夜間中学その日その日 (996) 砦通信編集委員会
夜間中学生の願いに応える夜間中学を 2024.10.12
大阪市が文の里・天王寺夜間中学を閉校し、浪速区に心和中学(学びの多様化学校いわゆる不登校特例校)に夜間部を設ける計画であることを私たちが知ったのは2021年10月24日の近畿夜間中学校生徒会役員代表者会の席であった。ずっと後になってわかったことだが、これより約2か月前、当該校の校長から教職員には伝えられ、夜間中学生には口外しないことの念押しがあったという。
夜間中学生に事実を伝え、ともに考え、とりくんでいくという姿勢を大切にしてきた夜間中学教員にとって、とても耐えられないことであっただろう。コロナが蔓延する状況下、2021年度の生徒会連合会の役員体制が発足したのは2021年10月の役員代表者会で代表顧問から伝えられた。その場にいた私も、一瞬その意味が呑み込めなかった。夜間中学生も「突然すぎて寝耳に水で、10月24日の生徒会の総会で聞いて考えたこともなかったので、本当にびっくりした」「私たちも10月の役員会で突然聞いて本当にびっくりしまして、すごくショックでした。連合生徒会の会長から頑張らないけないと、いうことを強く言っていただいて、すごく力強く思いました」と語っている。
生徒会連合会が大阪市教育委員会や市議会に対し、計画の撤回を求めて考えられる様々なことをとりくんできた。しかし納得のいく理由は聞かれず、すでに教育委員会議で決めたこととして、統廃合を強行した。2024年4月、心和中学の開校に伴い文の里夜間中学は閉校。天王寺は2027年3月まで心和中学天王寺教室として運営されることとなった。
「夜間中学教職員独自の取り組みは?」と質問を受けたが、具体的な行動は説明できなかった。夜間中学以外に伝わる、独自の取り組みはなかったのだろうか、不思議なことだ。
夜間中学卒業生や元夜間中学教職員らでつくる、「夜間中学卒業者の会」は両校校長との話し合い、教育委員会の夜間中学担当者と6回になる協議や折衝。大阪市議会への4次にわたる陳情書提出。市会「教育子ども委員会」、教育委員会会議の傍聴。市長・市議会立候補者への「公開質問」、市会議員を招いた報告集会、インターネット署名などをとりくんだ。どれも初めての取り組みであった。
市議会や教育委員会議の録画映像を見たり、議事録を読み、教育委員会の主張を分析することも重要な取り組みであった。ところが2023から2024年にかけて、議事録が半年を過ぎてもなかなか公開されず、去年の6月27日の教育委員会議録は9か月が経っても公開されなかった。それが知らないうちにアップしているという手法を大阪市はとっている。これには大変困惑した。質問に立った議員も皮肉を込め、「事前に、議事録の未定稿ということを前提に一文読ませていただいた」と言っている。遅れた理由は知らないが、2024年に入って、この滞りはなくなったようである。
改めて大阪市議会議事録を読んだ。夜間中学について議会で取り上げられることは意外と少ない。過去60年間に67件。ところが2016年から9年間に40件と集中している。
市議会で夜間中学が取り上げられるようになったのは、2016.3.15 の上田智隆(維新)委員の次の発言だ。2017年「の財源移譲に伴い夜間学級の経費も含め、義務教育の費用は全て本市が負担することとなり、本市にとっては大きな財政負担になる」との発言が契機である。様々な質問や問題提起そして教育委員会からの答弁を繰り返し、出された結論が、「天王寺・文の里を廃校に、心和中学に夜間学級を併設する」であった。
上田委員は2023.11.6の教育子ども委員会で「私がこの夜間中学校の質疑をさせてもらったのが7年前、そして不登校の特例校の開設をお願いしますと言ったのが5年前、ちょっと時間は かかりましたけども、本当にこの間、理事者の方々には努力していただき、やっと来年、この4月に開校する運びとなりました。本当に私も感謝の気持ちでいっぱいでございます」と発言している。
議会答弁のキーワーズをつなぐと教育委員会の主張は次のようになる。
夜間中学は「生徒数が減り、小規模化、一方日本語指導が必要な生徒が増加した。指導体制が十分に整えられない。天王寺中学校夜間学級では、校舎が老朽化し、永続的に活用することが困難である。そこで両校の夜間学級を統合し、心和中学校に移転することで、指導体制及び施設面が充実をし、夜間学級における多様なニーズに応じた教育内容のさらなる充実につながる。2026年度末まで現在の天王寺中学校夜間学級の教室を活用して学びの機会を保障する。心和中学のコンセプトは昼間部、夜間部合わせた全職員で全ての生徒を教育、支援していく。教職員集団の層を厚くし、一人一人の実態に即したきめ細かな教育実践が可能となる。将来的に入学希望者が増加するなどの状況が生じた場合には、全市的な状況を踏まえて適切に対応する。天王寺中学校夜間学級のこれまでの取組や歴史については、本市として大切なことであると認識している。これについて、天王寺中学校をどのような形として残していけるのかを検討する。各校がこれまで築いてきた教育の営みという歴史がなくなるものではなく、引き継がれていくものと考えている。今後、どのように教育の営みという歴史を残すかという点について、在校生や卒業生の意見も踏まえながら検討を進めていく」。
実態とはかけ離れた用語をつなげた説明である。一例をあげると、夜間中学生の「心和は4時限、天王寺は3時限授業。勉強したくて通っているのに1日に受けられる授業数になぜ差をつけるのか」「これは天王寺に残らず心和に行けと言っているようなもの」という問いに対し、教育委員会担当者は「実情に応じた教育課程の編成、授業の展開」だと答え、「実情」を用いて「(十分な教員の配置ができないという教育委員会の)実情」が真実であることをほのめかせている。そして結果的に「夜間中学生の願い」を切り捨ている。教育委員会の答弁が、いかに空疎なものか、実態を明らかにしたい。
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