夜間中学その日その日 (705)
- 夜間中学資料情報室 白井善吾
- 2020年9月1日
- 読了時間: 6分
第39回夜間中学増設運動全国交流集会
夜間中学増設運動全国交流集会は8月最後の土日、2020.08.29~30 愛知県蒲郡市、蒲郡荘で開かれた。コロナ禍の中、直前まで開催か否か、もつとすればどんな持ち方で開催出来るか、検討いただいた。学習者には参加をとどまっていただいて、スタッフ、教員関係者の集まりとなった。会場と各組織の端末をつないでオンラインの集会進行が試みられた。初の試みだ。マスク越しの音声は、聴力が減衰している私は聞き取りにくかったが、起こりうる、さまざまな場合を想定し、うまく進行するため、周到な準備と、機器の設営など、縁の下の力持ちになっていただいた。集会参加者は、会場に8名、オンラインで12~16人が参加による進行であった。

各組織の活動の状況、課題などを事前にまとめ、メーリングリストで公開、それらを事前に読み込んだものとして集会はすすめられた。まとめを読み、私は次の3点を深めたいと考えた。1点目として公立化した、川口市立芝西中学校陽春春分校、松戸市立第一中学校みらい分校そして常総市立水海道中学校夜間学級がどんな様子で出発しているのか、そして課題は?二つ目に一県最低一校の夜間中学開設をの中で、その流れに棹さす、学校教育でなく、社会教育としての夜間中学という動きがまたぞろ起っていること。そして2020国勢調査の三点だと考えた。
1.新しく開設した夜間中学の実情が、川口、松戸の両自主夜間中学には伝わっていないし、充分把握できていないことが分かった。せっかく入学した夜間中学生が(川口:78名中3名、松戸:22人中4名)と退学者があり、その理由も自主夜間中学側はつかめてないこと。常総市の夜間中学は当初25名の入学生であったが、コロナの影響か、5名が入学辞退されたとの報道があった。仮に再入学をと考えても、既に2021年度の入学者は決まっている。2022年になるとのこと。コロナの影響で入学式が遅れ、夜間中学の様子を伝える新聞報道があった。その記述が大変気になった。「不登校などで学べなかった人にとって『勉強だけでなく、社会や人について学び直すにはいい』と可能性に期待する。だが、学校側が管理を強めて一律的な教育内容を求めすぎると『夜間中学本来の良さを失わせることにつながりかねない』と警鐘を鳴らす。いじめなどで傷ついてきた生徒のことも考えれば『一人一人の生徒が自分らしく学べ、大切にされる教育が必要』と説く」と教育学者のコメントが引用されていた(《論説》茨城県内初の夜間中学 誰も取り残さない教育を 茨城新聞 2020.04.15)。
入学、開校を迎える前から、学校の対応に懸念を示すコメントである。何も問題なく進むことはありえない。問題点が明らかになり、その解決の方途を見つけ出しながら進むのが学校現場だ。退学者や、入学辞退者は何が原因でそうされたのか、明らかにし、今後に活かしていくべきではないだろうか。行政主導の夜間中学運営は、夜間中学生の実態にあわない夜間中学になっているのでは?と考えるべきだ。昼と同じことを夜間中学でやろうとしても、それは夜間中学生を学校から追いやることでしかなかった。変わるのは学校、教員だというのが身にしみて夜間中学生が教えてくれた。昼の教育は専門家、しかし夜間中学については素人であったということを私はたくさん経験した。
夜間中学の生徒会活動の重要性についても話題になった。夜間中学生から率直に授業について夜間中学生の想いを聞いてみることが必要ではないだろうか。
2022年4月、開校を目標に札幌市で「札幌市における公立夜間中学のあり方検討会議」が4回開催され、その議事録が公表されている。各委員が、さまざまな分野から参加し、話された内容は、説得力がある。一例をあげると、「一度決めたものについて夜間中学の生徒たちが正しく参画できる学校にしていただきたい」「学校評議員に生徒さんも参加していただきたい」などの指摘がある。4回にわたる会議の議事録は、既存の夜間中学現場でも、とりくみたい重要な指摘がある。関西の夜間中学ではその役割を生徒会や、「夜間中学つくり育てる会」が実行している。
2.一県に最低一校の夜間中学開設をと、とり組まれている一方、「学校教育でなく、社会教育の夜間中学を」の動きが顕著になってきていることが問題になった。一つは北海道苫小牧市のとりくみだ。さまざまな理由で就学期に義務教育を受けられなかった苫小牧市民などを対象にした学びの教室「ナナカマド教室」(苫小牧市教育委員会主催)。もう一つは岡山県が県内4カ所で行っている学び直し教室と岡山市が市内2カ所で行っている学び直し教室の例だ。当初教育委員会から夜間中学を開設するためのニーズ調査の一環だと説明があったが、説明が少しずつ変わってきた。
他に和歌山県が県内4カ所の定時制高校ではじめた「きのくに学びの教室」のとりくみがある。義務教育を終えることが出来なかった人たちなどを対象に、「国・数・英」の学習を無料で、37名が参加し2019年9月1日開講している(2019.09.02毎日新聞)。
学校教育と比べ圧倒的に安上がりの社会教育で行なおうとする動きではないかとの見方だ。それほど地方行政の財政状況は大変だ。
夜間中学1校((4クラス,100名 常勤7人で)の費用はいくら必要か?全夜中研がおこなった試算がある。諸経費680万、人件費5500万、あわせて年間運営費6180万となり、国の負担分をのぞき設置市負担は3600万円になる。(国会シンポジウム資料集2013.08.06)
こんな状況下、なりを潜めていた「社会教育路線」の考えが浮上してきたという報告だ。
夜間中学生は広域から通学している。交通費も高額になる。夜間中学生には大きな負担になる。通いたくても通えない、通学を断念する夜間中学生は多くいる。夜間中学の就学援助制度はどうしても必要だ。文科省は、財務省へ夜間中学生の就学援助を実施する概算要求をあげているが、財務省の壁は突破できていない。
「学齢時学べなかった人たちに義務教育を保障してあげましょう」との恩恵の見方でしか夜間中学を見れていない貧困さが原因だ。ここに来て夜間中学のもつ「先進性」にやっと文科省も気づかれたようだ。昼の子どもたちのみならず、教員が夜間中学生に学ぶ場が夜間中学だといってもよい。教育行政も、夜間中学生に授業料を納めるといってもいいだろう。戦後75年、日本の現代史の生き証人が夜間中学生だ。財務省担当者に説明できないのであれば、財務省担当者に夜間中学現場に来てもらえればよい。夜間中学生がわかりやすく、とちとちと語る。担当者にはそれを聞き取る感性が要求されるが。
3.「2020国勢調査」が9月14日から始まる。小学校卒、中学校卒を明確にする調査項目にやっと変更になった。全国交流集会では1980年、そして1990年の国勢調査結果を詳細に分析し、「全国に170万人」だと発表した(『ザ・夜間中学』『勉強がしたい 学校がほしい』『文字は命や学校は宝や』)。2010国勢調査の分析も「夜間中学その日その日」で報告している。夜間中学の学習内容として、この国勢調査について教材化できないだろうか。
1日目、夜の交流会でも話しは続けられた。ラインでつないでとはいかなかったが、夜1時散会となった。全員が語ることは出来なかったが、自分と「夜間中学の出会い」を聞く事ができた。重要なテーマではないか。
次回交流集会は40回を迎える。コロナ禍で今年実現しなかった、岡山での集会となる。2021年8月28~29日、新たに高知県、徳島県で開校する県立夜間中学から仲間を迎え、実施できたらと考える。