夜間中学その日その日 （966） 白井善吾

　　髙野雅夫夜間中学資料の魅力　➂　写真　　　　　　　2024.4.27

　髙野雅夫夜間中学資料には何千点を超える写真がある。袋に入れた生写真の整理作業をしながら、あるとき髙野雅夫さんに、所蔵している写真について尋ねたことがある。髙野さんが撮した写真だけでなく、現像した写真の裏に「コ」、「ハ」と鉛筆書きされた写真の中に決定的な瞬間を写した専門家の写真がある。髙野さんの行動を撮影するカメラマンを同行されたのか？と尋ねた。答えは「そうではない」。偶然知り合い、写真家が尋ねてきて、その日の行動を一緒して、撮影されたものだという。そして決定的瞬間を記録した写真には、髙野さんの「怒り」や「思想」が表現されている写真が多い。

　『ルンプロ元年　자립』（修羅書房）には9名の撮影者の名前がある。近藤元・橋本要・芥川仁・高山清隆・岡本弘志・中野孝・上田喜三郎・見城慶和・渡辺経雄各氏の9名だ。

　リバティー大阪の特別展「夜間中学生展」（2017.10.18～12.16）に出展する写真も撮影者の了解を得た写真を拡大パネルにして展示した。生写真をスキャンして全紙大で出力しても鮮明さが変わらないのには驚いた。素人写真との違いは歴然であった。

　特別展の後、芥川仁さんの写真展が大阪で開かれ、芥川さんと話す機会があった。髙野さんとの出逢いがなければ自分は普通の商業写真を撮っていたであろうと話された。大学生の時、荒川九中を尋ね、ちょうど来校されていた髙野さんに出逢った。この出逢いが自分が追求する写真テーマを決定した。「6・3制夜間中学の顔」が初めての写真展で「水俣」「土呂久鉱毒」「日本ミツバチ」をテーマに撮してきたと話された。

　一枚一枚の写真を見ながら、髙野さんに質問をし、写真の説明文を書き、夜間中学や開設運動を学ぶ機会を得た。この作業中、大阪人権博物館から特別展示室を使って、「夜間中学校展」をされませんかとの申し出を受けた。以前に髙野さんが来阪中、博物館にこの企画を話されていた返事であった。早速この企画を近畿夜間中学校連絡協議会事務局に伝え、各夜間中学から出展をいただいた。

　どの写真を拡大パネルにするか、ありすぎて困った、というのが率直な感想だ。髙野雅夫夜間中学資料の全容をつかむ作業を進めていたのがよかった。この写真も、この実物資料も是非展示したいと。全体をどのような組み立てにするか、さまざまな意見が出た。展示ゾーンが４面、さてどうしたものか、展示が多くてはいけない。来館者が展示物と対話をする、その余白をどうつくるか。私たちメンバーは誰も、初めての経験であった。

　入口から反時計回りに、次のような章立てになった。

　「生きる」の章―空気をうばうな!!空気をよこせ　0.1％の叫びー（１ゾーン）。

　「闘う」の章―大阪城決戦214日!!　仲間に届け300万枚のラブレター!!　生き証人が歴史をつくる!!―（2ゾーン）。

　「学ぶ」の章ー学ぶたびくやしく 学ぶたびうれしく/学ぶことは生きること/学びは運動　運動は学びー（３．４ゾーン）。

　章立ての文字は「うりそだん」のオモニたちの文字だ。

　来館者の問いかけに、展示物から返事が返り、語り合っている。会期中何度もそんな場面に出会った。髙野雅夫夜間中学資料がもっている「力」を実感した。

　期間中の参加者は小学校（9団体）362人、中学校（10）486人、高校　510人、大学（19）55人、夜間中学生（10）82人、自主夜間中学（13）23人、夜間中学卒業生（8）48人、夜間中学元教員（24）38人、夜間中学教員（11）46人、教員88人、教員研修（6）266人、研修（35）1196人、韓国など外国から（6）16人、一般34人、マスコミ（6）8人、合計3258人。

　主な内訳は卒業生：天王寺・菅南・守口・長栄・太平寺・八尾・畝傍・天理、自主夜間中学：仙台・福島・川口・松戸・吉野・南河内・穴生・城南・福岡・麦豆、行政：大阪府・高知市・高知県、大学：関西外大・奈良教育大・金城・宇都宮・専修・大阪大学・畿央・大阪市立・関西・神戸学院大・京都大学（院生）、・東北大、マスコミ：大阪日日新聞・ハンホスト・毎日新聞・NHK・フリー。

　世界に類のない、人権博物館を破壊し、何にも代えがたい学びの場を奪い、一方で万博の準備で浪費を重ねる。学校現場には点数化しやすい「学力」で順位を競わす、その象徴が天王寺・文の里夜間中学の廃校である。大阪の教育改革の行きつく先に明確なNOを突きつける夜間中学の実践はますます重要性を増したと云える。