夜間中学その日その日 (781) 白井善吾
- journalistworld0
- 2021年10月11日
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『こんばんは、夜勉です。』-大学生が夜間中学を学ぶ-(その2)
2021.10.11
本書に掲載された6人の論文はいずれも、大学4回生時にとりくまれた卒業研究を基に、新たに書き起こされたものだ。私の4回生時代を思い起こしながら読み進めていった。私の4回生は、1968~69年だ。髙野さんが大阪に乗り込み、夜間中学開設運動にとりくんだ年でもある。当時の学内の様子が、『チャリップ』に掲載されているが、教室内の壁に大きくペンキで「造反有理」と書かれた写真を見るとすぐ、50数年前に引き戻してくれる。

同級生の呼びかけに応じ、「夜勉」のような、自分たちで学習会を始めたことがある。武谷三男『弁証法の諸問題』、渡邉慧『時間』、羽仁五郎『都市の論理」がテキストであった。学生集会が断続してもたれ、10・21国際反戦デ-の御堂筋デモに農作業の合間を縫って参加したり、「何のための学問か?」と「戦争に協力する科学」など根源的な議論を行なっていた。全学ストライキが決行中で、卒業するか、卒業を拒否して闘いを継続するか、学習会参加者で意見が分かれた。私の家庭の状況はそれを許さなかった。卒業することを決めた。卒業後もその学習会は続き、合間を縫って学習会に参加し、闘いを継続する人たちと勉強会を続けた。しかし、学内で証言映画「夜間中学生」が上映されていたことは全く知らなかった。夜間中学にたどり着いたのは、21次日教組全国教研(山梨 1972年1月)になる。
4章、寺田朱李さんの『「わらじ通信」から読み解く、髙野雅夫の夜間中学存続運動』は『チャリップ』に収録された「わらじ通信」(49~571頁)さらに「わらじ通信の写真映像」を克明に読み進め、分析と考察をされたものだ。
あるとき、水本教授、寺田さんから「髙野さんは全国行脚の最初から夜間中学開設運動を主張されていたのだろうか?」と質問された。「夜間中学の開設を明確化されたのは、青森・北海道ではなく、岡山の後半でないか」といったものの、不安であった。あとで髙野さんに直接確かめたが、「中学校に通信教育 京都市教委 新年度から設置へ」(京都新聞1968.2.3)の報道を知り、急遽岡山から京都に乗り込んだときだと話された。
寺田さんは『チャリップ』の「索引」を作成しながら、克明に読み進められている。全くの驚きだ。「夜間中学のガンは夜間中学の教師だ」「あんな教師がやるのかと思うと絶望的」こんな衝撃的な記述があることは知っているが、果たして、その言葉を言わさしめる背景は一体どこにあるのかと、もう一度『チャリップ』のページを探しながらページをめくらなければならなかった。
寺田さんは「夜間中学は夜間中学『生』のために存在する」。2年間の映画上映による夜間中学存続運動の中で形成していった確固たる主張は「奪い返した「文字とコトバは知識じゃない。生きるための、闘うための武器なのだ!!武器にしない限り差別や貧困はなくならない」をあげられている。

(リバティー大阪「夜間中学生展」で掲示された「わらじ通信」写真左上)
水本さんはコラムの中で「過去の資料などなんら役にたたない。教師は未来に向かって生徒を教えていくこと」との夜間中学教員の発言を紹介して、「過去のレールがあればこそ、そこから未来をしっかりと見据えて走り出すことができると思っています。現在から過去をみると、先人が繫いだレールがしっかりと見えるはずです。その上を我々は走っているのです。そのことを寺田さんは証明してみせたのだと思っています」と書かれている。
夜間中学の元、現教員にとって耳が痛い言であるが、首肯せざるを得ない。
50年経った今、髙野さんに対し、世間常識を欠く発言があったことを髙野さんは語っている。それは水平社博物館で開いた夜間中学卒業者の会主催「第1回夜間中学生寄席」(2021.03.27)での髙野さんの発言だ。「50周年の冊子は予算がないので出さないと言う。このことを聞いたので、(PTAである夜間中学の支援組織が、不足する費用を提供するからなんとか発行できないかとの腹案を持って)天王寺夜間中学の責任者に会いにいったら、責任者は何と言ったと思います。『あなたは開設の時に尽力されたことは聞いていますが、今はこの学校と全く無関係な方ですからお帰り下さい』と言われ、どんどんドアの方に押しやられた。ちょっとでもぶつかっていたら暴力を振るわれたと言われてしまう。蹴飛ばしてやろうと思ったが、挑発に乗らないようにしたら廊下まで追い出されてしまった。これが天王寺だと思うと愕然とした」。
このやりとりを何人かの教員も聞いていたと話されているが、聞いて何ら行動が起こせていない私はこの発言者と同じかもしれない。
畝傍夜間中学では、教員の許しがたい発言に対し、夜間中学生は「ストライキ」をして抗議を行なった。連帯する夜間中学生や生徒会の動きを受け、夜間中学のPTA「橿原に夜間中学をつくり育てる会」が解決にあたったが、上の責任者を問いただすことは、夜間中学のPTAなのかもしれない。
お忙しい夜間中学の現場でしょうが、『チャリップ』をお読みになっていないみなさん、ぜひ読んでください、今の夜間中学につながる、あゆみと今の課題が浮かび上がってきますヨ。寺田さんの論文はわたしたちにそのように、語りかけていると受け止めている。
*髙野雅夫編著『チャリップ』は
白井善吾(メールアドレス zengo1214@hotmail.com)に連絡ください、10,000+送料として11,000でお送りすることができます。
*本書の編著者の水本浩典・金益見さんの出版書籍は、最寄りの書店でご注文いただくと対応できるとのことです。
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