夜間中学その日その日 (1055) 白井善吾
- journalistworld0
- 10月11日
- 読了時間: 5分
カンサイタンポポとセイヨウタンポポ 2025.10.11
白と赤と黄の紙がある。赤い色のメガネをかけてみてみると、白と赤の区別はなくなる。黄色のメガネをかけてみると白と黄の区別はつかない。世の中の森羅万象も、それを見るメガネの色によってさまざまな姿を現す。坪井忠二さんの『数理のめがね』にある記述だ。
すると「夜間中学のめがね」があってもおかしくない。「夜間中学のめがね」をかけた時、何が姿を現すか?
夜間中学生は教員よりも年上の様々な職業も社会経験も豊富な人たちも加わり、10代のこどもたちも学んでいる。中国からの引揚帰国者、在日朝鮮人、そして新しく日本で暮らすようになった人たち、学齢時に就学猶予免除の扱いを受けた人たち、まったくの就学経験のない人から、中学2年生まで学んだ人たちまで、20人20通りの人たちが夜間中学生。年齢も、学年も同じ学齢の子どもたちが学ぶ昼の学校とは大きく異なる。
20人20通りの夜間中学生を前にしたとき、学齢の子どもたちの使う教科書はまずそのまま使えない。教科によっても異なる。どんな内容で授業を組み立てればいいのか相当悩んだ。転勤が決まって、改めて前任者の教材を参考にしながら、夜間中学生が書いた文集を読むことから始めた。
加えて、夜間中学では、担当教科だけでなく他の教科の授業も担当しなければならない。全教科を担当する、小学校の先生の対応が求められる。複式学級の経験はないが、1対1の授業、全体授業、複数配置授業も必要となってくる。
一つの実践例を示そう。年度の初め、教科名は理科、手書きの文字は、大きく、濃く、簡潔に書いた「たんぽぽ」の一文と花を人数分用意して学習を始めた。やはり目が行ったのがプリント、しかし一本のたんぽぽの花を見ながら言葉が出てきた。「このたんぽぽには本当に世話になった。子どものころあった、あの大飢饉の時、食べられるものは何でも食べた。たんぽぽはおいしかった」(中国残留孤児)。「私らはたんぽぽの柔らかいはっぱを摘んでよく洗ってナムルで食べます」「牛が喜んで食べるので、田の畔にはえているたんぽぽの花を見つけて株ごととってきました。お礼に牛乳を飲ませてもらいました」「私の生まれたところは白いたんぽぽばかりです。大阪では白いたんぽぽはめったに見ません」
ひとしきり夜間中学生の話が止まるのを待って、プリントを読む。一斉に声を出して、何度も読んだ。
「春に なると /たんぽぽの/ 黄色い /きれいな /花が 咲きます。/二、三日/たつと、/その 花は /しぼんで、/だんだん /黒っぽい色に /かわって いきます。/そうして/、たんぽぽの /花の軸は、/ぐったりと /地面に/ 倒れて しまいます」
次はたんぽぽの観察に取り掛かった。年配の夜間中学生は、老眼鏡のほかに、大きなレンズ(重いのが難点)を持っている。細かい部分は愛用のこれを使うが、ルーペの使い方を練習した後、気がついたことを話し始める。おしべ、めしべ、花びら、私たちがたんぽぽの花と言っている部分は、たくさんの花の集合体である。おしべ、めしべ、花びらのセットを「小花」と呼んで、小花の下が膨らんでいることを確認して、その小花の数を数えることを提案する。黒い紙の上に、小花を並べて、二人一組になって、総数を数えてもらった。各組の小花の総数を黒板に書いて、その平均を計算をして、「140」であることを確認してその時間は終わった。
もう一つ別のクラスでも同じ展開をして、小花の平均が「110」であった。
次の時間、2種類のたんぽぽの花を何組か準備して、花を見比べてその違いを見つけてもらった。「大きい・小さい」「太っている・痩せている」「日当たりの違い」・・・そのうち集合体の下の「総苞」が「反り返っている」のと「反り返っていない」、違いを確認する。「反り返っている」のは「セイヨウタンポポ」。「反り返っていない」のは「カンサイタンポポ」と名前がついて区別されている。小花の平均が「140」は「セイヨウタンポポ」。「110」は「カンサイタンポポ」で最近では「反り返り」が両者の中間のタンポポも見つかっていることを伝える。
「セイヨウタンポポ」は明治の初め、西洋から日本にやってきたお雇い外国人が食用に持参したタンポポで、在来種のカンサイタンポポと性質が随分と違うことを説明する。「セイヨウタンポポ」は「カンサイタンポポ」と比べると小さな種子をたくさんつける。一度に発芽せず休眠することができる。暑さ寒さにも強く、少しぐらい条件の悪い土壌でも育つことができる。そんな説明をする。
宅地造成などで土を掘り返したようなところでも、何年かして土が落ち着いてくると、セイヨウタンポポが生えてきます。反対に、もとの自然が残っているところはカンサイタンポポが生えています。
カンサイタンポポだけの地域を「1」。セイヨウタンポポだけの地域を「4」。両方生えていて、どちらが多いかで「2」、「3」とすると、自然の残っているところと、自然が残っていないところと図示することができる。
夜間中学は校区が広く、いろんなところから通ってこられているので、家の周辺の1・2・3・4の分類を調べて、持ち寄ることをお願いした。遠足で行ったとき、近畿夜間中学校研究会理科部会のフィールドワークで淀川の堤防、明日香、奈良公園、長居公園を歩いた時調査をし、地形図に記入した。
およそこんな展開である。この教材で私自身が克服できなかったことがある。「外来種と固有種、外来種のほうが繁殖力が優れている」とまとめた時、一人一人の夜間中学生はどのようにうけとめられたのだろう?

44回夜間中学増設運動全国交流集会で報告の機会をいただいた。メーリングリストを活用し、夜間中学資料の新聞報道、夜間中学書籍の解題、教材交流など交流を進めては。の部分は触れることができなかった。そのお詫びも込めて、夜間中学教員時代の実践を報告した。
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