夜間中学その日その日 (878) 白井善吾
- journalistworld0
- 2023年3月26日
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夜間中学の役割 2023.03.27
夜間中学に勤めていたとき教職員の勤務時間は12時45分から21時15分となっていた。授業が始まる17時30分まで、授業の準備だけでなくこの時間帯に(昼の学校とは反対に)、職員会議、校内研修、さまざまな会議やそれに伴う出張が入る。府内のみならず、府外の出張も多く入る。授業に間に合うように会議を終え、学校に戻ってくる。昼の学校では授業がおわってから職員会議や出張となるのとは反対だ。
大阪府守口市には市立の幼小中、支援学校が38校あった。昼の学校であれば、教員数も多いが、教員数が少ない夜間中学では担当する分掌も一人何役もの担当となる。一つの独立した学校として、同じ行政区の教育研究活動も同じように取り組まなくてはいけない。これをおろそかにすることは夜間中学の首を絞めることになる。各種会議に出席して、昼の学校のとりくみと課題を知ると同時に夜間中学のとりくみを報告して、夜間中学について共通認識に努めることに注意を払った。それでも、会議が佳境に入ったころ、夜間中学の授業に間に合うよう学校に戻らねばならなかった。
外国人教育、解放教育などさまざまな教育研究活動にも参加し、そこで夜間中学のとりくみを積極的に報告するよう努めた。教職員組合が行なう教育研究活動も積極的にとりくんだ。特別にレポートを作成するのではなく、夜間中学で行なっている校内研修の報告をまとめ、これ等の研究活動だけでなく全夜中研の分科会報告にも生かすなど、多くの集団議論を重ね、厚みのある内容になっていった。年度が替わると、昼の学校から教員の転勤がある。反対に夜間から昼の学校への転勤もある。この人事交流を通して、教育の課題を、夜間中学の“めがね”の普遍化を図るのだ。

夜間中学の取組の一つの柱は生徒会活動である。校内の生徒会活動のみならず、近畿夜間中学校の生徒会活動は土曜・日曜の活動となる。夜間中学生も休日にもかかわらず、生徒会活動に参加する。就学援助、補食給食復活の闘い、生徒募集活動、文の里・天王寺夜間中学存続の闘いにも、夜間中学教員は参加し、とりくみの準備や下支えは重要だ。代休が取りやすい時間編成を考えたが、とてもまるまる休むことはできなかった。少人数クラス編成を行ない、公認学級数より多い自主編成クラスで時間割を組むと持ち時間数も多く、空き時間がほとんどない毎日であった。
夜間中学生からさまざまな相談が持ち込まれる。クラスの中国引揚げ帰国者から、医療、就労、生活保護、こどもが通っている学校でのトラブル、進路相談など、勤務時間はあってないようなものであった。その日の行動について職員間の報告を大切にし、事後であっても丁寧に報告することを確認していた。突発的な動きが起っても、授業を開けることなく、別の教員が入ってカバーが行なわれていた。
「私たち、昼に勉強できませんか?」90年代中頃、何人かの夜間中学生から要求が上がった。保育園に預けている子どもと一緒に夜間中学に来て授業を受け、早々に帰っていく夜間中学生があった。家で小学生の子どもが、母親の帰りを待っているのだという。連れてきた保育園の子どもも、母親の横に静かに座っておくこともできない。他の夜間中学生の迷惑も考えると、授業中廊下に出て、子どもに言い聞かせ、また教室に入っていく。そんな様子を見かねて、職員室でこどもの相手をする試みもあったが常時はできない。夜間中学に絵本があったが、夜間中学に連れてきた子どもがその絵本を手にして、勉強が終わるのを待っていた姿が浮かんでくる。教室の壁には、クレヨンの落書きが残っていた。母親が恐縮して消そうとしたが、消えなかった落書だ。
この要求をうけ、昼の時間帯に授業をすることを職員会議で決め、始まった。始めたものの担当した教員に大きな負担となった。夜間中学の教育条件や環境を改善するためにも、先ず実践して、取組の成果と課題を明確にし、行政に改善を迫っていく方法を追求した。職員会議で、議論そして確認をし、学校現場を代表して学校長から教育委員会に要求をあげる。同時に教職員組合に要求をあげ、市、府教育委員会と交渉をする方法を追求した。
直ぐに要求が実現されることは少ないが、このとりくみは重要だ。交渉の場には夜間中学生も参加して意見を述べる。行政担当者だけでなく参加者全員の優れた学習の場になっている。近畿夜間中学校生徒会連合会も大阪府教育庁担当者と話合いの場を持ち、とりくみを行っている。
夜間中学生の実態に合せた制度の創造を追求すること、この積み重ねが、新しい学校教育のスタイルの創造につながる。夜間中学の常識を義務教育全体の常識にと言ってもよい。自己満足に終わらないように、夜間中学現場の実践を発信しながら、教育行政に変革を迫る実践を期待したい。
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