top of page

夜間中学その日その日 (983)  白井善吾

   夜間中学が社会に持っている役割           2024.08.03


 夜間中学現場にいた時と、昼の学校に勤務した時との違いはと問われれば、行政機関と直接折衝する機会が多かったと言えるのではないか。

 夜間中学生は学齢を超えた人、大人、社会人、というべき人たち。健康、仕事、家族のこと、様々な課題を背負いながら、通学している人たち。その課題を学校として受けとめ、授業の自主編成と組み合わせ、共に取り組んで行くことが求められている学校ではないだろうか。

 校区が大阪府下全体ということもあり、設置行政を超えて、様々なところと直接やりとりをするケースが圧倒的に多かった。夜間中学生の就労先、ハローワーク、夜間中学生の子どもの通っている学校、入院先の病院、福祉のケースワーカー、弁護士事務所、法務局、出入国管理局、各市教育委員会が浮かんでくる。また府県を越えて各夜間中学との研究協議もある。

 行政区の枠を超えて動くとき、「なんで他の行政区の一教員に、直接言われないといけないのか?行政間の筋を通せ」と応接の時は、直接口にせず、学校に戻ったとき、設置教育委員会から管理職に苦情が届いていたこともあった。機会を重ねていくと少なくなったが、担当者が変わり、引き継ぎが悪い場合、苦情が届くことがあった。

 さまざまな年齢、国籍、就労。そして通学校区が広域である事など、昼の学校との相違を乗越え行動することになったが、行政ごとに行政を縛る法規があり、いろんな角度から考えることを求められた。夜間中学生の抱えている悩みを解決する、各行政が持っている「知恵」を教えてもらい、解決法を学ぶことが出来、一教員として大変勉強になった。これらのことは、職員会議や校内研修で報告し全体化をはかることは重要であることは言うまでもない。一方、このことは各行政担当者に夜間中学を理解していただく機会でもあった。担当者の研修に夜間中学の報告を求められたこともある。夜間中学生が直接地域住民の集まりに、通訳のボランティアとして参画を求められることにもつながっていった。

 夜間中学に通っている夜間中学生や夜間中学に勤務していた教員を通して、昼の学校で夜間中学のことが話題に上り、子どもたちが夜間中学を訪問するとりくみが始まった。私も昼の学校に転勤となったとき、「学ぶこと」「戦争」「在日朝鮮人」「中国引揚げ帰国者」の学習で夜間中学に学ぶ人たちのことを紹介し、夜間中学生との出逢いのとりくみを提案した。子どもたちが登下校の途中にある建物で、夜間中学卒業生が学びの場を開いていることを話すと「私たちがそこへ行ってもいいか?」とのことで、3~4人が訪問したことが契機となって守口夜間中学を訪問する「探検隊」企画が実現した。夜間中学生の横に座って夜間中学の授業を体験する。補食給食の時間に交流をする。その様子や感想を書いて新聞を発行、クラスや学年全体に報告する。夜間中学にも出来上がった新聞を送る、とりくみであった。「探検隊」は希望者だけでなく、生徒会役員、朝鮮半島にルーツのある子ども、厳しい生活を送っている子どもたちになど夜間中学生の学ぶ姿に出逢わせたいと考える子どもたちにも働きかけ、編成された。



 守口夜間中学ではこの機会は重要な学びだと考えている。機会が許せば、集会を開いて語り合いの場を設けている。あるとき、夜間中学生が参加者を前に「あなたたちは、明日のこの国を背負っていく人たちだと思います。在日朝鮮人の私たちがどうしていま夜間中学で学んでいるのか?」「夜間中学でいっしょに勉強したことを忘れないで、大人になってください」と語った。

 学校によって異なるが、夜間中学の勤務時間は12時30分から21時15分である。出張等は17時からある職員打ち合わせに間に合うように学校に戻るために所要時間を見計らって、出張先を出ることになる。急に出かけることも珍しくない。授業の準備ができていないことがある。乗った電車の中で、授業の組み立ての構想を練る。あるとき、それもできず、藁をもつかむではないが、あぜ道に生えていた稗一株を引抜き、学校に保存しているイネを一株根付きのままを持って教室へいくことになった。このことが次から次と夜間中学の「学び」を生み出す端緒となっていったのは忘れることができない。(続く)


 (カット)夜間中学探検壁新聞に載せた昼の子ども描いた描いた交流のスケッチ

Comments


Featued Posts 
Recent Posts 
Find Me On
  • Facebook Long Shadow
  • Twitter Long Shadow
  • YouTube Long Shadow
  • Instagram Long Shadow
Other Favotite PR Blogs
Serach By Tags
まだタグはありません。
bottom of page