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夜間中学その日その日 (758)    白井善吾

  • journalistworld0
  • 2021年5月24日
  • 読了時間: 4分

 証言映画「夜間中学生」(2)             2021.05.24


 証言映画「夜間中学生」は行政管理庁の夜間中学早期廃止勧告に対し強い憤りと抗議をこめ、逆に夜間中学を開設、増設を訴える映画であるという思い込みが私にはあった。ところが映画のどの場面を見ても、早期廃止勧告への抗議の場面はなく、しかもよく聞かないとわからない、音声で一カ所それにふれていることが分かった。

 映画は1967年の冬のある日、荒川九中夜間中学の一日が大きな骨組みになる。一日といっても、始業から下校時まで、わずか3時間半。しかしこの3時間半の中に、夜間中学生の一日の残り20時間半を描き出す手法で証言映画は組み立てられている。わずか3時間半の夜間中学生の姿がすべてだと思うな。夜間中学生は三つの顔がある。つまり、労働現場、家庭(での暮らし)、そして夜間中学での三つの顔。その全体を知って、廃止勧告を出されたのか?という主張を証言映画全体で描き出している。




 1時限(5:50~6:30)。2時限(6:30~7:10)。給食(7:10~7:40)。3時限(7:40~8:20)。4時限(8:20~9:00)。掃除(9:00~9:20)。下校。どうしたことか休憩時間はとっていない。

その日の仕事を終え、切り上げ、職場から直接、夜間中学に登校する生徒、職員室のドアーを開け、「こんばんは」と挨拶をし、名札を裏返し、ロッカー室から勉強道具を持って、教室に入っていく。始業合図の「千江子鐘」が鳴り、授業が始まっていく。階段を駆け上がり、遅れて教室に入っていく音も入っている。名前を読み上げ出席をとり、先生が欠席になっている生徒の様子を夜間中学生にたずねている。数学の少人数指導で少数、分数、掛け算の九九、免許外の教科を担当している見城先生の姿も記録されている。「父の体重は64kg、子の体重は48kg、体重の比を求めよ」と問題文が黒板に書いてある。休み時間に職員室でおそらく仕事で痛めたのであろう、指の怪我の消毒をしている日下田先生、桜井先生の姿もある。給食を食べながら、談笑する様子、体育館や校庭をラニング、体操、バレーボールをしている場面。

 必ず、1日に1回は全員で集まって集会をもつことが荒川9中の伝統になっていが、この日は「…個人の価値を尊び‥」児童憲章を全員で読む音声も入っている。授業が終わって、掃除をして学校を出る。自転車に乗り、もう一度職場に戻る人、住み込みで働いている家に戻り、仕事を片付け、風呂に行くそして寝るのは次の日になっている。

 この中に、夜間中学生の家庭、仕事の顔を入れていく。今のように映像と音声が同時収録できる撮影機ではなく別々にとり、編集時に画面と同調させて仕上げていく。1本撮りきって、横浜の現像所にフィルム届ける。次に届けるときは、現像できたフィルムを持ち帰る。画面のコマ数に合わせて、入れる音声を選び出し、音声テープも編集していく。髙野さんはその作業は深夜の荒川九中で何日も泊まり込んで行ったという。

画面とは異なる音声が入っている部分が多い。映像を裏付けるインタビュー音声を入れている個所もある。

 夜間中学生が働いている職場の場面も多く取り入れている。

 精米機械を回しながら店番をしている生徒。「糠が体にこびりついて匂いがなかなか取れない」と話している。

 印刷機を回し、仕上がった印刷物を製本し、細い針先を使って糸で綴じ込んでいく作業場面。お菓子を手作業で作り仕上げていく。仕上がった部品をメッキするためメッキ液につける作業現場。小さな金属部品を一つ一つセットし、プレス機を踏む大きな音がする過酷な現場も写っている。食堂の店員、蕎麦屋の出前、築地の仲買の店員等夜間中学生の労働現場にカメラは入っている。事前に親方や働いている人の了解の上、撮影されたのであろう。夜間中学生の24時間に密着している。

 長欠になっている生徒の職場や家庭訪問をしている見城先生の背をカメラは追っている。家出をした生徒が学校に電話をしてきて、「会って話そう」「先生の家に来ないか」「どこに行ったらよい」と約束場所に出かけていく場面もある。

 生徒が病気でなくなり、病院の霊安室に行き、葬儀をし、遺骨を受け取ってきたことも教員の会話の中で語っている。

 祖父母と6人が暮らしている家庭で塚原先生と話している祖母と母親は内職の手を休めず語っている。「夜学を潰したらこの孫はどうなる」「それは犯罪だ」に対し塚原さんは「最後は裁判で闘うことになる」と語っている。唯一この場面だけが廃止勧告に触れた部分だ。

夜間中学では教科の授業をどうするかより学校に来れるように、それを阻害している原因をどう取り除けるかに教員集団として全力でぶつかっている。

 髙野さんは12/29に映画をつくることを塚原先生に話し、1/8、荒川九中に入っている。考えを伝え、夜間中学生、教員集団は真正面で受け止め、出来上がった。夜間中学生の労働現場や生活にカメラが入る。顔にボカシは入っていない。想いを受け止めた50年後の今、わたしたちは何ができるだろう。

 
 
 

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