夜間中学その日その日 (921) 白井善吾
- journalistworld0
- 2023年10月11日
- 読了時間: 4分
夜間中学取材班『夜間中学はいま』を読んで ② 2023.10.11
夜間中学生や夜間中学現場のありのままの姿を今の社会に届ける。写真、映像、共同作品、夜間中学生が書いた詩、短歌、川柳、俳句、習字、文章で主張をつたえることはたいへん重要なことだ。
各夜間中学が毎年一冊ずつ発行している文集があるが、一般の人たちが手にすることは「個人情報云々」一層難しくなった。
しかしこれらが公刊されたことがある。『陽のあたらない教室』なずな会編集発行(1963.9)。『雑草のように強く』京都市立中学校二部教育研究会・京都青年会議所発行(1963.3)。『ぼくら夜間中学生』荒川区立第九中学校二部(1967.2)。『夜間中学生―133人からのメッセージ』全夜中研第51回大会実行委員会/東方出版(2005.12)の四冊ではないか。これらはそれぞれの時代の夜間中学生の姿を現している。
今回、産経新聞夜間中学取材班の『夜間中学はいま』は夜間中学関係者ではない、第三者の目を通して取材、収録編集されたものとして特徴がある。取材を通して明らかになった夜間中学の課題を記述し、提起頂いている。
出版された『夜間中学はいま』を産経新聞大阪本社夜間中学取材班は「冊子」と呼び、紙面の記述を加筆せず、そのまま収録されたことも特徴だ。

「はっ」と気づかされ、印象に残った夜間中学生のコトバを書き出してみた。
○「小学校に行っていた頃には見たことのない光景に圧倒されて…。新鮮でした」「間違うことは恥ずかしいことではなく、大事なことだ」と学んだ。「『学び』とは何か。人としてのあり方や生き方も夜間中学で学んだ」「一枚のポスターをきっかけにたどりついた夜間中学は『一本の命綱』だった」(5頁)
○「学校独特の空気感と雰囲気がものすごく苦手だった」(6頁)
○「義務教育未修了者という存在は、本当はあってはならないけれども、義務教育未修了者という立場の人にといっては、なくてはならない学校がある」(7頁)
○「夜間中学で、さまざまな事情で義務教育を受けられなかった人や外国籍の人たちとかかわる中で、知らなかった世界を知り、自分になかった考え方やものの見方に触れた」(8頁)
○「理想の将来像をイメージできるようになったのは、間違いなく夜間中学のおかげです」(8頁)
○「学校に行っていない過去を話すのが恥ずかしくて言えませんでした」だが、(中略)「教科の勉強しますが、仲間の人生に触れることで『生きることについてもまなんでいる』」(11頁)
○「手元の原稿には『学ぶことは生きること』と書いていたが無意識のうちに『生き延びる』と口にしていた」(14頁)
○「かつて流した『悔し涙はしょっぱかった』、文字を学び流した『うれし涙は甘かった』」「新聞も主人の弁当を包むものでしたが、世界中で起きていることを伝えてくれるものになりました」「夜間中学は読み書きができることの先にあるものを教えてくれました」(17頁)
○「故郷の村の女の子たちは今もほとんど学校に行っていない。夢は、村に女子のための学校を建て、そこで先生になること」「勉強すれば世界を知ることができ、自分の力で行動できることを伝えたい」(21頁)
○学校での学びは世界と自分がつながっていることを感じさせてくれた」(25頁)
○「現実がつらいから、現実を見られない。引きこもりは現実からの避難でした」(26頁)
○「夜間中学はただ勉強するところではなく、自分を見つめ直し、成長させてくれる場、学ぶ喜びや人を信じることの大切さを知り、感動を味わった。入学して本当によかった」(33頁)
○「毎日新たな発見がある学校は刺激に満ち」(37頁)
○「3人の20代の孫たちが『ばあちゃん、すごく明るくなった』と喜び運動会などの行事も見学に来てくれる」(46頁)
○「ここはありのままの自分でいられる場所。なんでも話せる家族のようです。西野分校にきて、自分の家族と二つの家族を持つことができました。二つとも私の誇りです」(53頁)
○「家族でなくても私を理解してくれる人たちがいる夜間中学は、安心できる居場所。ここなら話して大丈夫だと思えました」(57頁)
この提起を夜間中学現場や教育行政はどのように受けとめたのかを明らかにする順番ではないか。生徒数を人為的に減らし、自然減のように強弁する。夜間中学のもっている優れた部分を視ようとせず、ひたすら安上がりを追求する。
万博工事の遅れや予算の膨張。税金を投入し、その先にカジノなどIR計画を進める。かつての大阪にあった、矜持を大阪市教育委員会担当者はもっていないのか。
『夜間中学はいま』の発刊を記念した写真展が、大阪府東大阪市の府立中央図書館で開かれている。この本に登場する夜間中学生が話しかけてくる。対話をしていただきたい。10月17日まで、入場無料。12と16日は休館日。
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