夜間中学その日その日 (754) 白井善吾
- journalistworld0
- 2021年4月26日
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「札幌市公立夜間中学設置基本計画」を読んで
札幌市教育委員会は2021年3月、「札幌市公立夜間中学設置基本計画」を公表した。まず公表に至る経過を見ておくと、2017年2月、「公立夜間中学校のすみやかな設置を求める陳情が札幌市議会で採択され、2017年10月北海道で必要な措置を協議する「夜間中学等に関する協議会」に参加し、設置場所として「札幌市内に設置することが適当」との意見集約があった。これを受け2019年1月、札幌市において設置に向けた具体的な検討が始まった。
2020年1月、「札幌市公立夜間中学に関するアンケート」を実施しその分析を基に6月「札幌市における公立夜間中学の在り方検討委員会」を設置、札幌市がめざす公立夜間中学の具体について意見集約を受け、2021年3月札幌市教育委員会は「札幌市公立夜間中学設置基本計画」を公表した。
「教育長は『札幌市として公立夜間中学の設置に向けて前向きに検討する』と述べ、開設までの期間は早ければ4、5年後と想定している」(2019.2.19 北海道新聞)この記事を眼にしたとき、私はどうしてそんなに悠長に考えられるのかと強い疑念を持った。しかしその後の運びを見ると、丁寧な分析と何よりも主役は夜間中学生だとの考えに基づいて、パブリックコメントにも丁寧に答え、31年になる札幌遠友塾自主夜間中学の実践と経験が生かされた議論と開設後を見通した議論を展開していただいた。
公立夜間中学のめざす姿として「一人ひとりの夢や願いの実現につながる多様性を尊重した学校づくり」「生徒の誰もが安心して学びの主役となれる学校の環境整備」を明記している。
自主夜間中学の実践がいかされていると思ったところを書いてみると
「国籍や年齢などの多様な生徒が在籍できるという特徴を生かし、生徒も教職員も共に学びあいながら、お互いの多様さを尊重します」
「教師が生徒の可能性を信じ、学習による伸びを積極的に認めるとともに、言語活動や芸術活動等の自己表現の機会を大切にし、生徒自身が自己の成長を実感することで学ぶ喜びと自信につながるよう支援します」
「学校行事を大切にするとともに、卒業後すぐに社会参画できることを意識した学習や体験的な学習を取り入れ、社会性を育みます」
学校の環境整備の面で次のような記述がある。
「経済的事情で学校生活を断念することがないよう、…生徒が負担する費用の低廉化への配慮に加え、就学援助に類する経済的支援の実施についても検討…給食等の提供についても検討してまいります」
と就学援助や給食についても記述しておられる。
大阪で夜間中学が再出発したとき、夜間中学生は就学援助と給食の実施を大阪府に訴えた。府は国にも予算措置を求めたが、法にうたわれていないとの回答をうけ、市立の夜間中学ではあるが広域行政の役割として、就学援助とパンと牛乳の補食給食の費用を設置市と大阪府が負担する方法で支援制度を創設した(1972年)。この制度も2008年「自助」を優先する橋下知事(当時)は十分な経過措置をとることなく、大阪独自の優れた制度を破棄した(夜間中学生は撤回を求め、さまざまなとりくみを行っている)。
基本計画で就学援助や給食について記述されたのは、2016年「教育機会確保法」公布後、札幌市が初めてではないだろうか。
重要な指摘だと考えた個所は他にもある。一つは夜間中学と様々な関係機関や団体の連携についてである。「札幌市若者支援総合センター」「公益財団法人 札幌国際プラザ」「札幌遠友塾自主夜間中学」、「市立札幌大通高校(午前・午後・夜間の三部制)」と連携をとっていく。二つに開校後も学校評議員制度を活用し、継続的な改善へとりくみを進める。三つ目に夜間中学教員への研修体制を充実と市立学校教員が夜間中学で研修する機会をつくり人事交流を行い夜間中学の理念の普及に努める等これまでの自主夜間中学の経験が生かされた提案がある。
一つ気がついたことを書くと、教育行政は夜間中学生の力をもっと借りるべきだという点である。夜間中学の生徒会が考えをまとめ、学校評議員制度の中にPTAの参加もあるだろうから、夜間中学生徒会がPTAとして考えを反映していく方法が考えられないだろうか。もう一つは夜間中学生と市立学校の教員や子どもたちが交流し夜間中学生の胸を借りるとりくみを追求いただきたいことだ。
基本計画を読んで、すでにある夜間中学もこれから始まる夜間中学も学ぶ点が多々記述されているすぐれた基本計画だと思った。
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