夜間中学その日その日 (804) 白井善吾
- journalistworld0
- 2022年1月17日
- 読了時間: 4分
夜間中学の2021年(4) 夜間中学の就学援助制度 2022.01.17
2021年の新聞報道の分析を行なっているが、いくつか考えた事を書いておく。
一つは夜間中学設置運営にあたっての設置行政に国や都道府県の財政的支援の問題が大きい。
国は夜間中学新設準備・運営補助として、準備2年、開設後3年の計5か年の補助事業を、期間を区切って行うことで、夜間中学未設置の43地域の設置を促す方法を打ち出している。
私が申し上げたいのは、5年と期間を切った施策ではなく、夜間中学の学習条件、学習環境を維持し、安心して学ぶことができる夜間中学をどうスタートするか、という課題についてである。
夜間中学の設備運営、教員の給与(国と都道府県が負担することになっているが、設置行政単独で教員を採用している事例もある)、補食給食、就学援助など、を誰が負担するかから始まり、首長の判断で夜間中学の中味が大きくゆがめられてしまう事例が後を絶たないことを指摘しておきたい。
具体例として、夜間中学の就学援助制度の確立について述べる。学校教育法の19条に、「経済的理由によって,就学困難と認められる学齢児童生徒の保護者に対しては,市町村は,必要な援助を与えなければならない」。これを根拠に、学齢を超えた人たちには就学援助制度はないとして、大阪の夜間中学は出発していた。夜間中学生の生活実態は、支援を必要とする人たちが多く学ぶ学校でもあった。広域から通学する学習者も多く、通学定期が適用されても、通学費の負担が大きかった。
夜間中学が発足してすぐ、夜間中学にも学齢者と同様に、就学援助制度を適用するとりくみに夜間中学生は立ち上がった。しかし19条の壁は厚く、大阪府の就学援助制度を創設し、早期救済の手立てを講じた。
その制度というのは、OO市立の夜間中学であっても、広域行政体の大阪府が二分の一を負担し、残り二分の一は設置市が負担するという方法で、設置市以外の人たちも同じ条件で夜間中学入学が出来るようにした。教材費、交通費、校外学習費、修学旅行の費用を内容としたものだった。学校給食は補食給食として、夜間中学生全員に適用された。結果的に居住市の行政には負担が求められなかった。夜間中学の修業年限は3年ではなく、最長9年となったが、2008年までその方式で運用されてきた。

ところが、2008年橋下氏が知事に就任すると「夜間中学が義務教育だと言うのであれば、昼間の中学校と同じように、設置市が負担すべきだ。大阪府は負担しない」との理由で、一方的に就学援助の府負担を廃止してしまった。移行措置の期間中に、府負担分を居住市が受け持つようにとの生徒会のねばり強いくみで、移行にこぎ着けることができた。
大阪府の就学援助制度が広がらなかった。教員の人件費の三分の二は都道府県が負担をする金額は大きな予算措置を必要とするが、就学援助は居住地の行政が負担する方法がとられた。すると起ってきたこととして、他市の夜間中学に通う学習者に居住地の行政が就学援助費を負担するその金額を切り詰めるため、夜間中学生にさまざまな条件が課せられる問題が顕在化してきた。入学にあたり、3年間の在籍で卒業すること、欠席は月何日までとして入学者から誓約書をとる。違反すれば、居住市が負担する費用の請求を夜間中学生個人に求めるという動きであった。結果的に入学にあたり何重もの障害として立ちはだかった。
2021年度の報道を見ると、近隣行政と負担の協定が整ったとの報道があった。「市教育委員会は18日、市外の入学希望者の受け入れに関し、希望者が居住する自治体と協定を結び、運営費などの一部を当該自治体に負担してもらう意向を明らかにした。市教委は、協定を結んだ自治体側の負担は、入学希望者1人当たり100万円程度と試算している」(神奈川新聞 2021.05.19)。
結果として、安心して学べる夜間中学ではない形で夜間中学生に返ってくることを危惧する。抜本的には国として学齢を超えた人にも適用される、就学援助制度の確立ではないか。文科省としても制度の立ち上げを模索しているようだ。こんな報道があった。
見出しは「夜間中学、国が就学援助 全国設置へ自治体後押し」で、「文部科学省は、義務教育を終えていない人などが通う夜間中学の生徒向けの就学援助を来年度から始める方針を固めた。設置主体の市区町村を通じて生徒の学用品の購入費用などを補助する。夜間中学は不登校のまま中学を卒業した人や、在日外国人などの需要が増している。同省は支援を手厚くすることで、夜間中学の全都道府県への設置を目指す」(日本経済新聞2017.10.01)。4年前の報道であるが、今も財務省の壁は突破できていない。
その壁を突破する理論と実践を夜間中学現場は提示することが求められている。「夜間中学その日その日」では6点の夜間中学が今存在することの意義とそれを裏付ける実践を報告してきているが、国や財務省の「学齢時、義務教育を受けることのできなかった方々に学びの場をもうけています」との恩恵思想を打ち破る実践と理論が急がれる。
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