夜間中学その日その日 (900) 白井善吾
- journalistworld0
- 2023年7月24日
- 読了時間: 5分
夜間中学の存在意義(2) 2023.07.24
「夜間中学が日本の教育や社会に果たしている役割は?」と質問すればどんな答えが返ってくるだろう?
最近の新聞報道は「公立の夜間中学が、再来年度に28都道府県58校まで広がります。不登校や外国籍の人が増える中、学び直しの場としてニーズが高まる夜間中学の現状・・」の文章と、都道府県別に動きがあるところとそうでないところを色づけした日本地図がイラストで入った記事が掲載されている。
文科省も夜間中学新設準備に「新設準備2年間:1/3 ※上限400万円。開設後3年間:1/3 ※上限250万円」の予算を組んでいますと開設を促している。夜間中学の最低「一県に一校」の夜間中学の開設をとの国のかけ声がかかる中、急遽夜間中学担当になり「夜間中学についての認識を深められた教育行政担当者も少なくなかったろうと推察する。私は「文の里・天王寺夜間中学の存続を」のとりくみで、夜間中学の教員、夜間中学生、卒業生、同窓会、行政担当者、市議会議員、一般市民の方がたと話す機会が多くあった。深い認識を持った夜間中学の行政担当者に出逢うことは少なかった。縦割行政の問題かもしれないが、同じ教育委員会内で認識が共有されていない。部署が変わると「それ何?」となる。そんな現実にも出逢った。
私たちも夜間中学に勤務したとき、いろんな機会を使って、夜間中学以外の現場に、夜間中学の事を伝えることにとりくんだ。全国に中学校はその数、1万。夜間中学はたったの35校。夜間中学一校が200や300校分の役割を果たさないと世論に訴えることはできないと考えた。背伸びした議論だとも思うが、夜間中学生は夜間中学で学ぶこと通して、学ぶ意義や、喜びを綴り、文字や言葉や行動で主張してきている。自分史を綴り文集に掲載し発表すること、夜間中学のいろはカルタや授業で生まれた夜間中学生の主張を藍染めの共同作品に仕上げることなどが例だ。夜間中学の学びを閉ざされたものでなく、公開にして、夜間中学生の横に座って夜間中学の普段の学びを来校者に体験していただく取組も、30年以上続いている。夜間中学に対する正しい認識を広げるために、この取組は継続していっていただきたい。

最近、畝傍夜間中学の関係者から連絡をいただいた取り組みを紹介する。
7月7日、この日夜間中学に、昼の畝傍中学の中学生7人が1.5キロ以上離れた、畝傍夜間中学を訪問、夜間中学の授業を体験、夜間中学をつくり育てる会の会員がつくった60食の天丼の給食を一緒に食べ、横に座った夜間中学生と会話が遅くまで続いた。後日、この交流を通して感想を綴った手紙が夜間中学に届いた。その一文もお教えいただいた。
9歳の時、両親のいるブラジルに渡り、50代で日本に戻り、夜間中学に入学した夜間中学生とのやりとりが記されている。ブラジルに行く当時の新聞記事を持参した夜間中学生は自らの半生をこの中学2年生に語った。ブラジル移民はおそらく初めて聞くことではなかったかと思う。
漢字検定4級をめざす夜間中学生に、「日常で困らない程度には読み書きができていたので。私はなぜ、上をめざして勉強するのか、疑問に思って質問すると」「『せっかく日本に生まれて日本人として生きるのなら、日本人として恥じかかないようにしたいから』と言っていた。それを聞いて、私は驚きました。なぜなら、私が一度も考えたり、思いつかなかったことだからです。私もそういう考えを持ちながら、日常、勉強に取り組めたらいいなと思いました」。(この夜間中学生は)「最後に来年もまたきてねといってくれました」。「私は来年、生徒会長に立候補しようと思っていたのですが、まだ決意できていませんでした。しかしこのときの、一言で決意できました。夜間中学に行って多くのことを学び、経験できました。私は、きっと今日のことを忘れないでしょう。また生徒会以外の生徒にも、夜間中学のことを知ってほしいです。そして、今日の学びを今後に生かしていこうと思っています」
この日の出会いは、この中学生に大きな影響を与えた。夜間中学生の語りを克明に記憶し、文章をその日のうちに書いた事がわかる。この手紙を読んだ夜間中学生はさらに勇気づけられるはずだ。こんな夜間中学生が果たしている役割を夜間中学の政策を考える担当者は是非知って頂きたい。
夜間中学が果たしているこんな役割のことを先月6月27日開かれた、「大阪市教育委員会会議」で大学教員の教育委員が語っている。「天王寺中学の昼の卒業生が夜間中学生徒との交流がとても印象深く記憶に残っていると話していた。こんな貴重な経験ができる場所は多い方がいいのではないか」と発言、文の里・天王寺夜間中学の廃校に反対の意見を述べていた。
最初に書いた「夜間中学が日本の教育や社会に果たしている役割は?」に対し教育を受ける権利の保障だけではない、学びの場が夜間中学である。「点数学力」で個人を学校を地域を順位づけ、さらに「競争」を激化させ、差別と選別をつき進む、社会と教育に対峙する学びの場の役割を夜間中学が持っている。前川喜平氏は演題「夜間中学が地域を変える」で話されている。「すべての人の人権が守られている共生社会をつくるうえで、多様性をうけとめている夜間中学の役割は大きい」と。
この国がアメリカの手法を模倣した教育施策で「崩壊するアメリカの公教育」を後追いする流れを糾す役割のひとつを夜間中学はもっている。「競争」を激化させ、差別と選別をつき進む夜間中学になってはいけない。
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