夜間中学その日その日 (950) 白井善吾
- journalistworld0
- 2024年2月11日
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夜間中学の立ち位置 2024.02.12
「人間としての権利を奪っておきながら、人間の法律をあてはめて裁くということがいちばん納得できなかったし、許せなかった。たった一枚の紙切れで死刑宣告をする。そんなヤツらに殺されてたまるか!」1966年11月行政管理庁が「夜間中学廃止勧告」を出したときの髙野雅夫さんの叫びだ。
母校・東京荒川九中の在校生と制作した証言映画『夜間中学生』を携え全国を飛び回っているとき、「夜間中学のない地域の仲間は、どうなっているのだろうかと考えたとき、“まもる”という形ではなく“つくる”べきだ。そして「廃止反対」から「夜間中学つくれ」へと開き直った。設置運動は「つくる運動」だというが、行政当局に「つくらせる運動」だったと思うと述べている。
「かたち」としては法律にない夜間中学ができた。「かたち」は奪い返していったが「なかみ」はどうだったのか。奪われている文字とコトバを教師が詰めこむだけの知識の量としては奪い返していくが、それは自分たちが受けてきた差別を生みだした歴史を断ち切るための「武器としての文字とコトバ」にはならないし、現実には定時制高校への予備校と化した。だから「できない生徒」は更に夜間中学からさえ切り棄てられていく。そうなったとき、俺たちは「かたちをつくる」だけの運動を続けられなくなった(『永山則夫の「私設」夜間中学』56頁)。
来阪した、髙野さんから何度もこの問いかけを受けた。公立の夜間中学教員として受けとめきれない問いかけで、何度も自問し、校内研修で夜間中学の学びについて報告し議論を深め交流した。その到達点を文字にし、まとめ、つぎの出発点にし、髙野さんの問いかけに応えるとりくみにつながればと考え、『不思議な力 夜間中学』(宇多出版企画2004)、『学ぶたびくやしく 学ぶたびうれしく』(解放出版社2010)等を公刊してきた。主な執筆者は守口の夜間中学生や教職員である。

『不思議な力 夜間中学』に近畿夜間中学校生徒会連合会がとりくんだ自衛隊のイラク派遣反対のとりくみの記事が収録さている。
「私たちがこどもの時、学校に行けなかったのは戦争が原因だ」「自衛隊が紛争国であるイラクへ派遣されようとしている。私たち戦争を体験した世代として、二度と戦争によって人が殺され、人を殺すようになっていくことは黙って見過ごせない。そうした声をあげたいがどうだろうか」。近畿夜間中学校生徒会連合会は各校の夜間中学生の考えをもちより、「自衛隊のイラクへの派遣を慎重に」署名活動を決定した。大阪府会議員をなのる「怪文書」が夜間中学の管理職や夜間中学設置の教育委員会に送りつけられることもあったが、そのとりくみ経緯を本に収録した。
夜間中学の学びに誤解を生むことが懸念される記述の指摘を受け、出版後、その箇所を教員集団が検討、執筆者である夜間中学生の議論を経ず教員が加筆、訂正して出版した。執筆者でもある髙野さんは、「夜間中学生の意見を聞いたのか。夜間中学の主人公は夜間中学生と云いながら、先生たちのこのやり方は認められない」。厳しい指摘を受けた。
改めて、私たちは夜間中学の学びで自主、自立、自治の生徒会活動が重要であることを確認した。守口夜間中学のとりくみをまとめ、『学ぶたびくやしく 学ぶたびうれしく』(解放出版社2010)を出版した。
2024年4月、9校の夜間中学が開校すると報道されている。福島市立第4中学校の分校として天神スクール、群馬県立県立みらい共創中学校、大阪府泉佐野市立佐野中学校夜間学級、鳥取県立まなびの森学園、北九州市立ひまわり中学校、大牟田市立宅峰中学ほしぞら分校、佐賀県立彩志学舎中学校、熊本県立県立ゆうあい中学校、宮崎市立ひなた中学校の9校だ。
最近の報道で通常の学校との違いについて「普通は授業内容や校則などに生徒の側が合わせるが、夜間中学は生徒の実態に合わせて学校のスタイルを作っている」(讀賣新聞2024/02/05)の説明や「学校というのはこういうものという既成概念にとらわれずに、現行制度を使い倒すというか、徹底的に研究して使えるところまで使い、どのような学びの場だったら、よりニーズに応えられるかというのは排除をせずに考えたい」県教育長のコメントが報道されている(信越放送2024/02/03)。重要な指摘である。
既存の夜間中学は「自分たちが受けてきた差別を生みだした歴史を断ち切るための『武器としての文字とコトバ』」の具体を示し、これまでのあゆみと夜間中学の立ち位置についてとりくみと主張を届けていく役割があると考える。
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