「沖縄通信」第118号(2016年10月) Journalist Worldジャーナリスト ワールド
- 西浜 楢和
- 2016年10月30日
- 読了時間: 19分
「沖縄通信」第118号(2016年10月) 地元 2 紙は、5・15「社説」で何を主張してきたのか。(その 4)
西浜 楢和 fwnh9861@mb.infoweb.ne.jp
44 年間の時代区分を、第I期:1972 年から 1982 年まで、第II期:1983 年 から米兵による少女レイプ事件が発生した 1995 年まで、第III期:1996 年から 2007 年まで、第IV期:2008 年から今年 2016 年までとする。それに従って 4 回 にわたって連載する、今回が最終回の第 4 回で、2008 年から 2016 年までの第 IV期を扱う。
I 第IV期の政治・社会状況
第 4 回は、2008 年から 2016 年までの第IV期を取り扱う。施政権の日本への 移管後もつねにヤマトゥに翻弄されてきたのが沖縄の歴史であるが、この第IV 期も凄まじい激動期である。記憶に新しいところだ。
「国外移設、最低でも県外移設」を公約に掲げて 2009 年 9 月に政権が交代、 民主党を中心とした鳩山政権が誕生したが、それもつかぬ間、翌 2010 年 5 月、 辺野古に回帰し鳩山退陣となった。その後に続く菅、野田政権は辺野古を封印 し、2012 年 10 月には沖縄のすべて 41 市町村が反対しているにもかかわらず、 オスプレイの配備が強行された(野田首相は「配備自体はアメリカ政府として の基本的な方針で、それをどうこうしろという話ではない」と発言した)。
2012 年 12 月、再び自民党(と公明党)が政権に復活し、翌 2013 年 1 月、『建 白書』(「一、オスプレイの配備を直ちに撤回すること。及び今年七月までに配 備されるとしている一二機の配備を中止すること。...二、米軍普天間基地を閉 鎖・撤去し、県内移設を断念すること。」)が日本政府に提出され、その後オー ル沖縄と呼ばれる政治勢力が形づくられていくことになる。この『建白書』に 対する安倍政権の回答は同年 4 月の「主権回復の日」式典であった。
一方、仲井真知事が 2013 年 12 月に埋め立てを承認したことに対して、辺野 古新基地建設に反対する沖縄の民意は、2014 年に行われた名護市長選、県知事 選、衆議院選ではっきりと示された。にもかかわらず安倍政権は辺野古・高江 の工事を強行する。それに対し戦後最大の基地反対闘争が取り組まれている。
II 第IV期の「社説」 1.2008 年 5 月 15 日
「『5・15 体制』克服の道筋を示す時だ」と題した『タイムス』は、沖縄には 「時代を超え地下水脈のように『平和』への思い、『自治・自立』を求める渇望」があるとして、「自立を模索する動きは復帰後も途絶えることなく続」いている とする。それは「自治労の沖縄特別県制構想、...故玉野井芳郎さんらがまとめ た沖縄自治憲章、大田県政時代に打ち出された国際都市形成構想、沖縄自治研 究会の沖縄自治州基本法試案」などに見られ、最近の議論の特徴は「復帰の際 に形づくられ今も続く『5・15 体制』を根本から見直し、『ポスト 5・15 体制』 をどのように構想するかという問題意識」であると言う。
そして「『5・15 体制』ともいうべき沖縄振興のための現行の仕組みは、...高 率補助に基づく公共事業主体の経済振興は自治体の財政規律を弱め、国依存の 体質をつくり上げてしま」い、「基地の安定的な維持のために沖縄振興策が活用 されてきたのは紛れもない事実である」とする。
最後に「自治構想を見果てぬ夢に終わらせないために『構想力』と『気概』 が」「今、求められている」とまとめている。
「平和な県づくり今後も/県民の自覚も問われている」と題した『新報』は、 「県民生活に基地が重くのしかかる現実が...あ」り、「基地あるがゆえの事件、 事故は後をたたず」、その一例として「今年二月には米兵が女子中学生を暴行し た事件が発生した」と述べる。そして「米兵すべてに規範意識を持たせること は不可能なこと」と言う。そこには「日米安保体制の方が、少女や県民の人権 よりも大切ということが政府の考えの根底にあ」り、「すべては、米軍基地の自 由使用が復帰と同時に日本政府のお墨付きを得たことに起因する」と断定する。
2. 2009 年 5 月 15 日
「復帰 37 年/県民の手で将来設計を」と題した『タイムス』は、「政権交代 が現実味を増してき」ており、「今年は日本の針路を左右する大きな節目の年に なるだろう」と予測する。その上で「基地受け入れと振興策をからめた『アメ とムチ』」という「国の基地政策は代わり映えが」せず、「国もそろそろ変わる べきだし、変わらなければならない」と述べる。
「本土復帰 37 年/自立への道筋を見直そう/発展の潜在力持つ跡利用」と題 した『新報』は、「発展したのは国に頼ったところよりもむしろ、自助努力がな された分野だ。沖縄が無力感にとらわれる必要はない。自らの秘めた力を自覚 したい」とし、「対照的に、復帰後も変わらないものは基地の重圧だ。事件・事 故が人権を侵害するだけでなく、県民が使えない広大な存在が他の民間地の発 展も阻害している」と書く。
3. 2010 年 5 月 15 日
「復帰 38 年/沖縄の終わらない戦後」と題した『タイムス』は、「戦後、米 国が沖縄を戦略拠点として位置づけただけでなく、日本側も、米軍の沖縄駐留を強く希望した」として、「本土から沖縄への移駐によって本土は負担軽減が進 み、そのしわ寄せで沖縄は軍事要塞と化した」と喝破する。
「70 年前後の返還交渉の過程でも日本側は、...沖縄への基地封じ込めを主張 した事実がある」と記して、最後に「いつまでも『終わりのない戦後』を沖縄 県民に負わせてはいけない」とまとめている。
「本土復帰 38 年/未来拓く自助努力を/脱基地、自立への志強く」と題した 『新報』は、「国外・県外移設を求めた大規模な県民大会からわずか 9 日後」に 「鳩山首相は公約を覆し、県内移設を表明した」と批判し、「『構造的差別』を 断ち切る決断から逃げた為政者の姿を目の当たりにした」と述べるように、政 権交代とその後の失望、そして「構造的差別」を問題としている。
「主権者を欺いてきた」「密約」が「今に続く対米従属と基地の過重負担の源 流と言える」と記す。さらに県民の意思決定について、「『沖縄問題』に横たわ るのは、県民が蚊帳の外に置かれ、意思決定の主体になり得なかった構図であ る」として、「主権者として沖縄の在り方を定める意思決定に積極的に参画する 決意を」「共有したい」と述べた上で、「沖縄の潜在力は高い。脱基地、自立へ の強い志を胸に未来を拓く営みに邁進したい」とまとめている。
4. 2011 年 5 月 15 日
「復帰 39 年/歩みをつなげるために」と題した『タイムス』は、沖縄の大衆 運動について「無権利状態から県民は非暴力で大衆運動を立ち上げ、自由と権 利をつかみ取ってきた」とし、「その歩みは誇れるものだ。いまも沖縄問題は大 衆性を失っていない」と述べる。そして、最後に「今日的な視点で復帰を再認 識し、沖縄の未来を考える日にしたい」とまとめている。
「きょう復帰 39 年/今も続く基地の集中/差別の解消は国の責務だ」と題し た『新報』は、「安保の負担を沖縄だけに押し付ける『差別の構図』は全く変わ っていない」とし、「憲法の恩恵を受けた本土と異なり、自治権などさまざまな 権利を制限され、戦後も苦難の道を余儀なくされたのが沖縄だ」と述べる。さ らに「米軍基地は事件・事故や騒音にとどまらず、人権を脅かすさまざまな害 悪をまき散らす。差別の解消は国の責務だ」とする。
安保の負担を沖縄だけに押し付けるのは「差別の構図」だと認定し、差別の 解消は国の責務だと断じる。部落差別の解消は国の責務だとして部落解放同盟 が国民的な運動を展開し「同対審答申」を引きだしたことを彷彿とさせる論調 である。
海兵隊の沖縄への移駐に関しても「岐阜、山梨に駐留していた海兵隊・第 3 海兵師団は、基地反対運動が激しくなったため 50 年代に沖縄に移ってきた 。 沖縄に移駐したのは、米軍が支配する島だったからだ。駐留の意義など後から取って付けた理由である」と現在、広く人口に膾炙してきた論理展開をおこな っている。

5 .2012 年 5 月 15 日
40 年の節目の社説である。
「普天間を解決する時だ」と題した『タイムス』は、「基地問題をめぐる過重 負担の構図はこの 40 年間、ほとんど何も変わっていない」とし、その事例とし て「本土では約 59%が返還されたのに」沖縄で「復帰から 2009 年 3 月末まで に返還された米軍基地は、面積にして約 19%(『新報』5 月 15 日付によると、 約 5990 ヘクタール)にとどまる」ことを挙げ、「沖縄の負担軽減は遅々として 進まない」と記す。
そして重要な変化として、「沖縄の基地が減らないのは本土による沖縄差別だ と思うかとの問いに対し、『その通り』だと答えた人が 50%に上った」と県民意 識を取り上げる。「『基地の現状は不公平だ』『本土の人たちは沖縄をあまり理解 していない』-そう考える人たちが県内で急速に増えている」とも。
「米軍普天間飛行場の辺野古移設を盛り込んだ 06 年の日米合意は、死文化し た。辺野古移設計画を断念し、早急に日米交渉を始めるべきである。普天間の 固定化は許されない」と主張する。
最後に「沖縄の民意は変わった、基地依存・財政依存からの脱却を目指した 『沖縄 21 世紀ビジョン』の将来像は、多くの県民に共有されており、これから の沖縄振興は、この自立の動きを後押しするものでなければならない」とまと めている。
「復帰 40 年/自立の気概持とう/国の空洞化、無策を憂う」と題した『新報』 は、「オスプレイの配備」を「沖縄差別ではないのか」と問うている。前年に引 き続いて差別をキーワードとしている。
そして、「沖縄 21 世紀ビジョンも過密な米軍基地を『沖縄振興を進める上で 大きな障害』とし、沖縄経済の阻害要因と位置付け」、「『基地の整理縮小と跡地 利用』と雇用創出を並行して進めなければ、沖縄の自立的発展はおぼつかない」 と述べている。
6.2013 年 5 月 15 日
3 年 3 ヶ月にわたる民主党政権に変わり、自公政権に戻ってから初の「社説」 である。
「愚直に道理を訴えよう」と題した『タイムス』は、「基地問題」が「復帰の 際に解決すべきだった重要な課題」であったのに、「未解決のまま残り、それが 足かせになって」いると述べ、それは「『基地の自由使用』や『基地に対する排他的管理権』のこと」であるとする。 その上で、アメリカにおける変化を取り上げている。5 月 1 日付「米議会調査局...日米関係の報告書」は、「『日本が米国による安全保障の利益を得ている間、 沖縄人は不相応な重荷に耐えている』と指摘」し、4 月 6 日付「ニューヨーク・ タイムズも『日米両政府は沖縄の懸念に敏感になるべきだ』」と伝え、また「米 国のシンクタンクの研究員からは辺野古移設に代わる選択肢が具体的に提示さ れている」と説く。そして「沖縄の中だけで『負担軽減』と『抑止力の維持・向上』を実現しよ うとするのは、そもそも大きな矛盾である。どだい無理な話」で、「普天間の県 外移設を実現した場合でも、多くの基地と基地負担が沖縄に残ることを忘れて はならない」とまとめる。
「本土復帰 41 年/自己決定権の尊重を/揺るがぬ普天間閉鎖の民意」と題し た『新報』は、「オスプレイの普天間飛行場への配備が強行されたから」「『復帰 してよかった』と心から喜べない」。「県民が『屈辱の日』として語り継いで来 た 4 月 28 日に、政府が『主権回復の日』式典を開催し、祝ったから」「今年の 復帰の節目は、いつになく重苦しい」と語る。そして、「日米両政府は沖縄を安全保障政策の踏み台ととらえる惰性から脱却 し、普天間の閉鎖・撤去へ踏み出すべきだ。沖縄の民意、自己決定権を尊重す るよう強く求めたい」と述べる。また「国の沖縄振興策は実を結んだとは言い 難」く、「沖縄振興策は失策続き」と断罪する。
7.2014 年 5 月 15 日
施政権が日本に移管されたこの節目の日、安倍政権は憲法解釈を変更し集団 的自衛権行使を容認する旨を表明した。それに対し、「歴史的岐路/選択誤るな」 と題した『タイムス』も、「日本復帰 42 年/民意分断の修復を/『捨て石』か ら平和の要石へ」と題した『新報』も、ともに深い憂慮を示した。『タイムス』 は「集団的自衛権の行使容認は日本の安保政策の一大転換となり、東アジアに 一層の緊張をもたらす恐れがある。/沖縄を再び戦場にしてはならない。...こ れがすべてに優先する課題である」と述べ、『新報』は「42 年の節目を...とても 祝う気分にはなれない。/集団的自衛権行使容認...戦後日本の平和主義の大転 換を図る...日が、沖縄の復帰の日と重なるのは非常に皮肉だ。/集団的自衛権 行使容認...は、沖縄が再び戦場にならないかという恐怖を呼び起こす」と記す。
辺野古新基地建設をめぐっては、前年 2013 年 12 月に仲井真知事が埋め立て を承認した、その直後の「社説」である。『タイムス』は「米軍普天間飛行場の 名護市辺野古移設に向け、日を追うごとに防衛省の強硬姿勢が目立ってきた。 まるで牙をむいて襲いかかっているかのようだ」との状況認識に立って、「今、
進行しつつあるのは、普天間の県内移設を前提にした米軍基地の拠点集約化と 日米の軍事一体化である」と本質を衝く論評を述べる。そして結語で、「辺野古 移設計画をいったん凍結し、日中の関係改善に向けた取り組みと移設計画の見 直しを同時に進めるべきだ」と主張する。
『新報』は、それを俯瞰して「沖縄は『軍事植民地状態』とも指摘されてい る。民意を分断し植民地統治に協力する者を増長させることが、支配する側の 常套手段である...。/基地負担と引き替えの『アメとムチ』の復帰後の沖縄振 興策体制が、いかに沖縄の社会を破壊したか。その罪は大きい」として、「自己 決定権を確立するしかない。その際大切なのは『捨て石』ではなく、沖縄を平 和の『要石』とすることだ」と結論付けている。
この年の秋に実施される知事選挙に関して『新報』の「識者談話」欄で、我 部政明・琉球大学教授は「今年、2014 年は、新しい時代が始まる変わり目、転 機になるのではないだろうか。...秋には知事選がある。/今後 20 年の方向性を 予想させるだろう」と述べている。
8.2015 年 5 月 15 日
2 期 8 年の仲井真県政に変わり翁長知事が就任してから初の「社説」である。
「日本復帰 43 年/圧政はね返す正念場/将来世代に責任果たそう」と題した 『新報』は、「将来も米軍基地を県内に残すのか。沖縄にとって今が正念場であ る」から解き明かし、「県民が復帰に求めたことは国に手段として利用されるこ とを拒否し、基地の抑圧から解放され、人権が完全に保障されることだった」 が、「現状は」、「国は日米安保を重視する手段として沖縄を相変わらず利用し、 県民は基地の重圧にあえいでいる。新基地建設は今後も沖縄を利用し続けると の宣言にほかならない」と述べ、「新基地建設は安倍政権の沖縄への圧政の表れ であり、許すことはできない」、「安倍政権は新基地建設を断念すべきだが、辺 野古移設が『唯一の解決策』と強弁し続けている。思考停止に陥った安倍政権 に沖縄の将来を委ねてはならない」と、断罪するかのような激烈な文章で締め 括っている。
9.2016 年 5 月 15 日
2015 年になって、『タイムス』はヤマトゥでも大きな問題として浮上してき た子どもの貧困問題を取り上げるところとなった。それは 2016 年の「社説」で も引き続いて述べられている。事の性質上 2015 年と 2016 年(この年は 5 月 16 日付)を続けて記載する。
2015 年は「復帰の日に考える/『子ども』を振興の柱に」と題して、「基地 行政に忙殺されるあまり、子どもや暮らしの問題に十分向き合えないとしたら、これもまた基地あるゆえの問題である」とし、「貧困率は沖縄が 23.9%でワース ト。2 番目の大阪と 4 ポイント以上も開きがあった」と述べる。そして「沖縄の 貧困の根をたどっていくと、沖縄戦による荒廃と米軍統治下における法制度の 空白や不備に行き着く。その二重苦を今も引きずる」と記す。「子どもへの視点 が乏しかった沖縄振興策」に「反省」を促す「とともに、例え貧困であっても 未来に希望を持ち健やかに育つよう、子どもに特化した『未来振興計画』が必 要だ」とまとめている。
2016 年は「復帰 44 年/格差と貧困/世代間連鎖断ち切ろう」と題して、「昨 年から今年にかけて県民の関心が急速に高まっているのは、...子どもたちの貧 困である」とし、「3 人に 1 人が貧困状態」で、「高齢者の生活保護受給割合が全 国で 2 番目に高いのは、米軍統治下にあった影響で年金制度への加入が遅れた ことと深く関係している」と、2015 年と同様、「沖縄戦による荒廃と米軍統治 下における法制度の空白や不備」や「米軍統治下にあった影響で年金制度への 加入が遅れたこと」をその原因として取りあげる。
そして、「沖縄は貧富の差を示す『ジニ係数』が全国一高」く、「世代間連鎖 が進む貧困問題を、21 世紀ビジョン基本計画後期の優先課題に位置付けるべき だ」と結論付けている。
一方、「復帰 44 年/辺野古では/脅かされる自治と人権」と題した『タイム ス』は、「沖縄で『憲法体系』と『安保体系』のきしみが耐え難いほどひどくな ったのは、軍政下に米軍によって一方的に建設された普天間飛行場を、民意に 反して強引に県内に移設しようとするからだ」と述べ、「沖縄の主張の最大公約 数は」、「憲法が保障する人権や地方自治を本土並みに享受する。安保が必要だ と言うなら全国で負担を分かち合う」と言う「実に慎ましやかなものだ」と述 べる。その上に立って、「米軍基地を沖縄に押しつけるだけでは、問題は何も解 決しない」と主張する。
他方、「きょう復帰 44 年/『自治』県民の手に/沖縄の進路、自ら決める」 と題した『新報』は、「米軍基地の重圧は変わらず、米軍関係者による事件・事 故も絶えない。憲法が保障する『平和的生存権』が沖縄では軽んじられている」 とし、「辺野古での新基地建設といった沖縄の主体性を無視した政府の強権的な 姿勢も目立つ」と述べる。
そして、この日を「改めて沖縄の進路は自ら決める『自立の日』として足元 を見詰め直したい」と述べて、繰り返し引用される「屋良建議書」を引き合い に出す。「屋良建議書」とは「(1)政府の対策は県民福祉を第一義(2)明治以 来、自治が否定された歴史から地方自治は特に尊重(3)何よりも戦争を否定し 平和を希求する(4)平和憲法下の人権回復(5)県民主体の経済開発-を日本 政府に求めた」ものだが、この「要求は現代にも共通する。逆に言えば『当然の願望』がいまだ実現していない」とし、「辺野古の新基地建設」を例に出して、 「選挙で示された新基地建設に反対する民意を政府は平然と無視し、地方自治 を侵害し」、「国は事あるごとに『辺野古は唯一の解決策』と繰り返す。沖縄の 自治、民意、自己決定権といった当然の権利に対する敬意が全く見えない」と 強く批判する。
さらに、「本土では 2014 年以降に 345 ヘクタールの米軍専用施設が返還され」、 「結果的に在日米軍専用施設に占める沖縄の負担は 14 年時点の 73.8%から 74.46%に微増した」。「見せ掛けだけの『負担軽減』はもうやめてもらいたい」 と記す。
「44 年間の経験から明らかなのは、米軍基地は経済の阻害要因でしかなく、 返還地利用によって沖縄は飛躍的に発展したことだ」との見解を述べ、「安倍政 権は集団的自衛権の行使容認をはじめ、憲法を骨抜きにしている。民意を顧み ない姿勢は沖縄への強権的態度と通じる。こうした時代だからこそ、屋良建議 書が重視した『自治』を県民の手に取り戻すきっかけの日としたい」との決意 を最後に述べている。

III 第IV期の小括
第IV期を迎えて、『タイムス』も『新報』も社の主張として、普天間基地の閉 鎖・撤去と辺野古新基地建設反対を明確に打ち出すことになる。それは社是と 呼んでも過言ではないであろう。「辺野古移設計画を断念し、...普天間の固定化 は許されない」(2012 年『タイムス』)、「普天間の閉鎖・撤去へ踏み出すべきだ」 (2013 年『新報』)、「辺野古移設計画をいったん凍結」(2014 年『タイムス』)、 「新基地建設は...許すことはできない」(2015 年『新報』)、「選挙で示された新 基地建設に反対する民意を政府は平然と無視し」(2016 年『新報』)という具合 である。
基地の押しつけを差別として捉える(1987 年『タイムス』、『新報』)観点は、 第II期から提起されたが、第IV期でも「安保の負担を沖縄だけに押し付ける『差 別の構造』」(2011 年『新報』)、「オスプレイの配備」は「沖縄差別」(2013 年『新 報』)と語られ、「構造的差別」との文言が登場(2010 年『新報』)し、「沖縄は 『軍事植民地状態』」(2014 年『新報』)だとも指摘する。
また、「過密な米軍基地」は「沖縄経済の阻害要因」(2012 年『新報』)、「米 軍基地は経済の阻害要因」(2016 年『新報』)との観点が提示され、沖縄への米 軍基地の集中に関しては、「日本側も、米軍の沖縄駐留を強く希望し」、「本土か ら沖縄への移駐によって本土は負担軽減が進み、そのしわ寄せで沖縄は軍事要 塞と化した」、「日本」は「沖縄への基地封じ込めを主張した」(2010 年『タイ ムス』)、「岐阜、山梨に駐留していた海兵隊・第 3 海兵師団は、基地反対運動が激しくなったため 50 年代に沖縄に移ってきた。沖縄に移駐したのは、米軍が支 配する島だったからだ。駐留の意義など後から取って付けた理由である」(2011 年『新報』)と解明する
このような状況に対して、この期もまた「『自治・自立』を求める渇望」(2008 年『タイムス』)、「自立への道筋を」(2009 年『新報』)、「自立への強い志を」(2010 年『新報』)、「自立の気概持とう」(2012 年『新報』)、「自己決定権の尊重を」(2013 年『新報』)、「自己決定権を確立するしかない」(2014 年『新報』)、「沖縄の進 路は自ら決める」(2016 年『新報』)と、自己決定権を強く主張している。
2014 年に安倍政権が憲法解釈を変更し集団的自衛権行使を容認する旨を表明 したことに対して 2 紙とも、「沖縄を再び戦場にしてはならない。...これがすべ てに優先する課題である」(『タイムス』)、「集団的自衛権行使容認...は、沖縄が 再び戦場にならないかという恐怖を呼び起こす」(『新報』)と述べるように強い 危機感を表明している。
さらに、『タイムス』が 2015 年と 2016 年に子どもの貧困問題を取り上げて いる。現在も沖縄社会は、沖縄戦とその後の米軍基地が大きな問題として継続 しているが、それのみならず子どもの貧困、年金制度加入の遅れによる高率な 高齢者の生活保護受給割合(全国 2 位)、ともにワーストの貧困率(23.9%)と 貧富の差を示す『ジニ係数』、まだ六千柱余が山野に眠っているという沖縄戦戦 没者の遺骨収集、戦時中のマラリア犠牲者の補償など、いわば生活の総領域に おいて今もなお沖縄戦が深く関わっている。
それ故、沖縄に「戦後」はまだ訪れていない。「沖縄は、戦後ゼロ年と戦前ゼ ロ年が連続しているのであり、今も沖縄にはヤマトゥで言うところの『戦後』 は実在せず、常に『戦前』が待ち構えている」(筆者論文「沖縄戦 70 年―自己 決定権を希求する琉球と無恥なヤマトゥ」『共生社会研究 第 11 号』所収)の である。
9