夜間中学その日その日 (551)
- アリ通信編集委員会
- 2018年2月19日
- 読了時間: 4分
『夜間中学生と本根の対話・髙野雅夫』畝傍夜間中学
「東京・荒川9中夜間中学卒業生髙野雅夫です。1964年3月18日、24歳で夜間中学を卒業して54年目になります。夜間中学卒業生であることを最高の誇りに78年間生きてきた。その私を支えてくれたのは、わが母校の夜間中学にある3つの伝統だ。一つ、夜間中学は「本根」をだす場である。二つ、かげ口をたたくな、いいたいことがあれば本人に直接言え。そして三つめは、夜間中学きた仲間はたとえ人殺しになっても仲間だ。・・」
2018年2月14日、橿原市立畝傍夜間中学で開催された「夜間中学生と本根の対話・髙野雅夫」に集まった、畝傍夜間中学の夜間中学生、卒業生、来校者、120人を前に髙野さんはこう語りはじめた。髙野さんはあえて「本音」を用いず、「本根」を使う。
「講演、授業だったら来ない。仲間と対話がしたい。夜間中学で一番大切なことについて、三ヶ月にわたる、32日間の大阪人権博物館の特別展でずっと考えてきた。
今の夜間中学は仲間を守らない夜間中学になってしまった。みんなはどう思うのかそれを聞きたい。授業ボイコットから1年、この間、何ができて何ができなかったか?」と髙野さんは夜間中学生にボールを投げた。
生徒会長が進行をおこなった。この日、教員はしゃべってはいけない。対話を聞き、教員は、何を考えたか問われているのだ。
「ひとりひとりの自覚がなくなってきている。自分のことのためだけになってきている」「先生は生徒の来れる時間に合わせ、少しの時間も大切に、生徒の熱意に応えてくれていた」「最近の先生は給料をもらうために仕事をしている」「今の先生はダメです」「昼仕事して、ボランティアでかけつけてくれる先生が多かった。楽しかった」「先生も生徒も信頼がない。お互いに信頼できるように努力しないといけない」「もう30年、お世話になっている。子どもが通っている学校の先生がかけつけて教えてくれた。学校をつくってくれた先生に頭が下がる」「私言いたい、先生と『け・ん・か』したらええ。ケンカせんとあかん」「文字を知らないからどこへでも行けた。文字を覚えると今までやってきたことがバカみたいに・・」「夜中(夜間中学のことを短く、「やちゅう」とみんなはいう)はみんなが家族なのに、先生と生徒、両者に距離を感じる。相手をもっと知らなあかん。努力して、会話できる時間をつくろう」「髙野さん、ご苦労さん。大好きになりました」「夜中は仲間がつながることが大切」「15年間夜間中学に通っていた。なぜ夜中に来たかというと、何が一番大事かというと『仲間』だ」「私は夜中へ来る前は家の中に転がされていた。でも夜中へ入りたいとずっと思っていたから、夜中へ来れた。友だちといることが一番大事やと思う。勉強ばっかりしして遊ぶことがない。会話がない。夜中はもっと元気でした。これからもっと元気に育てていってください」
途切れることはなかった。夜間中学生卒業生は、考えを述べていった。議論の流れを見届け、残り少なくなった時間をみはらかって、髙野さんはしゃべった。
「大事なことを聞きたい。留守番電話に入っていた『紙切れ一枚の卒業証書のために、入学を断られた。私はこのまま死んでいくのか』『無学の私は、毎日布団のなかで泣いています』この仲間の叫びを聞いたとき皆さんはどう考えますか?その一番の責任はオレたちにある。それを知っていて守れなかった責任はどうとればいいのか、32日間ずっと考えてきた。
1969年6月5日、天王寺夜間中学の入学式で、オレたちは『知らないことは差別だ。知ってて何もしないことはもっと大きな差別だといった』。そういったオレが、名古屋や京都の夜間中学を守れなかった。世界には10億の学びを奪われた仲間がいる」「みんなひとりひとりが持っている力と仲間の力をどこまで信じられるかだ」「天王寺の夜間中学をつくったのは8人の名乗り出た仲間と、入学式にかけつけた89人の仲間だ。夜間中学は生徒自身がつくった。関東と関西の開校の歴史は全く違う。仲間を信じてほしい、みんなはその力を持っているんだ」「夜間中学の生徒と先生は運命共同体。教師もよければ学習者もよい」「ひとりでは何もできないが、仲間を信じてやり抜く」。
髙野さんの語りは佳境にはいった。用意してきた、カレンダーを取り出した。カレンダーの裏に書いた『タカノマサオ→たかのまさお→髙野雅夫→다카노 마사오』これで78年の歴史を証明することができる。1時間の予定時間が迫ってきた。
司会者は「畝傍の夜間中学は仲間がいる場所だ」とまとめた。
学習者同士の対話を聞いた教員はどのように受け止め、どのように語るのか?マイクが向けられている。

縁の下のちから持ちで、企画から、準備とすすめていただいた夜間中学育てる会は会員ひとりひとりの特技を生かし、ノーカット版でDVDにされたと聞く。
何度も見て、教員同士で深め、夜間中学生に考えたことを話していただきたい。
夜間中学の場が持っている力と奥深さは、どの教育現場でも持っているものではないか、
重要な提起がなされた『夜間中学生と本根の対話・髙野雅夫』であった。