夜間中学その日その日 (566)
- 白井 善吾
- 2018年6月18日
- 読了時間: 11分
「中学校夜間学級の設置促進事業」(調査研究)をよむ
文部科学省が2015年度の補正予算で募集した「中学校夜間学級の設置促進事業」(調査研究)に申請し、2016年度にそれを受け、とりくみをおこない、2017年3月時点で報告をした内容が文科省のホームページ
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/yakan/1386239.htm
で公開されている。それを批判的に読んだものだ。夜間中学開設に向けた、12自治体のとりくみ状況概要(2017.3時点)を知ることができる。 2018年3月時点の状況は次回に。これらを通して、開設される夜間中学は何が重要であるかを明らかにしたい。
2-1 長野県教育委員会(2016.05.30~2017.03.17)
・地理的要因や人口数などの状況から、中学校夜間学級に対する需要が高まっておらず、関係する団体等からの要望は多くない状況である。
・義務教育段階における不登校児童生徒については、全国平均と比較してその割合が高いことや、外国籍の児童生徒の割合が高い地域が存在するなど、潜在的な需要も考えられる。
・中学校夜間学級の就学希望者の把握などを行い、一定の需要が見込まれる地域における、中学校夜間学級設置の方向性について研究する。
・視察先 東京都世田谷立三宿中学校
・中学校夜間学級設置等に係るニーズ 2016年11月11日、調査を実施した。
・本県における中学校夜間学級について、入学希望既卒者、学齢超過の外国籍の者の受け皿として中学校夜間学級を設置することについては、現時点でのニーズは確認されなかった。
2-2 滋賀県教育委員会(~2017.03.17)
・検討会議では、県内の要望等についてニーズ調査を行い、その実態を把握して整理分析を行うとともに、他府県の先進地域を視察し、設置にあたっての課題と効果について研究する。
・今年度の取組及び成果については、別添「滋賀県中学校夜間学級の設置に関する検討会議報告」に詳細を記す。となっているが、詳細は不明。
・3回検討会議を開催。
・2010年の国勢調査では、本県における15 歳以上の義務教育不就学者は1,443 人となっている。この人数の詳細について、総務省統計局及び県統計課に確認したところ、回答者が自己申告で「未就学」を選択したということであり、詳細については確認できないということであった。そこで、当検討会議においては、中学校夜間学級の正確なニーズを把握するための調査を実施。
・中学校夜間学級の設置に関するニーズ調査 2016 年7月7日~9月1日、県内19 市町教育委員会に対して本県独自のニーズ調査を実施した。
・調査方法としては、市町教育委員会を窓口として、中学校、生涯学習、福祉、外国人、人権教育等の関係課に加え、外国人対象の学校や日本語教室等にも可能な限り照会をかけて集約 することで、各市町内の実際に近いニーズの把握を目指した。
・中学校夜間学級設置のニーズについて「ない」が8市町、「判断できない」が11市町であり、「ある」と回答した市町はなかった。
・文部科学省、県教育委員会による2回のニー ズ調査からは、中学校夜間学級の設置を求める具体的な声として表れてこなかった。
・中学校夜間学級の設置よりも、社会教育や民間団体による日本語教室や識字学級など、地域の実情に応じた教育支援の充実を考えている市町が多いことがわかった。
・京都市立洛友中学校(2016.7.6)、大阪市立天満中学校(2016.9.5)
・ニーズ調査や県外視察等を踏まえて本県の状況を検討した結果、中学校夜間学級については、現時点では、本県として学校設置を促進する状況にはないことを結論付けた。
・戦後の混乱期に義務教育が修了できなかった高齢者のニーズは減少しており、今後も減少が見込まれることから、新たなニーズとしては捉えていない。また、中学校の形式卒業者については、実態把握が困難であり、学齢期の不登校児童生徒の学びの場をどのように確保するのかを優先的に検討していくこととした。
2-3 岡山県(~2017.03.17)
・大学教官や市教委職員等による、岡山県中学校夜間学級調査研究委員会を設置
・夜間中学のニーズ調査については、12月に、夜間中学の教育内容や対象者等について記載した調査用のチラシを作成し、公民館や図書館の他、社会福祉協議会やハローワーク等に配付を依頼するとともに、市町村や自治会へも周知の協力を働きかけた
2-4山口県教育委員会(~2017.03.17)
・需要の把握方法等について調査研究を行うとともに、設置に当たっての最大の課題と考えられる教員の配置についての具体的な方策等について、既に設置している、又は設置を検討している都府県及び政令指定都市の先進的な取組を参考にした調査研究を行うこととした。
・各市町教育委員会が現在、重点的に学びの支援をすべきであると考えている対象者は、学齢期にあるが不登校等により長期欠席している児童生徒である。
・中学校夜間学級については、現時点、県内に設置する必要性は認められない。
・将来、就学機会の提供等の必要性が生じた場合には、市町教育委員会及び関係
機関との連携を十分に図り、対応を検討する。
・中学校夜間学級に関する調査研究報告書〈全17頁〉を作成。
2-5 福岡県教育委員会(~2017.03.17)
・本県には自主夜間中学が福岡市に1校、北九州市に2校あり、 永住外国人や義務教育未修了者がボランティアの指導により、読み書き等の基礎的な学習を行っている。
・両指定都市教育委員会と自主夜間中学の現状と課題、今後の受入れ方策等に関する検討会議を行うこととする。
・別紙の「調査研究の成果」がある。
2-6 岩手県(2016年7月26日~2017年3月17日)
・中学校夜間学級に対する法の趣旨に沿ったニーズは顕在化している状況ではないが、潜在的なニーズの可能性については確認することができた。
・ニーズ調査では対象者を大きく3通りに類型化(A義務教育未修了者、B不登校等による入学希望既卒者、C外国籍の入学希望者)して調査を行った。
Aの場合は対象者が高齢のため意向を確認することが非常に困難であること、
Bの場合は不登校等のため中学校に通えず十分な学習ができないまま卒業した生徒が一定数いるものの、その多くは高校に進学している状況であること、
Cの場合は、県内におよそ6,000名の外国人が在住している状況ではあるが、中学校卒業認定や高校進学を目的とした入学希望者が現時点では確認できないこと等の状況を把握できたこと
・次年度以降も定期的な調査を実施しながら中学校夜間学級について周知を図り、一定のニーズが確認されたところで改めて設置の在り方について検討が必要なこと。
2-7 宮城県 (~ 2017年3月17日)
・1000人当たりの不登校生徒数は33.7人となっており、全国でも高い水準(2014年)
・現在定時制高等学校を中心とした学び直しの機会が提供されているが、今後夜間中学を設置することにより、落ち着いた環境の中で改めて義務教育段階での学習に取り組むことができる環境を整備することができるものと考える。
・仙台市内に 設置する場合には、通学のための交通の利便性が確保される必要があること、そして仙台市教育委員会においても宮城県教育委員会と同様の課題意識をもっていることなどから、本研究は、仙台市教育委員会と共同して行う。
・大阪府及び東京都の夜間中学校等5ヵ所をそれぞれ訪問。
・本県においても学び直し、日本語習得を中心とした学習機会に対する需要は少なくないものと考えられ、夜間中学校の設置の必要性について、共通の理解を深めることができた。
・形式的卒業者と外国籍の人々では同一カリキュラムで学習することが困難な実態を把握することができた。
2-8 福島県教育委員会(~ 2017年3月17日)
・市町村教育委員会にたいし、文部科学省行政説明会を企画し中学校夜間学級についての国の動向についての共通理解を図ることができた。
・中学校夜間学級に関する第1回検討委員会を開催。検討委員として昨年度は4市を委嘱していたが、今年度は8市に拡大。
・千葉県大洲市立大洲中学校夜間学級を視察。
・「福島に公立夜間中学をつくる会」との連携を深め、情報を収集することができた。「福島に公立夜間中学をつくる 会」主催の「夜間中学を知る集い」では、検討委員のメンバー も参加。
・第2回検討委員会にて、ニーズ調査の結果をもとに県内の課題を整理する。
・TVやラジオによる視覚的・聴覚的な情報発信が実施できた。
2-9 埼玉県 (~2017年3月17日)
・設置自治体、教育課程、教職員の配置、対象、入学要件、費用負担等が課題であると考えている。
・「中学校夜間学級設置検討会議」を埼玉県教育局内に設置し、中学校夜間学級の設置について3回(予定を含む)調査研究を行った。
・「埼玉県中学校夜間学級関係市町村連絡協議会」を設置し、関係11市と課題や今後の方向性について2回協議を行った。
・他県の先進地を4校視察し、教育委員会及び中学校夜間学級の関係者から聞き取り等を行った。
・先進自治体の研究 3市の教育委員会や中学校夜間学級を視察したことで、具体的な教育活動の様子を把握することができた。また、運営上の諸課題について、実態を把握することができた。さらに、共同設置方式について研究を深めることができた。
2-10 三重県教育委員会(~2017年3月17日)
・文部科学省が2014年9月に実施した「中学校夜間学級に関する実態調査」によると、三重県には16の日本語教室等があり、高齢者や外国人等が学んでいる。
・中学校夜間学級に対する需要の可能性がある。
・中学校夜間学級設置に関する要望等の調査・分析、地理的条件も考慮した設置場所等の検討が必要である。
・三重県教育委員会、県内市町教育委員会及び県関係部局代表で構成 する「検討会議」を立ち上げ、中学校夜間学級のあり方への認識を共有しつつ、本県における中学校夜間学級設置等にかかる検討課題の洗い出し等を行った。
・先進地視察では、中学校夜間学級を設置している市区教育委員会や学校等(京都市、東京都墨田区・葛飾区・足立区)を訪問。
・県内にいわゆる自主夜間中学はないものの、それに類する日本語教室や識字教室等が多くあること等が明らかになった。(県内の日本語教室数は32箇所・13市町、外国人の子どもの学習支援教室数は8箇所・6市あるが、その他にも市町教育委員会が実施主体となっている日本語教室や識字教室等もある。)
・就学機会のさらなる充実に向けて、本県の実情を踏まえながら、市町教育委員会や関係団体等と連携し、取組を推進していきたい。
・中学校夜間学級の設置促進事業 にかかる報告書(13頁)
2-11 徳島県 (~2017年3月17日)
・1県1校設置の場合の他市町村からの入学生徒受入れについての課題や方策、入学希望既卒者への対応、教員配置と服務管理の在り方等についてさらに具体的に調査研究を進める。
・昨年度発足した市町村及び県教育委員会のメンバーによる「中学校夜間学級協議会」に県中学校長会の代表を加え、中学校現場の意見等を調査研究に反映させることができた。
・在学生徒の実態や勤務している教員の思いなどにも触れ、中学校夜間学級の果たすべき役割について、改めて認識を 深めた。
・「公立中学校夜間学級に関する意識調査」では、県内5市の教育委員会・中学校に協力を依頼し調査を実施した。約80%の教職員から回答を得ることができ、中学校教職員の中学校夜間学級への認知の度合いや「学び直し」へのニーズを把握するとともに、広報活動や教員配置についての課題が明らかになった。
・意識調査の前後に教職員向けに広報資料を作成し配布した。中学校夜間学級への理解促進への第一歩となった。
・報告書『徳島県に合う中学校夜間学級の形』《2016》を作成した。
2-12 熊本県 (~2017.03.17)
・2015年度の調査研究により、中学校夜間学級の学校運営の実際や都道府県教育委員会の施策等が明らかになった。また設置の需要については、本県の義務教育未修了の学齢超過者(2010国勢調査)、外国人住民(2015住民基本台帳人口)等についてまとめることができた。その一方で、その就学希望等は把握できなかった。
・検討会議で中学校夜間学級の設置の必要性について検討し、本県における中学校夜間学級の設置の方向性を明らかにしていく。
・「中学校夜間学級に関する実態調査」の実施 中学校夜間学級に関する実態について、2016年10月1日現在の状況を、市町村教育委員会に対して実施した。その結果、市町村や学校に対して入学等に関する問合せはなかった。議会での質問や請願は調査の時点ではなかったが、その後熊本市から12月議会で質問があったとの情報提供があった。
・視察先 ①奈良県教育委員会、奈良市教育委員会、奈良市立春日中学校
②葛飾区教育委員会、葛飾区立双葉中学校
・熊本県中学校夜間学級調査研究検討会議の実施、本年度の検討委員は、本庁関係各課に、市町村教育委員会の代表として熊本市教育委員会から2名、各管内の代表として教育事務所指導課長会会長を検討委員に加えた。
【第1回】講話 京都教育大学教育支援センター 岡田敏之教授(前洛友中学校校長)【第2回】来年度の実態調査は、国の調査を参考にして、より丁寧なニーズの把握を行い、設置形態等についても検討していく。

以上である。問題点、新たな視点、等には下線を施した。報告書が資料として添付されているところと、そうでないところがある。夜間中学現場を視察したが、応接したのは現場の管理職止まりが多かったのではないか。夜間中学生や教員と突っ込んだやりとりがおこなわれたものは少なかったのではないか。
これで開設される夜間中学は学習者の立場に立った学びの場になっていくのかとの視点で、夏、松戸でおこなわれる、夜間中学増設運動全国交流集会では2018年3月のものと合わせて、この分析と、課題を議論していただきたい。