夜間中学その日その日 (762) 白井善吾
- journalistworld0
- 2021年6月21日
- 読了時間: 4分
夜間中学が持っている場のかけがえのないもの 2021.06.21
私が夜間中学に転勤したのは教員になって19年目の春だ。そのうち11年間は同推校(同和教育推進校)で解放子ども会の担当をしながら、中学生の進路保障、生活指導に関する様々なとりくみを経験することができた。部落差別の厳しい現実の中で、逃避する子どもたちの家庭に入り、何日も話し合いをし、解放子ども会で取り上げ、学校のクラス集団や教師集団に要求するとりくみを何度も行った。うまく運ぶこともあったが、そうでないことの方が多かった。そのときは解決につながらなかったが、次につながっていくことも経験できた。
識字学級で学んでいる人たちの胸を借りたことがある。非行に走りかけた子どもを、今の環境から引き離し、自分を振り返るとりくみとしていろいろと試みたその一つとして、少し落ち着いてきたとき、識字学級にその子どもと一緒に参加することにした。親たちが学んでいる姿を見せたいと思ったことがきっかけであったが、そこで展開された学びは、その子どもに識字生が質問つけにする展開であった。「兄ちゃん、次は私のとこに来て教えて」と声をかけ、「先生の教え方より、兄ちゃんの説明の方がよくわかる」と評価をする。子どもに自信を持たせるやり方であった。前にやらかしたとんでもないことを知っていても、それに触れることなく、子どもが持っている復元力につながる自信を体験させること、そんな方法で識字学習者の力を借りることができた。何よりも一番儲かったのは、私自身かもしれない。とりくみ方法を子どもから、保護者の集団からいろいろと教えていただいたことだ。後々その時ならった手法を応用していたことに気づくことがある。
15年後、守口市に転勤してもすぐに夜間中学へとはならず、昼の現場を経験することができた。このことは、私自身にとってとてもよかったと思っている。守口市の教育風土、教育運動を短い期間だが身につけて夜間中学現場へとの先輩方の配慮だったと考えている。守口ではどんな取り組みがあり、歴史があり、何に拘りつづけているかを知り、多くの先生と知己を得て夜間中学に行くことができた。昼の教育課題と結びついた夜間中学のとりくみをというメッセージだと受け取った。夜間中学がとりくんでいることを、教職員組合や同和教育研究会などの会議で積極的に報告し、夜間中学のとりくみの普及を意識してとりくんだ。
さらに大きな役割が夜間中学に求められるようになってきた。1990年国際識字年を前に、識字活動に取り組んでいる組織の結集の動きが夜間中学に届き、その呼びかけに応え、とりくみに参加していくことを近畿夜間中学校連絡協議会として決定をした。国際識字年のとりくみを通して夜間中学開設運動に大きなうねりを起こし、夜間中学が存在することを拡げていくことをまず取り組んだ。真っ先にパンフレット『夜間中学から』の作成である。ワープロが普及し始めた頃であったが、手書きで資料や図版を切り貼りして間に合わせた。

日本は識字問題は解決済み、解決できていない外国の問題でその支援のための予算を組むというのが日本の姿勢であった。国が明らかにしない、義務教育未修了者の数として170万人だと推計していた夜間中学にその根拠を質問されたのが内山一雄(天理大学)さんであった。
内山さんは識字学級にも参加されていて、終わって帰られるとき、守口夜間中学のある京阪土居駅で乗られるので、資料を届け、話しする機会があった。夜間中学の増設を積極的に主張するために、夜間中学が今あること意味の議論を整理したらどうだろうと小沢有作(東京都立大)さんの講演録の資料をお教えいただいた。それは学校教育に示されている様式と識字運動が創りだしている様式の二つの教育様式について述べられていた。この二つの教育様式に対し夜間中学はどの位置にあるのだろう、それを明らかにしようという事になり、何度か議論をして完成させた(夜間中学その日その日 752で掲載した図表)。
昼の学校の教員を長くやってきたものとして、このように図式化することにためらいがあった。学校型教育様式で「教科書から出発」「競争」「成績で序列化」など書いたが、これらに抵抗もし、教科書を使わず自主編成授業に拘り、ささやかな実践をしてきたものにとって「学校型」と十把一絡げにすることにためらいがあった。しかし何もしなければこの大きな歯車の中で動いてしまっていた自分たちがあったことも確認し、私たちではない、「文部省の云う学校型教育様式」として一線を引いた。夜間中学は二つの教育様式の中で学校教育の場にあって限りなく「識字学級型教育」をめざすべきだというのがこの表の意味である。とはいっても、どのような受け止めがされるのだろう。夜間中学の校内研だけでなく、全夜中研大会での報告、大阪教組教研、日教組教研で「学力問題の特別分科会」「理科教育の分科会」で報告した。そこでの議論を踏まえ、修正を加え出来上がった。
「夜間中学の常識が教育全体の常識に」と考えている。見出しに書いた「夜間中学が持っている場のかけがえのないもの」はその現場を離れていっそうその重要性を増してきていると考えている。
Comments