夜間中学その日その日 (570)
- 白井 善吾
- 2018年7月12日
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夜間中学、次の展開は
国内では学校教育に関する法規はまず憲法次に、教育基本法・学校教育法・学校教育法施行令(政令)・学校教育法施行規則(省令)があり、この順位制がある。そして国際間の条約は批准すれば憲法と同列になる。
夜間中学は法にない学校だといわれてきた。明文規定が存在せず、「市町村は学齢超過の義務教育未修了者を公立の小中学校に受け入れる法的義務はないんだ」と教育委員会と交渉しているさなか、このようにいわれ、「明文規定がないのにどうして夜間中学が開設されているのか」と反問したものの、煙にまかれた若い頃の思い出がよみがえってくる。
同じ夜に開かれた定時制高校と夜間中学、定時制高校は学校教育法に明記されている。「あんたとこは学校教育法規のなかにありませんねん」、薄笑いを浮かべて、このように言った教育委員会担当者の言いぐさはいまでも忘れない。
政令である学校教育法施行令25条(市町村立小中学校等の設置廃止等についての届出)の四 分校を設置し、又は廃止しようとするとき、五 二部授業を行おうとするときの条文を根拠に夜間中学開設を求めてきた。この流れはあとで触れる「義務教育機会確保法」が施行した現在もこの届け出することは変らない。
天王寺夜間中学を見学した日教組槇枝委員長は「これまで私生児的な存在だった夜間中学を“国家の子”として認知する必要がある」と語り夜間中学設置運動を起こす方針を明らかにした(1971.10.26 朝日)。

また、1990年6月29日の日教組定期大会で「国際識字年の今年、夜間中学校を学校教育法のなかに位置づけるとりくみを進め、夜間中学校の教育条件整備にとりくみます」を運動方針と決定した。
あらためて学校教育法を1990年当時と現在とを比較した。すると義務教育学校(2015年)、中等教育学校(1998年)が加わり、そして特殊教育が特別支援教育にと名称を変えている。変えることができるんだ。いつの間にか、私はがっちりとした教育体系で変えることは至難のことだと言われ、自分たちも勝手にそう思ってしまっていた。ましてや、新たに章立てして、「夜間中学校」を起こすことは不可能なことと思ってしまっていた。
日教組の運動方針は夜間中学を学校教育法に位置付けることであった。そうすれば、学校教育法に基づき、学校教育法施行令(政令)・学校教育法施行規則(省令)が決定され、夜間中学の教育条件、学習環境が整えられるはずである。
議員立法で「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律(略・義務教育機会確保法)」の議論の時、途中から、それまで別々に議論していた夜間中学と不登校の子どもたちの議論が、それらをあわせた法律の立法化が、ある日突然持ち上がったように受け取っている。関係者にいろいろと聞いたが、理解できる話は聞けなかった。
義務教育機会確保法が施行した現在、義務教育機会確保法の政令、省令に相当するものはない。「文部科学大臣は、教育機会の確保等に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針」をだすこととか「政府は、速やかに、必要な経済的支援の在り方について検討し、必要な措置を講ずる」などと記述し、政令、省令を定めず実施している。
政府がこれまでとり続けてきた、夜間中学冷遇視の姿勢を180度変更、教育再生実行会議で夜間中学を取り上げ、「最低一県に一校の夜間中学を」と方針変更するに至った背景を考えよう。
2015年11月5日、文部科学省が開いた文部科学省初中局担当者の説明会が大阪府八尾市あった。文科省はいくつかの資料を示した。一つは「中学3年生の不登校生徒のうち指導要録上出席とされた人数」の推計だ。20年間で105,511人(平均5,276人/年)にも上ること。二点目に2010年内閣府が行った「ひきこもりに関する実態調査」でひきこもり状態の若者が69.6万人であること。三点目に総務省の「労働力調査」で15歳から34歳人口に占める若年無業者の割合が2.2%(2013年)で2002年以降1.9%~2.3%で推移している(2010国勢調査結果の人口に当てはめると61万9千人になる)。四点目に文科省の夜間中学実態調査で自主夜間中学、識字学級で学ぶ学習者の9.3%が義務教育未修了状態の人たちであること。そして、人口減少、少子化が進む中、これらの人たちが今の状態を脱し、社会的活動に参画されることが重要だ。また外国籍の人が日本で「活躍してもらう」ためにだと述べた。
文科省担当者がいった「日本で活躍してもらう」は「納税してもらうために」という意味ではないか。そのために夜間中学に役割を与え、夜間中学を活用しましょうとの意図ではないか。昼の義務教育とは別に、夜の義務教育で勉強してもらう。夜間中学で勉強できる人とそれもできない人の仕分けを夜間中学でおこなわす。そんな意図があると考える。
不登校を経験した人たちが提起した、管理や競争、差別選別の告発を受け止めることもなく、夜間中学で勉強してくださいと切断する。別の言い方をすれば、義務教育では管理・競争・差別選別をそのままに、そこからふるい落とされた人は、夜間中学へ行ってくださいという国が考える意図がみえる。
何もかも、今の教育条件、環境はそのままに、夜間中学やってください。という国の姿勢を打ち破るためには、学習者を中心に据えた、教育実践を行い、その成果と、学習者の声を背景に、夜間中学の教育条件を根本的に変えさせていく不断のとりくみが求められていると考える。
学習者を中心に据えた、教育実践を行い、どのように条件、環境を変えてきたか?関西の夜間中学の実践報告をまとめる作業は急がれる。