夜間中学その日その日 (614)
- 『生きる 闘う 学ぶ』編集委員会
- 2019年5月20日
- 読了時間: 4分
関西夜間中学運動50年を前に、2015年3月、私たちは本格的に議論を始めた。この4年間、夜間中学をめぐる情勢は激しく変化した。50年間のあゆみの議論と同時に、この変化の分析の議論にも多くの時間が必要であった。それらの議論は、「はじめに」「夜間中学の『生命線』(あゆみの最終節)」「明日の夜間中学に」で扱っている。見解を異にする方も多くいらっしゃると想像するが、ここでは、「明日の夜間中学に」を6回に分け紹介し、みなさまのご意見をお願いしたい。
きょうは6番目の記事である。
明日の夜間中学に(6)
⑥ 新渡日の外国人生徒たちの夜間中学
このように、新渡日の外国人生徒はさまざまな悩みと問題を抱えながら、日本で生活をはじめた人たちである。それらの悩みを打ち明ける最も身近な日本人は夜間中学の教員であろう。教員は聞いただけでおわりではない。共通の項目があれば、教室で話合い、授業を組み立て、問題の所在を明らかにすることを一方で試みながら、解決の方法を探るため、さまざまなところに行動することが必要だ。先に少し書いたように、夜間中学の教員の活動は教室の中で収らない。
教員の力だけでは解決できないケースは、解決の筋道を示してくれるところに、夜間中学生をつないでいくことが必要だ。学校外の協力者のネットワークづくりが求められる。

生活保護を扱うケースワーカー、職業安定所(ハローワーク)、労働基準監督署、医療機関、公共住宅関連部署、就学援助担当部署、教育委員会、入国管理事務所、など、労働、医療、保育、教育、福祉の行政機関と連携をとり、夜間中学生の立場に立って解決の方途を探ることが必要だ。
80年代末、ある夜間中学では子どもが小さく、遠方から通学しているため、夜九時に学校を出ても、家に着くのは10時、11時。子どもをそれ迄待たすわけにはいかない。夜の時間帯は通学できない、昼の時間帯に教えてほしいという要望が出てきた。教師集団で話して、昼の時間帯で授業をおこなったことがある。夜間中学だからといって「夜間」にこだわらなくてもよい。高齢者には「昼間」の時間帯の夜間中学であってもよい。まず実践をして、教育行政に働きかけ、学習環境と条件を整備させる、そんなとりくみが必要ではないか。
地域の集会所に出向き、夜間中学に毎日通学できない夜間中学生の学びの場を設けたこともある。地域住民の行事に新渡日の外国人が参加し、交流の機会を持つとりくみにつなげていった。地域住民もその学習会に参加し、中国語を学ぶ機会に発展していった。
新渡日外国人が学ぶ夜間中学に、夜間中学生の子どもが通う学校の先生たちにきてもらい、夜間中学の授業に一対一で参加していただいたことがある。先生たちが家庭訪問をしても会えないことが多く、夜間中学の教室がお互いの理解を深める機会となった。
さらに拡げて、夜間中学に親子で登校して、子どもが親である夜間中学生に日本語を教える。夜間中学生が子どもたちに母語を教える。そんなとりくみが展開できないだろうか。
多くの夜間中学では、学校公開をおこなっている。夜間中学に昼の学校からやってきて、子どもたちが夜間中学の授業を体験する。 日本語以外の言葉が行き交い、やってきた子どもたちは疎外感を体験する。そんな体験をした後、言葉が理解できず、疎外感を毎時間味わっている友だちはいないだろうか?を考える展開であった。このような学びを夜間中学生の力を借りておこなうのだ。
発展して、夜間中学生が子どもたちが学んでいる学校にでかけていって、交流をする。夜間中学生もやってきた子どもたちから、さまざまなことを学ぶことができる。
最後に夜間中学の修業年限について述べておく。義務教育の中学なんだから、修業年限は三年だというのが夜間中学設置の教育行政担当者の〝常識〟かもしれない。果たしてそうだろうか。かつて、この常識によって、卒業生が出席しない卒業式をおこない、強制卒業をさせた夜間中学があった。卒業認定権者は学校長である。教育委員会といえどもその権限はない。
夜間中学生の実態は15歳までの子どもたちにおこなっている学齢義務教育とは内容も実態も異なる。学歴も生活歴も一人ひとり異なるのだ。新渡日外国人生徒もそうである。これらの夜間中学生を十把一からげに、修業年限を一律にして、年限が来れば卒業というやり方は、夜間中学生の実態を無視したものであり、学びの保障を考えると全く現実的でないといわなければならない。
生徒一人ひとりに修業年限があってもよい。一律の修業年限で、生徒を無理矢理卒業させてしまうことがあってはならない。もしそのようなことがあれば、夜間中学で形式卒業生をつくることになる。それは、夜間中学の自己否定にほかならない。
形式卒業者が学ぶ夜間中学で、一人ひとりの不登校の原因の究明とその問題点を明確に教育全体の課題として発信していく。形式卒業者に学ぶ夜間中学として機能しながら、新渡日の夜間中学生の課題に向き合い、当たり前の学校文化を創造していく、そして教育全体に発信していく、そんな役割が明日の夜間中学には求められている。
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