を「過去のデーターを、今の学生の目線で捉えたもの」だとして、「どこかで彼が作成した『文字起こし版』を歴史資料として公表できないかと思案している」とコラムに書かれている。(つづく)
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