夜間中学その日その日 (887) 白井善吾
- journalistworld0
- 2023年5月14日
- 読了時間: 4分
夜間中学の動向(2) 2023.05.15
「何らかの事情で中学校に通えなかった人たちが中学校教育を受け、中学校生活を送る夜間中学は本年度、17都道府県の44校にまで広がった。本年4月には、仙台市、千葉市、静岡県、兵庫県姫路市で開校。来年4月には、福島市、群馬県、大阪府泉佐野市、鳥取県、北九州市、佐賀県、熊本県、宮崎市で開校する予定だ」(日本教育新聞 2023.04.24)。この記事を引用しながら複雑な想いを持っている。
「どんな夜間中学が生み出されているのか、昼の学校の夜版ができて、競争が持ち込まれ、夜間中学を不登校になる人たちが生み出されるそんな夜間中学になっていくのではないのか?そんな危惧をもっているが、どう思うか?」「全国夜間中学校研究大会の資料や記録誌を見ても文科省作成の資料がそのまま何頁も収録され、それを分析し、問題点を指摘する記述がないのはどうしてなのか」
「全国夜間中学校研究会の姿勢が変わったのか?」夜間中学開設運動に関わっている方々から、同じ質問を受けた。
2019年3月に出版した『生きる 闘う 学ぶ』(解放出版社)に、読者から届いた手紙の中にあった指摘も忘れることができない。「各都道府県に1つ夜間中学を作ろうとしているが、これはすごく心配だ。敵陣に夜間中学という存在を、うまく利用されたようなものだ。オウンゴールみたいなものだ。不登校生や外国人などを、まとめて面倒みさせようというのではないか?教師などをどうやって工面し配置するのか、『学びのスラム』になりはしないか、心配だ」。
夜間中学の法制化をとり組むに当たって、近畿の夜間中学の議論の中でも夜間中学が増え、多くの義務教育未修了者が、教育を受ける権利を行使することは大切だが、夜間中学の学びに様々な規制が加わり、夜間中学でなくなってしまうことにならないかとする懸念が多く出された。「そうはならないように、これまで活動してきた。夜間中学はとりくみを進める」。全夜中研、近畿夜間中学校連絡協議会の事務局の見解表明があった(2008年)。
近畿の夜間中学のあゆみを観ても、新設の夜間中学の教員に昼の学校から転勤して、取り組みを開始した。当然、昼の学校の常識で夜間中学に当たろうとしたであろう。「中学校なんだから中学校の教科書を使って」と授業を始めたが、学習者には未就学、不就学の人たちも学んでいる。受け入れがたい学習内容では、夜間中学で学ぶ意味がない。「教科書を使って授業をしてください。教科書がほしいです」という声も多くあった。そんな現状に対し、教員と学習者、教員間で議論が在り、様々な工夫が加えられた。教材作成委員会が生まれ、夜間中学生の実態に即し、学ぶことの意味、夜間中学がどうして生まれたか、日本の近現代史の自主編成教材を持ち寄り、検討を加え発行した。
しかし、さらに厳しい現状に対する夜間中学生の声記録されている(1973.2.2 朝日新聞)。

「だけど、そこ(夜間中学)で行なわれている教育は、昼間の学校と同じ優等生中心主義で、ぼくらのような劣等生ははじき出されてしまう」
「夜間中学でも毎日きちんと行ける人はまだしあわせ。ぼくには仕事も家庭もあって、行きたくてもいけない。残業の多い職場で働いている人も同じだ。そういう連中はとり残されるしかない」
「授業がわかってもわからなくても、3年間通えばトコロテン式に卒業させられる。これではなんのために、わざわざ夜間中学にいくのか」
「昼の学校はもちろん、夜間中学でさえしょうがい者は軽度の人以外はなかなかうけいれてくれない」
「そこ(夜間中学)もぼくらを温かく迎え入れてくれるところではなかった」
この声は50年後の今も生きているコトバだ。
そして、夜間中学は様々な教訓を得た。「校門をくぐったときが入学式」「夜間中学の実態に即にて制度のほうを変える」「夜間中学生の力を学びにいかす」「夜間中学は教師の道場だ」・・・。
68回全夜中研大会記録誌には注目したい記述がある。
小学校の未就学者が多い生徒に3年間の教育課程の中味についての問いに、「算数の100ます計算とか、1年生で基礎問題にとり組ませている。教科書をやるにしても簡単な問題のみを行なうことで一通り学習する」。
在籍年数3年半の学習期間について人権の観点からどう考えるかの問いに、「諸事情を考えて6年と考えていたが4年間に変更した。たくさんの方を受け入れる方向で6年はやめることにした」。
途中でやめていく生徒の原因の問いに、
「様々な事情を抱えており,精神的な問題であったり、学習意欲の低下、実際に入学して,自分の思い描いていた学校ではないとやめていく生徒もいる」。
学習意欲の低下、思い描いた学校、様々な事情を掘り下げることで次の展開が生まれるので、生徒の原因にして去らせてしまうことは疑問だ。分科会では議論の深まりがあったのかもしれないが、記録誌からは読み取れない。
夜間中学から明らかになった「学び」について、教育行政や昼の学校現場に重大な問題提起を行なっていく夜間中学の役割を放棄してはいけない。大変なことだが、拘泥をお願いしたい。記録誌をさらに読み進めたい。
Comments