夜間中学その日その日 (495) Journalist World ジャーナリスト・ワールド
- アリ通信編集委員会
- 2017年6月5日
- 読了時間: 4分
モリ・カケに夜間中学は
森友学園の国有地売却問題、加計学園の獣医学部新設などで、歪められた行政の実態や国の政策決定の過程の経緯の報道がつづいている。渦中にある前川喜平 前文科省事務次官のことが筆者のご近所との日常会話でも「前川さん」と「さん」付けで語られているところに事の本質をみなさん見抜いている。

『あるものをないと言え、と文科省に迫るのはやめてほしい。松野大臣も関係する職員も可哀想だ』とも語る。前川さんは辞任後、「ふたつの夜間中学校の先生、子どもの貧困・中退対策として土曜日に学習支援を行う団体の先生として、三つのボランティア活動をしている。最近、子どもたちに因数分解をわかりやすく教えるため、『とってもやさしい数学』という学習参考書も買った」(AERA 2017.06.05)と伝えている。発言や行動の内容に人柄が表れている。
在任中はどんな発言があったか、事務次官就任後、何度も夜間中学関係の集まりに参加し、行った講演記録をあらためて読んでみた。
昨年12月、第62回全国夜間中学校研究大会に参加した前川さんは、夜間中学生の体験発表を聞いて、そのあと講演し次のように語っている。
「この方々がちゃんとした義務教育の学びの機会を逸してしまったということは、ご本人の責任では全くございません。これは、はっきり言えば文部科学省の責任です。この点につきましては文部科学省として、申し訳ないと思う次第でございます」
もっと早く文科省として夜間中学の施策を判断すべきであった。判断が遅れたばかりに、多くの義務教育未修了者を作り出してしまった。文科省の責任だ。申し訳ないといっている。このような文部官僚の発言を私は経験がない。夜間中学に対し法律違反だ、早期になくすようにするとする発言が歴代の文部大臣や官僚の常套句であった。
「個人的には(夜間中学のことを)ずっと昔からなんとかしたい、なんとか支えてあげたいと思ってまいりましたけれども、なかなか組織の中ではできないと、そういう事情がございました」。
義務教育について「義務教育というコトバは、学ぶ側の義務ではありません。学ぶ側はあくまでも権利を持っているわけであります。学ぶ権利というものは、人間固有の基本的人権であります。それを保障するために憲法は、まず、その保護者は必ず普通教育を受けさせなさいと。保護者に対して教育を受けさせる義務を課している。しかし憲法は、人権としてそれを、教育を受ける権利を保障しているわけでありますから、人権を保障する責任はどこにあるのかと。これは国にあるわけであります。したがって、国はその人権を保障する義務を負うているわけでありまして、私どもはその義務を負うている行政機関の職員である」。
夜間中学に対し、文科省がとるスタンスについて「過度の口出しはするなと。助言まではいいですけど指導という名の下に、いろいろとああしろ、こうしろいうことが起こると、これまで実践してこられた方々の努力が阻害されてしまう」「杓子定規なことはやらないように」「こういう制度を盾にとって、現場の生き生きとした活動を殺してしまうようなことはやってはいけない」「そんなことにならないように皆さん方、監視していただきたい」と語っている。
学習者の実態に合わせ、学習内容を夜間中学校長が責任を持って決めればよい。都道府県立の夜間中学があってもよい、その教員の給与の3分の1負担は国が行う等、制度変更を行い、「最低一県一校の夜間中学を」の方針を打ち出し、それが動き始めた矢先であった。
近畿夜間中学校連絡協議会の研修会で話す予定になっていた前川さんは出席できなくなり、研修会は延期になっていた。上久保(文科省教育制度改革室専門官)さんを講師に研修会が開かれた(2017.05.26)。
講演のあと、質疑があり、7人が発言をしたが、どれにも丁寧に答え、わからないことは持ち帰り調べて返事をすると言っていた。
筆者は2点質問をした。都道府県の枠を超えて、夜間中学で学べるようにできないか?二つ目に学齢を超えた人たちにも就学援助制度を創設できないか?を尋ねた。1点目は他の府県の夜間中学に学べるようにする手立ては必要だと考える。持ち帰って検討するとの回答であった。2点目については2016年度の概算要求に、4776万円の就学援助の概算要求をした。しかし財務省の査定を受け認められなかった。それで2017年度の概算要求には入れていない。予算化は必要だと考えるが、財務省の論理を崩せないからだと答えた。丁寧な回答であった。
上久保さんは研修会の最後に次のように発言した。「ようやくスタートラインに立てた。夜間中学のとりくみの後ろ盾になる、根底となる法律をようやく作ることができた。推し進めていきたい。その際、これまで夜間中学がやってこられたことを崩したくない。先生方が胸張って夜間中学生に向き合っていただけるとりくみを夜間中学の先生方と協力して進めていきたい。今現場が活発になることがあとに続く人たちの力となる」と発言した。前川さんが講演で言ったことが受け継がれていると感じた。
夜間中学生と実際に向き合った前川さんの口からどんな言葉が出てくるのだろう?