夜間中学その日その日 (561)
- 白井 善吾
- 2018年5月27日
- 読了時間: 5分
「公立中学校夜間学級設置検討委員会報告書」(高知県)を読んで
2018年3月26日、高知県の公立中学校夜間学級設置検討委員会は協議内容を「報告書」(http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/310301/2018021500162.html)にまとめ、県教育長に手交した。受け取った田村県教育長は「短い期間でしたが、大変中身の濃い協議をしていただき、感謝申し上げます。まだ課題も多いが、引き続き市町村教育委員会とも協議を重ねながら、できるだけ早い設置に向けて検討を進めてまいりたい」と謝辞を述べている。報告書は上記アドレスを検索すれば見ることができる。
調査研究の取り組み(検討委員会の開催・先進校視察)、公立中学校夜間学級に関する意識調査。そしてまとめ からなる32頁の報告書である。
夜間中学開設に向けた関係者そして、入学希望者の熱い想いが伝わってくる内容で、圧倒されたというのが読み終えた率直な感想である。
4回開催された検討委員会の議論の内容が詳細に記録され。その元になる、先進校視察の報告書、検討委員会事務局が検討委員会の議論に基づき詳細に内容を編み上げ準備いただいたことが読み取れる。そしてアンケート調査は、県内全ての市町村から回答のあった、1235通の意識調査の詳細な分析等、示唆に富む内容だ。
夜間中学がどのように受け止められているかということは既設の夜間中学こそ大いに学び、取り組みに活かしていくべきではと感じた。
高知県内在住の県民を対象にアンケートハガキ付リーフレット1.7万枚を作成、福祉保健所、ハローワーク、市町村役場など10種類の窓口で配布、またラジオ、テレビなど8つの手段で広報をおこない、2017年11月20から2ヶ月間の調査期間で実施した。
調査期間中、高知新聞の投書欄記事「『夜間中学生展』に学ぶ」(2017.12.15)が掲載されたことも影響したのか、県内全ての市町村から1235通(回収率17.3%)が届けられ、大きな反響で受け止められたのではないか。
・「『夜間中学』があったらよいと思いますか?」では
77%の947通が「思う」と回答。
・「『夜間中学』に通ってみたいとおもいますか?」では
344通28%が「思う」と回答。
検討委員会もアンケート調査回答の分析を詳細におこなっている。次のような記述がある。「80年代のあれた時代の子どもたちが今、40歳代から50歳代。この世代の人が夜間中学に通ってみたいと考えていることは、この方たちが受けてきたこれまでの教育のあり方にも警鐘を鳴らしていると考える」。
「1.7万通がどれだけ、県民に響くか心配していた。回答として1200通いただいた。一人でも学びたいといった人がいる限り、行政側も努力が必要だ」。
PTA協議会の検討委員は「保護者として、子どもたちの学びたいという気持ちを断ち切ることが怖い。県外はなぜ検討委員会まで立ち上げ夜間中学設置を止めたのか?・・」と開設を見合わせる判断をした他県の判断に疑問を呈した。
「県民に対して配布の7%の回答。そのうち8割が『必要』と回答したことは重みがある・・。一人でも希望者があれば学びたい気持ちを保障するべきで、『設置することが望ましい』という確認でまとめとしたい」。
「県全体から回答があって、あらゆる市町村にニーズがある状況であれば、各市町村や要所要所に設置すること必要。昼間なら高知市や安芸市でも通学可能。しかし、夜間となると郡部の方は、高知市に出てこいというのでは通えなくなる。市町村合同での設置を考えることが必要」
「夜間中学を県立で設置するのであれば、市町村ときちんと連携をおこなうこと。市町村立で設置するとしても、他の市町村との連携が必要」
「不登校生がいるから、夜間中学をつくるというのは方向性としてはおかしく、逆行するのではないか」
「予備校みたいな学習ではなく、学びの本質を大事にしてほしい」
このように、夜間中学開設を想定して、議論が展開されている。
「教育的な人間関係の中で出会い、友だちができることで育つ。そういった物理的・人的環境も含めて夜間中学校の設置を考えていただきたい」と夜間中学に勤務する教員の役割、あり方に言及する記述もある。
開設時期についても「戦後の混乱期の中で、学齢期に様々な事情によって義務教育を受けることができなかった方々が存在することを鑑みると2019(平成31)年度の開設も含めて、できるだけ早期に設置することがのぞましい」との提案がなされている。
在学年数については「3年間を基本とし、生徒の履修状況によって最大6年間までは延長を認めるということでよいのではないか」。
そして検討委員会のまとめとして
(設置の主体)
基本的には市町村が設置することが望ましい。県教育委員会がイニシャティブをとり県立での設置も見据えて、市町村と県が相互に当事者として主体性を持ちながら、十分協議をおこなう必要がある。
(設置場所)
まずは高知市に設置することが望ましい。県内の複数箇所に設置することも視野に入れて検討していく。
(教育課程)
内容については、弾力的に設定することが認められていることからも、生徒の実情に応じた柔軟な編成を求めたい。
全国夜間中学校研究大会に参加し、既設の夜間中学を視察して「学びを求める人たちの熱い思いを実感した」と記述されている。夜間中学生と同じ思いを持った学習者は県内にも必ず存在することを確信されと推察する。「まとめ」の前文の最後は「県民の多様な学びを保障するために『夜間中学の設置は必要』との結論に至った」と記述している。
高知県は高知市を中心に東は東洋町、西は宿毛市と東西に長い。報告書を読みながら、広島県の定時制高校のかつての形態を思い出した。それは、学習者が学校に通ってくるのではなく、教員が何カ所か設けられた、学びの場に出かけていく形態である。学習者が集まりやすい、公民館、中学校の空き教室が考えられる。そこに教員が出かけていくのだ。

県教育長に報告書の手交に当たり、柳林検討委員会委員長が「夜間中学は昼間の先生方にも有意義なのでは」と話したことが讀賣新聞の記事にある。私は重要な指摘だと考える。学習者の実態に寄り添い、そこから組み立てていく学びの創造は、教育のあり方の本質であり、それこそ教員の学びなのではないだろうか。
夜間中学で学びたいと回答をお寄せいただいた344人の願いに応える、公立夜間中学開設に向け開設協議会が今年度発足する。入学を切望している学習者のみならず、この取り組みに参画する教員に届けていただきたい。