夜間中学その日その日 (490) Journalist World ジャーナリスト・ワールド
- アリ通信編集委員会
- 2017年4月16日
- 読了時間: 3分
国の基本指針
「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」の7条に基づき、文部科学省は2017.04.04、「基本指針」(2017.03.31付け)を発表した。目次、本文、あわせて9ページの文書である。
一読したが、国は具体的に何をするといっているのか伝わってこない文書というのが率直な感想だ。
たとえば、「既設の夜間中学等における教育活動の充実が図られるよう、個々の生徒のニーズを踏まえ、小学校段階の内容を含め生徒の年齢・経験等の実情に応じた教育課程の編成ができることを明確化するとともに、必要な日本語指導の充実を図る」(7頁)は学習者の実態に合わせ教育課程を現場が編成して教育活動の充実をはかるようにと読み取る。
これを受け現場では創造的な実践を行い、検証を加え、教育委員会にその成果と課題を報告する。併せて、その実践を継続、裏打ちするための予算や人的配置を要求していくのであるが、これがなかなか至難である。国の基本指針はこのように書いてあるが、その通りには行かないのである。「中学校だから中学校の教育課程で」から始まって、「中学校の教科書を使っているか?」「3年で卒業でしょ」。昼の中学校の常識が幅をきかしている。これが地方教育行政の現状である。
夜間中学が設置されているところでもこの常識は頭をもたげてきて、その都度、やりとりを繰り返すことがあった。行政担当者の前任者との引き継ぎがきっちりと行われていなかったことが判明する。現場がしっかりしないといつのまにか変更されてしまっていることがある。
大阪に夜間中学が再生した1969年、開校すると同時に、多くの夜間中学生が入学した。しかし、夜間中学生が置かれている現状は厳しかった。出席率はよくなかった。毎日の生活をやりくりして、登校するが、遠距離通学、通学費用の捻出、夜間中学生だけでなく家族の健康、通学を優先させることができない就労現場、通学するため、収入が減少する夜間中学生など学びを阻害する理由は様々、給食の問題も顕在化してきた。
夜間中学生と向き合うと学習を阻害するこれら要因をどう取り除くか、避けて通ることはできなくなった。夜間中学生の想いや願いをまとめ、解決するとりくみが重要であることに気づいた。
夜間中学生共通の悩みをクラスで話合い、生徒会活動、先生との話しあい、その声を教職員組合の会議に、解決を図るとりくみを実践した。天王寺夜間中学、第1期卒業生の呼びかけで発足した「夜間中学を育てる会」(1970.9.27)は、学習条件・環境の充実を目的の一つに掲げ取り組みを開始した。無償の補食給食の実施、就学援助制度の創設、学級定数の引き下げなど少しずつ学習環境、条件を整えていった。

既設夜間中学の教育条件の評価できる部分を積極的に取り入れた基本指針を期待したがそこまでは踏み込んでいないのは残念だ。
2016年の概算要求で「15歳を過ぎた夜間中学生の就学援助に国も負担します」と来年度の予算要求に4667万円を概算要求として計上したと文科省は発表した(2015.08.30)。算出根拠は<補助率1/3> 700人×@20万円(年額)。
しかしこの時、財務省の壁は崩せなかった。法が成立した現在、国の基本指針に「学齢超過者に対する就学援助相当の補助」は明記するべきでないか。
「夜間中学等の設置の促進」のところでは「平成29年度から新たに、市町村が設置する場合だけでなく、都道府県が設置する場合においても、夜間中学等に係る教職員給与費の3分の1を国庫負担することとしたところであり、都道府県立によるものも含め、夜間中学等の設置を促す」(7頁)と記している。都道府県立の教職員給与の3分の1の国庫負担はないとしていた点を国負担するに改めた点は当然であるとはいえ、評価したい。
いずれにしても、夜間中学生の実態を深く知り、問題の解決をはかり、学びの創造を実践していける夜間中学運動の力量が問われていることは間違いない。